- C 168話 カラチ沖 カスピ海海戦 4 -
案の定、フィズの心配は的中してた。
旗艦であるアトロパテス級1番艦をどこに置くかで揉めた結果、艦隊のど真ん中に置くことにした。
道連れにされる2番艦アリュート、3番艦サラユエも鈍足同士のまま、旗艦の壁役である。
いくら旧型官とは言え、流石に艦隊の旗頭が鈍足のせいで沈むのは許容できない。
いや、古い船のなので沈んでくれるのは願ってもないが。
敵の砲弾で轟沈でもするのは、どんな精神状態でも許せるものではない。
中には今でも心の支えとか思っている老獪もあるのだから。
「この陣容は?」
古参の参謀は問う。
新参の兵法家もやや言葉に詰まった。
対空概念がちょっと乏しいからで、艦隊中央に主力艦を配置して徹底防御に至る考えは、現時点でも定着しづらい。プレイヤー側では積極利用しているシーンは多いけど、そもそも航空機である飛行魔法士が、(自艦直上に)飛んでくる演出の方が圧倒的に少ないのである。
「い、いうなれば...輪形陣、と」
どよめきはある。
提唱するほど輪形ではないのだけど、あえて言うのならば――って条件がつく。
足の速いアルタバヌス級が麾下のイスマイル系巡洋艦を率いて、各艦長、群長の指揮下で単縦陣か複縦か或いは、と臨機に変化させるよう指示してあった。
各国から賠償で獲得した、軽だの重だのという巡洋艦イスマイル系は正直、兵法家にとっても未知数でしかない。
末姫の出奔後に建造された駆逐艦に、兵法家は一縷の望みを託していた。
《頼むぞ、クバ級駆逐艦!!!》
心穏やかではないのは、その駆逐艦建造計画にずっぷり嵌っているからである。
◆
戦艦の砲撃は、観測器たちにゆだねられている。
とはいえ、一方的な着弾操作となると話は単純ではない。
観測器による精確な位置情報が戦艦側に通達されないと、どんな精度の射撃装置があっても当たりようがないというのが...このゲームでの所謂、条件である。
プレイヤーには、着弾予想地点というのが表示される。
乗員NPCたちの力量やスキル、パークなどで補正されて砲弾のバラつきなどが緩和されたりする。シューティングゲームよろしく集弾性は、射撃者の力量に左右されるものという理。
NPC同士の小競り合いも同じだった。
が、観測器たちは高空で陣営の為に行動する。
やってることと言えば、空の上でのサバゲ―だ。
「埒が明かんな」
抵抗勢力の航空戦艦からは、第二陣となる直掩器が上がった。
飛行艦橋の眼下から飛び立つ少年兵たち。
末姫とは、あきらかに別の指揮系で艦隊は動いている。
他の参加者には分からないように秘匿しながら出だ。
故に航空戦艦に彼女がとらわれているのだ。
「知ってた、今回の私にはなんの力もない。せいぜい出来るのは、皆を束ねるための精神的支柱みたいなものだ」
と、フィズは嗤う。
侍従長に見せる笑顔に苦笑が混じる。
「じいは気にしなくていいよ、私も国が...いや、私の家族を助けたいのは変わらない。カラチ沖で派手な艦隊戦を仕掛けて、これを打ち負かす。うん、これに命運をかける必要があるのは分かる。スカイトバークを牛耳る悪魔たちの好き勝手にはさせたくないものだしね」
力が無いのは、ウソだ。
皇女殿下である以前に、武芸には多少なりとも自信がある。
少し前のプレイングキャラクターは、帝国の魔女と言った。
彼女は、騎士の形はしていてもやっぱり魔法使いだ。
「それでも殿下が指揮を取れば」
侍従長は悲しそうな視線を向ける。
「どうかな...小娘であることには違いない。王国の出であれば...私を知る者も少なくはないだろうけども、やはり剣を握るのが少女では...扱いにくいだろうさ、将軍も」
これが少年でも扱いにくいだろう。
神輿は軽い方がいいときく。
担ぐ方にとっての話こそ真実だ。
変にしゃしゃり出で指図でもしたら...
「考えすぎです」
「旧式でも戦艦が落ちれば」
と、その頃の艦隊戦は、少しきな臭い方向へと流れていた。
大艦隊で数で圧してたはずの抵抗勢力に、何やら陰りが見え始めた頃だった。
問題は、烏合の衆だった点だ。
◆
「まとめきれなかった、だと?!」
正確には、各国の船の連携が乱されたことにある。
スカイトバークの駆逐艦による、敵前衛部隊のかく乱が成功したのだ。
「新型のシルエットはスループのように小さく、そして強力な推進力を持っていたと?」
俄かには信じがたいが、
「紙装甲でもないとの報告が」
「なるほど最大戦力での、回避盾とでもいうべきところか。最前線の方は、どうこうするレベルでは無いな。前衛の予備兵力だけで対処して貰う外はない。こっちは水上器母艦の数が多い...すでに上がっている雷撃隊を気取られるのは困るしな」
前線の予備兵力を増せば、減る場所もあるという事になる。
これは避けねばならない。




