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ハイファンタジー・オンライン  作者: さんぜん円ねこ
本編 ゲームの章 大戦斧の冒険者
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-97話 アデンの魔神騒動-

 城壁に向かった組のうち、エサ子は部下として付いてきた彼らを一旦、引き留めている。

「如何為された?」

 兵士のひとりに気遣われて、

「うん、ちょ、おトイレに...」

 幼女のお願いに、兵士たちはお兄さんなり、お父さん的な配慮を示す。

「行ってきなさい、私たちはここで帰りを待っています」

 と、言ってくれた。

 エサ子は、頬を赤くして頷きとっととこと、足早に駆け出して行った。

「なんだかんだ言っても、彼女はお子様ですね」


「いやいや、こんな戦場にあって小水のひとつも出るのだから、豪胆だと俺は思うね」

 と、歴戦の兵士が走っていったエサ子をみている。

「ま、お父さん的には娘にこんな場所、きて欲しくは無いがな!」

 なんて付け足して、他の兵士もしみじみに頷いた。


 城内の制圧に尽力している隊にあった、アビゲイルの右手甲に鈍い痛みが走る。

 ズキ、ズキズキ...痛みの感覚は脈打つような、鈍痛から最後に手首を掴んで叫ぶ痛みになる。

 兵士が治癒水剤ポーションを用意して、アビゲイルの横に座り込む。

「隊長!」

 アビゲイルを心配して、150人が一斉に囲む。

「な、なんだコレ!!」



 城壁に獣のような咆哮と、断末魔が轟く。

 砦から離れて1000mあたり――敵軍は、700~600mとまだ、砦に近いところに陣を張っている。

 バリスタからの攻撃を前に後退した結果、城壁の惨状を確認できるところにあった。

「な、なんだアレは?!」

 砦の主人にして、軍閥の長は城壁の上で暴れている、人ならざる者を指して呟いた。

 この時代の主人には必ず、相談役としての祭祀プリーストが傍にいる。

「...いや、なぜ人界のど真ん中に魔物が...」


「アレは、やはり()()()()者か?!」

 当主の“そういう”とは、正に魔王軍の狂戦士を指している。

 最前線はずっと先だと思っていた――今、この場にいるすべてが口には出さないけど、想像してしまった。


 この雄叫びは、同時に砦の中にいる一行にも、当たり前だが届いている。

 地響きにも似た咆哮は、全身の毛を逆立たせるのに十分な演出と、恐怖を植え付けた。

 しかも、すべての精神抵抗魔法プロテクトを無効化していく凄まじき支配力。

「あ...た、隊長ぅ」

 アビゲイルと共に行動していた150人が意識喪失で次々と倒れていく。

 命に別状はないけど、失神とか気絶なのでリカバリー処置は後々に必要だ。

 アビゲイルも痛覚が無ければ、この支配力に飲み込まれそうな状態だった。

「エサ、ちゃ...ん」


 エサ子と共に行動していた50人も、城壁に突如湧いた黒い霧に似た異変に気付いている。

「な、なんだ?! あれは??」

 城壁を見上げるような辺りからの目撃である。

 意識が飛びそうな咆哮を受け、エサ子を心配したまま彼らは失神した。

 それは、突然の出来事だった。

 城壁の化物は、禍々しいオーラを周囲に振り撒き、雄牛のような角を生やし、巨大な黒い翼と尾をもつ。また、人身の丈をはるかに凌駕する巨大な戦斧をぶん回して人を襲っている。

 それは力任せの一撃だったり、天上からいかづちを堕としての魔法攻撃だったりと、秩序の欠片なく無計画に、そして悉くなにもかも蹂躙する恐ろし気な戦い方だ。

 最早、野蛮――いや、そこに抵抗する愚かな者がいるから殲滅するという感覚的破壊衝動のなにものでもない。城壁の至る所に爪痕が残り、そして踏み潰されたり、噛み砕かれたり、握り潰された肉塊に染められた。そうして、化物の咆哮は、制圧した城壁より次に、外へ向けられる。

 黒い禍々しいソレが、城壁の一部に足を掛けて吠えている。


「だ、ダメだ...エサちゃん...」

 アビゲイルの記憶にマルの顔が過る。

 冗談交じりに、マルが温泉宿で施した施術シーンが甦った――『滅多に起きないけど、エサちゃんを止めるすべをアビちゃんに教えとくね!』と、アビゲイルの右手甲に刻む紋は、マル曰く簡易の封印儀式だと告げた。暴れ出すむちゃくちゃ迷惑な子を落ち着かせて、冷静にさせるおまじないだと言っていたが――。

「エサちゃんって、ちょっと気難しいとこあって、癇癪持ちな子なんだよね」

 なんて、マルは微笑を浮かべてた。

 しかし、アビゲイルには、寂しがり屋で甘えん坊のちょっと変わった子にしか見えなかった。

 とても、癇癪持ちには。

 ただ、その癇癪がこれならば話は別だ。


「たしか...」

 浮かび上がる紋の手を胸に当て――。

《我は命ずる、刻まれし同胞はらからよ静まるがよい...その代価に我が灯をもって示す》

 呟いた後、ふと、アビゲイルは思う。

 あれ? 代価の灯ってなんだろう?――と。

 そして彼は、突如光り出して...ベイルアウトしていった。

 たぶん行先は、キルトニゼブの傭兵団司令部だろう。


 城壁の魔物は、霧が晴れるように弾け消える。

 断末魔か、悔しさにも似た咆哮を上げて――城壁からキラキラ光る何かが風を切って放たれた。

 砦と槍使いたちとの間にあった陣を強襲。

 数mもある巨大な戦斧が、いくらかサイズダウンしながら敵兵をなぎ倒していく様は地獄絵図だ。

 肉を裂き、はらわたをぶちまけ、粉々にされる。

「う...いや、ちょ、気持ち悪い」

 剣士が光景を見て、吐いている。

 槍使いの豪胆ぶりは正に英雄だねと、褒め称えてられた本人も直立したまま気絶していた。

「一体、何が...」

 天幕から抜け出た皇子の前には、惨状を見ていた兵士たちの嘔吐風景だけ見えている。

 辺りは暫く酸っぱい匂いに包まれた。

 


 トイレから戻ってきたエサ子は、城内の騒然さに涙目になる。

 白目を剥いて、城壁攻略組の全員が気絶しているオカルト風景。

「ひ、ひぃ...み、みんなー!!!」

 この日、彼女は目が腫れるまで大泣きしたという。

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