-93話 戦場 ①-
至る所に屍が横たわり、カラスどもが群れを成して禿げた枝の上から陰湿な視線を投げてくる。
少しばかり息のある連中だろうと一切合切、獲物と思ってみている。
墓標のような剣が大地に突き刺さり、咽返る血の匂いを風が吹き飛ばすそんな、光景の中に人影がある。
少しばかり高い丘めいた地にとてつもなく大きく見える沈みかけの太陽を背負ったような形で。
決まってカメラは、その影にズームで寄る。
腰のあたりから逆光によって黒っぽい甲冑を映し出し、ゆっくりと顎下まで動いて――カメラは、影の視線のように振り返る。まるでトーキ映画のような雰囲気で、名を呼ばれたから振り返ると、いった仕草にも感じられた。
足元に突き刺していた大戦斧を引き寄せると――。
影は、左腕を拳を握って振り上げる。
方々から木霊する雄叫びが不気味でしかない。
◆
俺の“夢”は、現実離れをしてはいるものの、リアルなショートムービーのように感じる時がある。
高性能なVRゲームなんてのをしていれば、現実と空想の垣根なんて簡単に消し飛んでしまうという専門家もあるくらいだから、おそらく似たゲームを脳が勝手に記憶野から引っ張り出して、つなぎ合わせた妄想なのかもしれない。
が、俺の役は主人公じゃない。
主人公の従者とでも言うか、アーサー王物語のベディヴィア卿のような存在だ。
こういう表現なのも、やはりどこかの作品から受けたきらいのある現象だと、俺の主治医は講釈を垂れていた。
もっとも、医者に掛かった経緯よりも気にしたのは、この“夢”が決まった間隔で襲い、支配されていく恐怖を覚えたからだ。
見るではなく、見せられていると感じたのもその時からだ。
授業中のふとした瞬間。
膝を折り、冷たい床に山折りの膝を抱えて座っている僅かな時間。
昼休みの屋上で箸を伸ばしたお弁当のひと時。
バスに乗車して家路を急ぐその時。
汗ばんだ身体をシャワーで流す僅かな時。
それぞれの時間は、僅かな一瞬で“夢”の中に入る。
まるでVR HMDを装着してあちら側のもう一つのリアルな世界に入り込んだような感覚だ。
ただ、自由に身体も満足に動かせないのでは、ゲームではなく“夢”なのだと思う。
脳が見せる窮屈な現象。
従者は、主人の重臣である。
すべての戦場において、必ず主人に浴びせられる刀傷を受ける盾の戦士だ。
ショートムービーと紹介したのは、俺が演じているその盾の戦士には、キャラクターソースがあるからだ。
想像力豊かな俺が作り上げたキャラという割には、なかなかしっかりとした背景を持つ。
サー・フレズベルグ卿という名を持ち、巨躯。
左腕に備えた大盾は武骨ながらも巨体を更に大きく魅せる補助アイテムのようなもので、戦場にある水たまりからその影を見ることが適う。恐らく俺自身もこの姿を直視できそうにない。
背中には強靭な翼を持っているし、手足の大きな人物なのに聞き手に握られた剣は普通サイズのブロードソード。
アンバランスにも程がある。
戦場にあって彼が為すべき最初にして、最後の仕事は主人の受ける傷なのだと後で知った。
あれは確か、俺が風呂に浸かっている時だった。




