-85話 これからのおはなしは...-
キルトニゼブの外周には石を積み上げた外壁がある。
街の規模は1万を満たない程度の住民しかいないが、外から来る人々が少しだけ多い往来の要所でもあった。そのため、外周最大は外壁の数百メートルごとに番兵の詰め所があり、馬が繋がれてある。これは伝令用だ。街本来の城壁は、外壁の2倍の高さと厚みを形成して作られた。
往来と交易の両輪に適した街の大通りは、街の中心よりやや南に逸れて抜ける。
街は少し高めの丘上に作れているので、外に繋がる道はその高台の横っ腹に沿うように作られ、方向感覚が鈍る仕組みにされた。また、南から入ると街の西側を歩かされ、西側の城門を潜ると、街の東側を抜けて南の城門から出るという造りである。潜った時には、その違和感を全く感じない仕組みなのも驚かされる。
中の住人は、その2本の大通りのお陰で街を横断して買い物に行く必要がない。
やや細くて狭い道が葉脈のように張り巡らせているが、必ず広い場に出るようになっている。
ここが普段は子供たちの遊び場になっている。
かつて、カブトムシに乗って訪れた冒険者があった。
だいたいこんな本筋から離れた、地域を冒険するプレイヤーも少ない話だが、かの冒険者は、街の様子を『実践的で戦う街』と評価した。それを賜ったのが現当主である枢機卿。グレイ卿である。
彼の父上が設計し、時の枢機卿が採用したというエピソードがあった。
だから、街の根本的な構造はまだ新しい。
採用されている地域も少ないという。
キルトニゼブの領主館とその居城は――ない。
正しくは、街の景観と共に埋もれさせたといった方がいい。
高く聳える鐘楼と、尖塔を頂く城の外観に似た風貌の教会を街の中心から、幾らか外れたところ立てた。
大通りからは、鐘楼の屋根部分が城の尖塔に見える。
実際の居城はもっと北東側にある。
これも、錯覚を植え付ける為だが、なぜ、この形状なのかとするのは、地上戦における防御方法だからだ。この周辺地域は魔物が空を殆ど飛ばないし、近隣諸国とも小競り合いが続いたという経験がある。
記憶かも知れない。
領主の館は、兵の詰め所と併設されて造られ、規模は街最大である。
その場に訪れば、立派な建物だと認知できるが、僅かに離れると風景に同化する用心深さだ。
これは、領主として珍しい。
特権階級は、それを誇示することが多い。
「ここの領主の性格がつかめないな」
槍使いの呟きにエサ子は、きょとんしている。
彼女には難しいことは分からない。
「ご主人様...」
「何だ?」
視線を落とすことなく、彼女の腕を引いて館に入ろうとした。
「...おトイレに」
恥ずかしそうに小さな声で告げた。
が、上から睨みの利いたキツイ視線が降り注いできた。
「ちっ、厄介な...」
「す、すみません」
槍使いは、渋々彼女を解放した。
エサ子は何度も頭を下げて、赦しを請い、その足で草葉のどこかに消えていった。
彼女のトイレ通いはひとつの病気みたいなものだ。人目を避ける大きな衣服は、他人と視線を交わしたくないからという恐怖。トイレタイムは――リアルな世界での中身が緊張しすぎて、発症する発作だとエサ子はふたりに告げている。
が、エサ子は草場まで来るとショーツをさっと脱いでしゃがみ込んだ。
「はぁー...」
安堵感からのひと呼吸。
ほかほかと湯気立ち上る野しょん。
草場にてもぞもぞ動く黒い影――警備兵の目が光る――エサ子、身の危険まったなし...つづく!?
◆これからのおはなし
キルトニゼブ領主・グレイ卿という後ろ盾を得る一行。
彼のいち傭兵団として各地に転戦して知名度と仲間を得るのが目的となる。
その歴史的会合がはじまる。
軍師・槍使い。
傭兵団長に剣士が就任する。
エサ子はメイドだ。
幼女メイドとして世界を救う。
彼女の冒険は、これから始まる――。




