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ハイファンタジー・オンライン  作者: さんぜん円ねこ
ある場所、ある世界の原風景、さあ開演です
11/2372

- 西欧戦線 開幕 -

 南ブリテン島の完全掌握が終わったころ、徹底抗戦だー!!と息巻いていた残念な、小ブリテン島の領主がぽっきり首を垂らして臣従してきた。魔王軍の駐留地に兵が送り込まれ、村っぽいのから町、都市が出来るまで幾分も掛からなかったからだ。


 まあ、島の中にポータルがあると分かると、上陸する手間がバカらしくなった――それだけの事だ。

 以後はポータルを介して、兵員や交易商人などが出入りしている。

 恐らくは、かつて帝国が支配していた時よりも、この島の流通は活気に満ちているだろう。



「ああ、なんてお礼を言えば...」

 白エルフ族の長老が挨拶に寄ってきた。

 交易商人を手配したのは、四席のアイデアだ。

 当然、魔王に進言した。

 承認されて、交易が開始されるまでの整備の類は、四席の苦労の賜物ではある。

 まあ、そういう地味なところは余り目立たないのも事実だが――現地の人たちは、そういうひたむきな四席の姿を見ていた。

 第四軍団の獣人たちの仕事ぶりをみていた。

 魔獣や獣人の軍団は、地域の猛獣たちの動向を調べて“冒険者ギルド”誘致にも積極的に動いていた。

 これは矛盾した行動ではある。

 魔王軍と対峙したのは、人類サイドでその中には件の()()()も存在していた。

 四席もアホではない、ちゃんと誰と対峙していたか分かっている。

「宜しいのですか? 魔王軍あなたがたの情報が漏れたりしないので??」

 冒険者ギルドが入る予定の宿屋兼食堂の建設。

 その工事現場に長老がある。

 対するはオオカミの獣人だ。

「いや、別に...島の隅々まで治安を保つとしたら、それこそ隅々まで兵を送る必要がある。有事ならば...まあ、重武装な連中がうろついてても市民の気分に暗雲は立ち込めることは少ないだろう。もっとも、守られているという安心感が先に立って解消さえするだろう」


「?」


「ただなあ、こういうのは長く続くと幾ら穏やかなエルフ族も、気が短くなりかねない。精神的な汚染というのがな、ある...魔王陛下からの受け売りだがね。そういう訳で、冒険者の組合を誘致して彼らに平時から地域の治安維持ってのに従事して貰おうって事だ。見慣れた組織の連中が傍にいれば、兵士よりかは幾分かマシってなもんだろ」

 人狼は微笑んでいる。

 長老の問いにはまっすぐは答えてない。

 それでも、軍の内情が漏れても市民の安全が大事、という優しさがそこにあった。

 長老の心が温かくなった。

「ノリッジの冒険者宿が冒険者やつらの本拠地になる。だから、結構な規模になるぜえ!!!」

 エイセル王国領の国境線に差し掛かると、馬の脚がぴたりと止まった。

 国境監視塔のひとつから狼煙が上がっている。

「あれは?」

 いつもの騎士が馬車に近づいた。

 獅子の将帥たちが馬車を固め、筆頭騎士でさえ容易に近づけない。

《な、なんだ?! このプレッシャーは...》

 味方だというのに押し退けられる。

「行く手からのだとすると、この先はもう無いね」

 馬車からいつもの声だ。

 時折話し相手にと、呼ばれては道中世間話をしていたマーガレットの声。

「では...」

 最悪な事を考えて、項垂れた。

「まったく...これじゃあ、帝国大貴族たちの思う壺だというのに。いや、彼らの新しい()()()の手際か...何れにせよこちらの密偵は、私たちに事態を知らせることが精いっぱいだったってとこかな?」

《影の軍団とか言ってたけど、この程度ならリスクを惜しんで帝国子飼いの密偵を遣えば良かった》

 マーガレットはひとり爪を噛む。

「撤収し、装備を整える! 直にウォルフ・スノー王国を筆頭とした中欧連合軍が来る!!」



 ウォルフ・スノー王国の軍議会場では、歓喜に打ち震える人々があった。

 平和主義で非戦論的な、帝国皇帝を出し抜いたというのが歓喜の理由である。

 帝国の外務卿と国防卿、内務卿の三巨頭もその場にある。

「では、陛下?」

 ウォルフ・スノー王へ視線が向けられた。

 帝国皇帝の実弟という設定があり、兄想いの忠実な犬という印象がプロフィールに書かれた少年王が玉座で足を組み、ふんぞり返っていた。

 明らかに()がそこにある。

 飲みかけていたワインを床に零しながら――

「全軍に通達せよ! 西欧をわが手に!!!!」

 三巨頭が目を丸くさせ、思わず「は?!」と声にも出してしまった。

「兄の...指を噛んだ()だったか?」


「い、いま...」


「こちらは相手が熟考できない時間ときを与えて、追い詰めた。いや暴走するよう仕向けたのだから、成功したと分かればそれでいい...手筈通りに甲蛾衆には開戦の狼煙を挙げさせた、西欧あちらからな。だから破断の旨など必要ないという訳だ!!! 余は、西欧を盗るぞ!!」

