-67話 決戦前夜 ①-
第三の転移門があるフロアに到達すると、カブトムシが群れで天使と対峙している光景が飛び込んできた。
人のサイズから2~3倍大きなカブトムシ――戦甲虫という種族だ。
それを指揮しているのが、グエンだった。
英雄13家のひとつに生まれ、不自由な幼少期を経て今のグエン・シートが存在する。
最近では、皆に“性病”だと疑われた悲しい女の子だ。
「ドラゴンブレス!!」
彼女が騎乗しているカブトムシが、光線を放っている。
ワイバーンとか、バジリスクみたいなトカゲ種なら、正しく炎を吐いているだろう光景にカブトムシは光線を吐いて天使を粉砕していくのである。グエンはドラゴンライダーを天職として、ユニークスキルに騎乗するすべての動物が、ドラゴンブレスを吐く事が出来るという。
やや反則めいたものを持っている。
ただし、他の英雄と違って基本は騎乗動物が戦ってくれるというスタイルだ。
馬上槍を獲物として選んでいるが、剣技の類はほとんど持ち合わせていない。
口寄せで集められた戦甲虫たちの働きによって彼女の株が上がる仕組みだ。
ただ、勝ちを引き寄せるにはやや、手数が足りない。
6対の腕を持つ天使も最後とは言え、その身体の奥に守るべき門を持つ。
下級天使たちが厚い壁を作る。
自らの命を盾に変えていた。
――アーク・エクリプス!!!!
◆
ローブ姿のひょろいのが集団から抜け出た。
攻略組の中でマルだけがそれを知っている。
「あなたの強さを、みんなに見せつけてあげなさい!!」
彼女は、声援を贈った。
片手剣12連撃・ネメシス・アークと特徴を同じくする真円から対象者を強襲する、超神速の刺突剣。
真円は刺突剣の確定範囲そ示し、円の直径が狭ければ集中して、広ければ広範囲かつ、空間的に刺突の攻撃が突き抜ける攻撃スキルである。ついでにFF=フレンドファイアなどの巻き込み撃破があるので、普段は最前線から放つのがセオリーだ。
ローブが剣速で爆ぜ、黒髪ストレート・ロングが風に舞った。
鎧は白色、左腕にカイトシールド、利き腕に魔剣・蠍座の心臓と名付けられた刺突剣を持っていた。
「ルーカス?!」
ベックの呟きにザボンの騎士らが反応。
だが、それは女性だ。
「メグミさんだよ」
マルがすっと彼の横隣に立つ。
「あ?」
「そうそう、あなたが彼女をつなぎ留めた」
静かに微笑む。
カブトムシまでも巻き込んで放たれた、アーク・エクリプス。
刺突系重連続攻撃――その手数42連撃を最多記録とし、ルーカス唯一の神速剣技に記憶されている。
マルによって作られたゴーレムの性能は抜群に良かった。
服を着るような感覚で袖を通し、システムで用意されたアバターよりも感度が高い。
マルのステ面から作成されているので、HPは3本まで、MPも5本内という制約があるからアタッカーには少々バランスが悪いだろうと、マルは告げた。
しかし、メグミさんは少し困ったアイコンを浮かべながら。
「私の、ルーカスはHP2本半で、MPは1本だけ...大した違いは無いと思う」
ルーカスからのスキル移植はスムーズに行われ、彼女の身体は真にルーカスと融合された。
その身体から撃ち込まれた刺突は、記録の42を超えて48連撃へ到達。
ワールドレコード達成という文字が宙を飾った。
凄まじい勢いでポリゴンが砕け散っていく。
いや、カブトムシだけじゃなく、転移門のアーチや、何かの遺跡までも範囲にあったので吹き飛んでいくのだ。飛び込んだ時に範囲を絞れば、FFや遺物破壊までは至らなかったろう。これは、久しぶりに剣を振ったメグミさんのお茶目な失敗だ。
振り向いて、仲間の顔が引きつっているのを見て涙目になった。
◆
転移門が一部欠けたものの、使えるようだと分かると皆、安堵した。
これで壊れたら、浮遊魔法持ちがピストン輸送しなくてはならなかった。
いや、飛べるゴーレムを造れと、マルに依頼が来たかもしれない。
「マルちゃんを、疲労で殺さないでよね...」
と、メグミさんの肩や腕を揉むマル。
「じゃ、そろそろご褒美のスライム・エステしよっか?」
メグミさんの落ち込んでた顔がぱっと明るくなった。
ふたりは、天幕の奥に誂えたバスタブに移動すると、かわいいスライムたちがブラシやシャンプーをもって待っていた。
「あ、あれ?」
「なに?」
「マルちゃんが、お背中流しまーすって感じで...やらないの?」
上目使いにマルを見る。
膝をついて、柏手突き出してくねくねお願いポージング。
「もう、しょうがないなー」
その日、メグミさんはマルと他数匹のスライムたちによる夢のようなスライム・エステを受ける事が出来た。翌朝の彼女は、神々しい女神さまのように輝いていたという。




