- C 163話 機動艦隊とクァンガイ航空隊 9 -
プレイヤー艦が率いる物資輸送船団は、ルソン島へ向けて快適な航海を続けていた。
一応、NPCからの邪魔が入る演出はある。
輸送艦は約12ノットで、縦一列にゆっくりと移動している。
これをプレイヤーは、ソロあるいは、分艦隊(2~4人の小隊編成)で護衛しきれればクエストが完了するというもの。
約20分間の条件(所謂、懲役刑)が課されてた。
難易度的に、攻撃側がややハードに設定されがちである。
それでも慣れたプレイヤーにとっては小遣い稼ぎも同然だった。
ハードモードとは大概そういうものという、共通認識がある。
攻撃側の輸送船団護衛クエストの報酬は戦功のベクトルが向いてた。
ベテランの荒稼ぎというのが先ず、根底にある。
おそらくは、そこに油断があったのだろう。
序盤のクエストではまだ、PvEで進行していく。
各陣営ごとに予定される(大規模戦に向けた)戦略ポイントが必要で、物資の輸送や参加プレイヤーの戦功・勲功の蓄積が必須となる。参加者が少なければ、少ない側、溜まり難い側に下駄が吐かされるシステムで、準備期間は約7日程度だ。
規定に到達した戦略ポイントは、大規模戦で双方が削りあうことで勝敗に影響する。
減った戦略ポイントは輸送クエストで回復する為、状況次第では守備側のボーナス効果よりも、攻撃側の方が瞬間的な戦功・勲功獲得ペースで上回る可能性もあった。
ボクが調べた限りでは、局地戦以外に逆転したケースはあまりない模様。
とは言え、絶対とはない。
少ないケースと、レアケースから参照すると、過去。
東洋vs南洋の“ビスマルク多島海海戦”があり、攻撃側の東洋艦隊は大規模戦では辛勝、後方の輸送クエストでは、過去類を見ない数による支援で圧倒したという。
何となく意地みたいな、目に見えない力を感じるものがあるね。
◇
ゲームで云うと、ソロでプレイする人もある程度多い。
時間帯のズレが傾向としてあるようで、深夜帯の海はソロプレイヤーにとって静かな海だ。
そこへ、水平線上に走る影を見る。
艦橋で足の爪を切ってた艦長が転げ落ちるまで、時間なんてそう掛からなかった。
「え、ちょ...な、なに?!」
駆逐艦3隻で構成された分艦隊の輸送船団から突如、火の手が上がる。
床で転がってる艦長へ
「敵襲です!!」
「分かってるよ、何があったん?!!」
警戒中の兵士が水平線を指さしてた。
「て、敵襲!!!!」
警鐘が鳴る前に火炎球が着弾、爆発して炎上する。
炎に包まれた甲板では、火達磨になったNPCが海へと落ちていく光景がみえた。
ウイングに出て周りをみるプレイヤーの両目には、各々の輸送船団が燃えていくのが見える。
敵襲の正体は、箒を駆る魔法士だった。
この“お舟ゲー”の時代設定は、あえて比較するならWW2初期がテーマの殴り合い。
航空母艦に当たる艦艇が、水上器母艦となる。
搭載航空兵力は当然、魔法士=魔法少女だったり、魔法少年である。
対空能力と意識が低い訳じゃない。
運用として砲撃着弾観測や、直上偵察などの方法が主であり、プレイヤー側に(操艦が)解放されていない艦種だったということ。
今までのNPCには航空兵力という認識が無かったことが挙げられる。
では、なぜ今シーズンで変化したのか。
そこがボクたちの調べるべき特異点という事になる。
ま、それはさておき。
「弾幕、痛ぇ...弾幕薄いよ! もっと下を!!!」
プレイヤー艦長がウイングに飛び出すと、火炎球が着弾。
クエスト失敗というデッドサインがHMDの画面を赤く染めた。
恐らく、リビングでプレイヤーが吠えているだろう「このクソゲーが!!」と。
ハードモードなのだから油断は大敵である。
襲撃してきた魔法士たちも、尋常じゃない数が海に堕ちていた。
「左舷に航跡確認!!」
駆逐艦は『そんな鈍足に』なんて吐き捨てて回避運動に入る。
まあ、当然60ノット前後のバレバレな航跡を見せる魚雷は敵ではない。が、後ろのNPC輸送船団からは「メーデー、メーデー」っていう救難信号を発してた。機関出力を最大にしてもせいぜい24ノット出るか?という船団だ。
仲良く縦列で行動しているのも仇だ。
「いや、マジかよ!!」
海中を奔る魚雷に砲撃してもみる。
システム的にも不確か過ぎたし、60ノットの未来予測はやや難しすぎた。
「これ、ムズゲーだろ?!」
僚艦は離れ、そんな独り言を分艦隊に投げかけ、ログアウトした。
次々に攻撃される船団、燃える輸送船。
航空兵力による蹂躙を改めて知る――後に、課金者の間でマイホームの一大改造ムーブメントが発生する。
今シーズン最初の大規模な人流であった。
素材集めに躍起になるベテラン勢。
イージーモードでは航空攻撃がないという報告が入ったのもある。
小遣い稼ぎは、ハードとレジェンドモードでしか期待できない。
先ずはクリアするべきレベルの到達。
研究は、その後という事だ。
プレイヤー艦隊を襲撃したのは、グラスノザルツ海軍・インド洋機動艦隊である。
クァンガイ領に派遣された水上器母艦の本体だ。




