-68話 決戦前夜 ②-
天幕を引き払う傭兵連合軍。
最後の戦いだと皆々が心に決意を固める。
勇者は、何かを告げようと思ったが、その言葉をぐっと臓腑の下の方に落とし込んでいる。
言わなくても皆、分かっていることだ。
「さあ、これが最後だ! イベント終了まで楽しもう!!」
押し殺したセリフをKYなベックが拳を突き上げて叫んでいる。
皆の視線が痛い。
呆気にとらわれた勇者の姿がある。
「雰囲気を台無しにするな!」
「それを叫ぶのはお前じゃない!」
「ひっこめ、三流獣人がっ!!」
「ケモノ臭ぇーんだよ!」
「性病にすっぞ、こら!!」
「おまえ、やっぱり性病だったのか?!」
「ち、ちげぇーよ! てか、あたし言ってないもん」
などと、罵声が飛び交う。
ベックは涙目になり、グエンは憤慨する。
傭兵団の後方支援部隊は『お供できるのは此処までです』と言い残している。
ザボンの騎士の魔法使いも、聖職者だけが一緒に行くと宣言し、その数は半数以下になった。仲間からMP回復水剤を受け取っている。
勇者・アッシュは微笑んでいた。
彼らとの関わり合いは生涯の宝だと思っている。
「じゃ、行きましょうか?」
アッシュは、皆に問う。
全員がこくりと頷く。
「じゃ、このイベント以降でも使えるアイテムを渡しておくね!」
マルが、アタッカー全員に指輪をひとつ用意していた。
「なに、コレ?」
「所謂、大技即時発動アイテム」
「メグミさんに渡していたアイテムで、その効果が先刻の戦闘で実証できたから、みんなに持って貰うことにしたの...普段は溜めが必要な大技や、条件的発動を“1日1回だけで、初動のみ”というペナルティを課して実行できるアイテム」
「ま、マル?」
「公式のショップに、面白い宝石が売ってたから買っといた。おかげで、大口納品クエストランキングで手に入れたコインがすっからかん」
って、マルが苦笑している。
マルは、ステ振りを行わずに、即時発動という1点のみを追求して設計した。
加工したのは“始まりの街”にいるNPCの彫金師だ。
マルの天幕から出ていく、彼の背中が目撃されている。
「デメリットはそれだけじゃないけどね!」
「...」
「MPを1本、消費してもらいます」
「?!」
受け取った全員が、自分のステ面を確認する。
この場の連中くらいならば、MP1本くらい失っても平気だ。
ただ、デメリットが多いのは気にかかる。
「他には?」
「スタミナ消費量が半分くらいかな?」
マルがほくそ笑む。
ひきつった笑いではないが、ややそれに近い。
メグミさんの場合は、マルが調整した特注の身体によって、スタミナ消費軽減量はチートクラスだった。
メグミさん無双が可能だ。
「使いどころ、考えてね!」
恐ろしい指輪だと、皆はそれを一瞥した。
◆
最後の転移門を潜り抜けると、白亜の天上宮に即転移した。
内装から、天井画や壁、柱などの造りは、中欧の様式美に倣った荘厳な雰囲気だ。強いて挙げるなら、ベルサイユ宮殿とミラノ大聖堂を掛けわせたようなイメージがある。
城というより宗教建築物みたいな感じか。
また、城内の至る所に天使像はあるけど、それらが動き出して天使が出てくる雰囲気もない。
天上の主人が居城において、転移門から来た侵入者は外敵ではなく、一応、客人として扱われている雰囲気がある。
ただし、招かれざる客ではあるが――。
しばらく進むと、それまでの造りから一変して、天井の高い広間へと出た。
これまで、導かれるように扉が開いて、それを疑うことなく進んできた一行の先に玉座がみえている。
玉座にあるのは、女王エリザベータである。
黒く染まった3対の翼と、自信に満ちた上からの視線。
縦ロール・ドリルの髪にエロい肉体。
組んだ足を解けば、天上の入り口が垣間見えるかもしれない座り方をしている。
「ようこそ、ゲストたちよ...私の宮を汚す者たちよ」




