- C 162話 機動艦隊とクァンガイ航空隊 8 -
新装備の39式 紺色箒A型を装備した魔法士の一群がクァンガイ航空隊に着任する。
この派遣は本国からのであると同時に、大型の水上器母艦1隻を含む連邦の機動艦隊が差し向けられたものである。
表向きは周辺地域の治安活動とする動きだとした。
「こちら、クァンガイ領のギャザース子爵です...」
紹介しておいて、参謀が視線を向けると領主の肩が上向き矢印みたいに見えた。
多分、背中から領主を見ているすべての部下が“上向き矢印”だと思ったに違いない。
「し、子爵...ですか」
現状の連邦では、貴族社会はすでに終焉している。
その爵位と権威は結び付かないのである。
「で、市長は?」
参謀は再びなで肩の領主を差して、
「ギャザース子爵が市長を歴任しております」
「つまり...それは」
「世襲制ではありませんが、飛び地領は帝国時代の名残です。かつてのいえ、王国でも名ばかりの爵位持ちが多かった為、こうして飛び地...辺境に派遣された貴族が、私財を投げ打ち家臣と共に切り拓いて町が出来ました。外見的には時代錯誤かもしれませんが」
片手を前に言葉が遮られた。
「なるほど、まあ、総督府も飛び地領には寛容であれと、言伝を頂いております。その...っ長い歴史において、貴卿らも色々あった...としておきましょう」
と、艦隊司令官は執務室のソファーに腰を下ろす。
紺色箒の魔法士たちが、飛行訓練中のようだ。
館からでも彼らの様が見て取れた。
「あちらは...新型ですか?」
やや身を乗り出した、参謀が問う。
守備隊司令官は臨時休養が明けていない為、病欠中ということになっていた。
「39式のA型です」
「と、云いますと?」
正式採用されて2年弱、最新の飛行モジュールのひとつだ。
箒の両脇下に大型のフロートが取り付けられ、足を掛けられるよう装甲化した鐙みたいなつくりだ。
また箒の下部には、弾頭装薬100kg相当の航空爆弾か或いは、可変式感応魚雷の改良型が装備できるハードポイントがあった。
ソードフィッシュの方は、スクリューの回転音を収集し、音響誘導装置にセットできれば、簡易誘導が可能であるという噂だ――実験では“妖精の地獄耳”と呼ばれた魔術式が組まれ、40~50%未満の静かな水面で2キロメートル、誘導したという記録が挙げられてある。
あくまでも連邦の技術部が“簡易”と、言葉を濁していたので命中率は静かな海の上で半々という記録であるから、誘導しないと思った方が精神衛生上過度に期待しなくていい。
まあ、それでもだ。
とうとう本格的に雷装が登場してきたことになる。
◆
魔都・台州に集まる各国の諜報員たちの前に、ひとつの珍事件が飛び込んできた。
南洋王国の内紛である。
まあ、旧オーストラリアを東西に分かち、パンダ海側・ダーウィン軍港を眼下に、新王都“カーセルキャメロット”を設けた北部地域と。旧時代の海没都市シドニー側、南部地域を支配下に置く真王家派は旧王都“クイーンズランド”に立て籠もってた。
どちらも正統なる南洋王国の主人であるという主張は変わらず、歩み寄りもなくただただ、横一列に歩んできた。どちらかが先んじれば、相手の足を引っ張って邪魔をするというのだから、手に負えない。
結果、本土空襲でもなければ一枚にまとまらなかったという悲しい話だ。
さて、対東洋王国勢力の一雄であった国は、これでほぼ完全に退場することになる。
これを仕掛けたのが...実は、ウナ部長だったりする。
その理由。
いたってシンプルな話。
ノワール・シャッスさんに掛けられていた嫌疑の有耶無耶である。
実際に取り下げられてはいる。
懸賞金を払えなくさせたのだから、彼女にどんな恨みがあろうとも国王派にはもう、手出しができる状態ではないからだが。逆に南側の真王家派には貸しが生まれた気がする。
「んにゃ、それは気にしなくていい」
と、言うのはない胸を張るウナ部長。
「魔界と疎遠になってたのは、ポータルが自然と閉じちゃってたので...」
「ふむふむ」
「...専用の掘削機で空間にゲートを作っておいたから、彼ら...えっと、クイーンズランドの人々ともう一度、交易から関係の構築を組むという話でチャラにしておいた」
って聞いてぬか喜びしてたけど。
「でも、仕事はあるからノワールさんにちゃんと受注させてね」
耳を疑ったんで、もう一度問いただす。
「いやさ、タダより怖いものはないって言うからね。世界経済にもやや影響するわけだよ...たぶんさ、マナ鉱石なんかも魔界にも流れてくるわけだ。でも、魔界ではそもそも鉱石に頼らなくとも、高濃度のマナが採取可能なんで...交易品で流れてきても困るわけ」
むせ返るような空気だと思ってたが。
まさか、そんな...。
あ、でも。
「そこで海賊の彼女が、魔界領の交易船の間に入ってくれる事を願うわけ。鉱石が流れてきたら、3割さ、報酬にするからどこかで売ってきてくれる?」
その交易船は拿捕という形で輸送用に使っていいという好条件だ。
だが...
「な、なにその疑うような目は」




