-72話 行商 ③-
戦斧を担いだ先折れとんがり帽子の彼女は、無事に採石場へたどり着いた。
この採石場は、中堅レベルの山師にとって、スキル上げも兼ねた金の卵である。
ただ、決して品質が高い方ではない。
しかも、このゲームシステムの嫌らしいところは、人気スポットと過疎スポットへの救済処置が極端だという事だ。
人気スポットと過疎スポットの安全圏は、隔月で変動する仕組みになっている。
システム的に過疎スポットが、(絶対に)生まれるよう設定され、産出量と品質が高くなるよう細工されているところがある。
外部の攻略サイトが1年を通して、人気スポットと過疎スポットの調査を行い実態を掴んだ。
公式アナウンスはない。ユーザーの自発的行動を推奨してて、攻略要素の回答はしない方針だ。
そして今、この採石場が安全圏内に設定されている。
安全圏内のスキル熟練度は、獲得に苦労するのが正直悩みの種である。
PKに襲撃される事無く、安心して各鉱石を掘る事が出来る時点で大きなメリットを得ている。
しかし人とは、欲張りな生き物だ。安全は第一から漏れ落ちて彼らのフォーラムでは、常に安全圏でも効率よく熟練度が欲しいという内容が目立っている。
ここに永遠の机上演習が繰り広げられる――NonPKerと、YesPKer紛争だ。
これは、不毛な戦いなので仔細は伏せるとしてだが、キルゾーンがある時点で尽きない話題だとしておこう。
要するに、過疎スポットがエリア外になっているデメリットをハイリターンで返している訳だ。
このハイリターンをエリア内にもと叫ぶ連中でフォーラムは常に大炎上を起こしていた。
この戦いは、ゲーム内でもしばしば見られる。
キルゾーン内の狩場は、あらゆるすべての職業に取って天国な顔と、地獄のような顔を見せる。
魔物の襲撃やPK或いは、休息できない不安感などだ。
山師が籠ると、なかなかその場を離れない。
産出量はエリア内よりも2割増しだと記録されているが、スキルレベルに依存しているので山師のギャザラー力が低ければ、当然獲得量も低い。そのために長期潜るのだ。
危険地帯なので、山師を守る冒険者もやはり長期潜る手伝いとなって心身ともに疲弊していく。
実入りは大きいのだが、他の冒険者の拘束時間が長いというデメリットがある。
そこで、お一人様は、相乗り馬車で安全圏へ行くのだ。
◆
「時に、何をしにここへ来られた?」
と、採石場を管理しているNPCに呼び止められるエサ子。
新規でこの採石場に訪れた冒険者は皆、一応にこのセリフを問われているようだ。
「行商ですよ、アクセサリーを販売しています」
隠す必要も無いので、彼女は素直にそう、応えている。
NPCが『ひとつ試しに見せてくれ』という。
エサ子は、サンプルの腕輪を懐から取り出す。
「これですが?」
「ほほぅー 珍しいのー」
NPCがステ面を確認する。
彼の情報は、すべてのNPCに伝達され共有化された。上で、安全圏にある冒険者すべてに通知される。
千客万来! 行商人イベント――みたいな告知だ。




