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ハイファンタジー・オンライン  作者: さんぜん円ねこ
本編 ゲームの章 大戦斧の冒険者
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-89話 枢機卿 ⑤-

「ども、ぴんく☆ぱんさーのアビゲイルです」

 片手を掲げ、頭頂部の光がやや増したような雰囲気の坊さんっぽいのが挨拶してきた。

 彼は、はじまりの街のアンダーグラウンド出身者。

 盗賊クラン・“ぴんく☆ぱんさー”に所属する冒険者だ。

 世間様では、脱獄王アビゲイルと言えば、その名を知らぬ者がいない犯罪者レッドネームだろうか。

 一応、外見スキンでネームの色を確認できないが、現役のPKである槍使いと同じ真っ赤に染まっている。

「じゃ、エサちゃんを膝の上に移して仔細を話しましょう」

 と、アビゲイルは、エサ子を抱え上げると膝上にセットして太い腕をお腹に回している。

 エサ子は、珍しく上機嫌で大人しい。

 彼女は、アビゲイルの事が大好きなのだ。マルに続くふたり目の親友である。

「大方の目論見どおり、帝国の尖兵がこの国に入り込んで悪戯を仕掛けてますね。自動生成クエストの治安回復クエストの殆どは、帝国の横やりを食らった反動です。しかし冒険者ギルドに掲示された治安クエストとの差に開きがありました」

 アビゲイルは、日雇いの初心者プレイヤーを使って、集めた求人広告を机上に広げる。

 広告紙片は、未だ受ける前の段階だからクエスト期間内であれば、これに承諾というアクションを宣言すれば、いつでもクエストに関わる事が出来る。だが、紙片のどれもが時限のあるものばかりだ。

「まさか、こんなに」

 枢機卿は、治安クエストの数に驚きを隠せないでいる。

 が、槍使いはその内容に驚いている。

「こんなに軽微な筈はない!」


「そうだよ、ソレが問題なんだ。冒険者から見える外面は、街道維持や魔物狩りなどは当たり前だとしても、俺らみたいに中まで入っている状態では、流石にその()()で治安が回復するとは思えないってところだ...少なくとも、高額報酬クエストが数えられる本数は発生している筈なんだよ」


「だが、それは()()ってことなんだろ?」

 槍使いの表情が険しい。

 ある筈のものが無い怖さ。


 自動生成クエストは、システムのバランスに作用している。

 これは公式見解だ。

 例えば、初心者が身支度を整えて冒険に飛び出すその地で、大きくシステムバランスが崩れる事態に陥った時、ゲームバランスの回復に努めるようクエストが生成される。そのクエストは、多角的に多方面の分野でプレイヤーを参加させてバランスの回復に貢献させようとする。

 メインストーリーに関係なく、誰でも関われるシステムなので敷居が低い。

 また、気軽に参加できる点の評価も高い。


 ただし、そんなバランスに直結したクエストが恒常的に発生しているなんて誰も知らなかった。

 ここが本質だ――だれも知らない。


「試しに現在、解放されているフィールドで魔王軍の陣地と対峙できる地域にも仲間を派遣してみた」


「何か?」

 枢機卿が、食いついてきた。

 この話は他人ごとではない。

「両軍睨み合いという点では変わらない。メインクエストは、次のUPDアップデート待ちだったが、生成クエストの質が濃厚だった。殆ど高額報酬で、ひとつ間違えると地域のパワーバランスがひっくり返る雰囲気があった。幸い、その地域では、脳筋のスキル上げメッカだったからギリギリの段階で圧しとどまっている」


「仮にそのクエストを失敗したり、放置したら?」

 枢機卿は、口元を掌で覆いながらつぶやいた。

「クエスト自体は何度も受ける事が出来る点を考慮すると、失敗判定は累積だと思う。難易度が高くて放棄や、撤退などは失敗の数に入るか分からんけどね...少なくとも全滅とか必要物資の供給なんかで失敗したら累積値は手痛さを感じるかもしれないな。ただ、放置は不味いだろうなあ...」


「不味い?って」


「だって関わらないって事だろ? 仮に陣地に穴があって、その穴から魔物が出入りしているのに、気が付かなくてスルーしてたってのは兵隊さんとしてどうなんだ?」

 と、逆にアビゲイルが槍使いに問う。

 槍使いは顎を撫でる仕草に終始した。

「いや、確かに...そりゃ陣地なんて言わんわな」


「ちょっと事態が深刻過ぎて言葉を失いますね」


「もっともだ。放置は――あり得ないが、この国が世界の敵になり、冒険者にとっても敵となった経緯はその、重要クエストを悉く放置したからと考えると...納得できる」


「冒険者ギルドに掲示されない理由も探ってみた」


「何か、分かったか?」

 アビゲイルは、机上にクナイを数本、放る。

「これが、答えだ」


「これが? 忍者クラスの専用武器だろ...確か短剣だっけか?」


「クナイだ。帝国には、隠密というどこかで聞いたことのある集団がいる」


「この間、TVでみたー!!」

 エサ子が男の子の話し合いに首をつっこんできた。

 怒るに怒れないほど満面な笑顔だったため、アビゲイルへアイコンタクトで胸を揉みしだき黙らせた。

「国民放送でやってた時代劇か...確か」


「帝国諜報機関・公儀隠密“甲蛾衆”という」


「甲賀、しゅう?」


「いやいや、甲・蛾・衆...だ。蛾みたいな蝶々?が甲冑を着ているイメージだ」


「蝶々みたいな蛾では?」

 枢機卿のつぶやき。

 二人の視線が痛い。

「ま、この一団が発生したクエストを悉く契約し、破断させて累積値を傾かせたとこちらは考えている」


「その根拠は?」


「奴らは、プレイヤーを含めたNPC混成集団だからだ」

 衝撃的な事実の前に、エサ子の色っぽい声がかき消していく。

 揉み過ぎた――アビゲイルの膝上はしっとり冷たく、エサ子は悶えながら涙目。

 ああ、それ以上揉んだら...

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