 空になったグラスを内務卿へ投げ、彼はそれをキャッチした。

 王や臣下たちからも“ナイス”という声が漏れる。


 侵攻は予定調和だった。

 皇帝が例の如く“優しい王様”を演じることも分かっていた。

 だから、実弟はその()()()を利用したことになる。

 人類の敵に、西欧を分かり易く仕上げたのだ。

「さて、帝国はどうする?」

 中欧諸侯連合軍は、既に第一陣を進発させた。

 国境線に到達するのは2、3日と猶予はない。

 もう、間もなくなんて言葉が似あう。

「持ち...」


「要らぬ、この場で申せ! そして、兄の名代として兵を供出せよ!!!!」

 帝国の重鎮である前に、ただの貴族だ。

 帝国という傘があるから威張っていられる。

 庇護が無くなれば市民とて変わりもしない。

「では改めて、兵の動員を――」



 中欧諸侯連合の他に、ギルドより参加を表明した冒険者の一群がある。

 ギルドから登録し、支度金の銀1500枚は大金だった。

 ギルドで用意した軍需品という専用のアイテムを買い揃えることからクエストが始まる。


 軍功と貢献ポイントでクエストの報酬が変化するところも、()()イベントの醍醐味だとようやく認知し始める。

 ただし、この紛争イベントは戦場エリア以外でのPvEやPvPは推奨していない。

 バトルエリア内の村や町を襲った場合は、免罪符として“私掠許可”が罪状のすべて帳消しにする。

 エリア外であればレッドネームで即、賞金首となる仕組みだ。

 公に――行為ができると分かると、人は獣にもなれる。


 RPGと言えば、他人の家屋に入り込み家人に()を聞きながら、部屋の物を物色するというテレビゲームが流行った時代があった。町の中でオブジェクトを壊すと、アイテムが手に入るというのも。

 それら行為に市民の目が向くなんていうリアルな指向が生まれ――ハイファンタジー・オンラインのNPCたちは、顔をしかめて嫌悪を露にする。冒険者プレイヤーがモラルに反する行為に及べば、カルマ値を濁らせて本気で侮蔑する仕組みだ。

 そうした視線に鬱屈してた冒険者はこの紛争で鬱憤を晴らすという訳だ。

 運営にはそんな意図は無かった。


 あくまでも略奪行為も、中世の立派なロールプレイングという視点だったわけだが。

「犬畜生のような連中ばかりだと思われたくは無いな」

 剣士が黒炭化した、およそ人だったと思しき物に手を合わせる。

「もとより普段は枷が効いている。普通の人でも、理性の抑制を失えば、日頃の鬱憤...ストレスの発散というつもりで...」


「ゲームだから赦されるか? いや、違うだろ...気持ち悪いほど生身っぽいNPCだけどさ。村を焼いていい事にはならんだろ!!」

 膝をつく剣士に、長身の槍使いがあたりを見渡す。

「ああ、これは...やり過ぎだ。この世界はオブジェクトのすべてが壊せる。壊し難くてもまあ、大概は壊せるから、村だって、ああ、焼き討ちだ。兵のいない村を...これがイベントだというのなら、目的はなんなんだろうな」

 ふたりは、村を守るサイドへと転向する。

 軍功は増えないが、貢献ポイントは増加するという事実を知る。

 後、無力な人々を戦火から守るための組織めいた勢力が、冒険者によって引き継がれていく。

 新たな英雄伝説のはじまりだ。

 ダンケルクで再開を果たした“鋼鉄の腕鎧”の元団長おやじ若団長むすこ

 戦火が各地で野火のように広がりだしていることに複雑な心境となった。

「まさか人同士でまた...」


「各地の領主たちにとっては、ブリテン島の敗戦は立ち直ることのできない痛手だ。それでも今、西欧に侵攻する...感情的なそんな、ところだろう。自業自得と言えば、自業自得だが...運がなかったとも言えなくはない」

 親父の言葉に息子がいぶかしむ。

「いやな、13英雄が一角も参戦してても、押し留めることが出来なかった。かつて魔神をも撃ち滅ぼしたとかいう、伝説の血統者たちが幾らかいれば――なんて、思ってた連中からすれば落胆物だろう。俺も引退した身だ...いち戦士であれば、魔獣の一匹くらいはなんとか出来るかもしれない...がそこまでだ」


「アレは、この世界の魔物とは桁がひとつ違う...」

 剣を交えて分かった。

 サシで戦って五分。

 戦場だと、タゲを盗るのは自殺行為だ。

 五分が3~4倍に増えるのだから、タコ殴られて半殺し。

 良くて全治3日くらい、行動不能へ追いやられる。

「そんな鬱憤や陳情が領主へ挙げられる...西欧が足並みを揃えていれば、なんて方向に向かない筈はない。うちらの皇帝陛下は、話し合えばとかなんとかって人だから...今回も余計なことしでかしてる気がする...が。この侵攻速度は尋常じゃないな」


「仕込んでましたか」

 父上と、息子が続く。

 親父も頷いて――「緋色いや、水晶の足鎧クリーブあたりと合流できれば、戦争のど真ん中に行かなくて済むかもしれんな。あいつらまで参戦してると、13英雄の半分が欧州に終結することになるからな」

 乾いた笑い声だが、洒落にもならないという雰囲気がある。

 英雄の血統持ちが全員揃って、魔王軍を押し返せないとなると大問題だ。

 人々の厭戦ムードが加速する。

 最悪、白旗を挙げる国さえ出るだろう。

《それだけは...避けたいのだがなあ》

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