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ハイファンタジー・オンライン  作者: さんぜん円ねこ
ある場所、ある世界の原風景、さあ開演です
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- 陰謀 -

 復員船が入港する“ダンケルク”は中立都市だ。

 人口は十数万人の亜人族が中心で、人族と共存している大陸でもわりと珍しい雰囲気がある。

 この都市まちでは、魔族と出会っても一方的な理由から殺し合いを始めては()()()()という法律が施行されている。

 いかなる種族にも、等しく侵害してはならない権利というのがあると謳っていた。

 だから、珍しい都市であるのだ。


 復員船の運用は、西欧諸国連合である。

 かつてスヴァールバル多島海海戦では、性急故に軍艦が間に合わないと訴えた国の立派な()()()()船で、帰還する複雑な気分を誰が納得できるだろうか。

 これらの船の半分でもいい軍艦が揃っていれば、スヴァールバルでの敗戦は起きなかった。

 そういう考えの者が多い。


 ダンケルクの沖合にあるガレオンの数は27隻。

 南ブリテン島の()()()()軍港(ブリテン島の浸食も激しく、ふたつに分断されただけでなく海岸線が消失した。大陸側の“ダンケルク”もかつての位置になく、内陸へ数キロメートル入り込んだ地にあった)までに12隻以上がピストン輸送している。

 恐らくは、その軍港にも沖合に、20隻以上のガレオンが停泊しているのだろう。

「不甲斐ない、私の判断ミスで部下を死なせてしまった...みすみす、だ」

 自身を責めるのは、鋼鉄の団長である。

 父の背中を見て育ったが、この戦が本格的な戦争デビューとなる。

 独り立ちして、父に褒めてもらいたかったという欲がなかったわけではない。

「いいって事は無いですが、団長が気に病む必要はないです。俺たちも()()、親父さんに認めてもらいたかったんです。あんたが出て行っても、この団は若君とともに成長してるって...そういう欲がイケなかったんですよ。身の丈を知った上で次を考える...俺たちはまだ生きてるんで、そう。生きてるんですから、次回の再戦の為に準備しなくちゃならんのですよ!!」

 と、俯いている青年の肩を掴む団員達。

 むさくるしいおっさんたちの顔がある。

 空元気だというのは見て分かる。

 しかし、ミイラみたいに包帯の目立つ彼らの目は、死んでなかった。

「きたねえつらを近づけるな、全く...はべらすなら女だろ? 男だらけじゃ臭くてかなわん!!!」

 なんて、若団長の冗句が飛ぶ。

 ダンケルクの港で放り出された“鋼鉄の腕鎧ガントレット”の面々。

 行きは1000人の兵団だったが帰りは3ないし4割弱。

 それでも、他の諸侯軍よりかは幾分か明るい。

「あ、あんたら...まだやるのかよ?」

 同じ復員船で帰ってきた別の兵士が問う。

「未だ?! これからじゃないか、魔王軍はあの島にいる...少なくとも長い戦いの最初の数ページ分の戦いしか俺たちはしてないんだからよ」

 若団長が豪快に笑い、団員たちも「ちげえねえ」と、苦笑した。

 これは吟遊詩人のネタになる。

 若い騎士の新しい英雄譚として――

 マーガレットは、馬車の中にある。

 しばらく各将軍たちと同じように鞍上にあったが、辛くなったという理由で馬車へ。

 黒き獅子の旗を掲げる軍団の中において、彼女を()()()()とバカにして嗤う者は居ない。

 また、心配し過ぎるような輩もいなかった。

 ただ、そこにある――「尻は大丈夫ですか?!」

 5人の騎士のうち、彼が筆頭であるようで馬車の傍に寄る。

「そういうので引っ込んだわけじゃないよ」

 馬車の扉は開かれない。

 壁越しのような雰囲気で。

「さっき伝令が来たでしょ?」

 四半刻前、確かに見慣れない顔の兵士が、獅子の将帥へ何かを手渡した。

 包みこまれた箱のような。

「今さ、試用期間中の密偵たちがいてね...帝国お抱えの密偵たちもいいんだけどね、外務卿や内務卿とも付き合いがあるから、私の仕事をいちいちチクるんじゃないかと思って、気軽なお使いもさ頼み難くて...」

 マーガレットの歯切れが悪い。

 国外探索は用向きとして同じだが、彼女の場合は探し物が違うという事だ。

 それを国内の大貴族たちに察知されたくはないという。

 騎士は首を傾げ、

《俺はいいのか、そんな話をして》

「君たちは、好きなんでしょ私の事。気遣ってくれてるし、悪いこと考えてないっぽいし...まあ、そういう態度は、信用できる...かな、ん。で、最初の疑問...」


「秘匿する理由は?」

 5人の騎士も皇帝直属である前に、私兵として1000騎足らず率いている。

 それでも鞍上から見渡せば、その兵は魔女を囲む獅子の兵団の外輪へと押し退けられていた。

 仮に5人の騎士が叛旗した場合。

 考えたくはないが、叛旗した場合――素早く摘み取られるのは、5人の騎士たちである。

 恐らくは、馬車の傍にあるマーガレットへ、刃が届く前に首が飛ぶのだろう。

「外務卿の仕込みを確認する為」

 珍しく短く切ってきた。

 この会談は、帝国側の仕切りだ。

 開戦か或いは、非戦かを問う会談である。

「外、いや帝国は西欧も巻き込んで開戦派で占められていると?!」

 少しトーンが上がったが、騎士はすぐさま平静さに戻る。

 他の4人が振り向きかけたからだ。

「君が驚いて取り乱しても、()()()が何かすることはない...落ち着きなさい。それよりも同じサイド同士で戦う愚かしさというか、まあ、そういうのがね勿体ないと思ってね。せっかく、あちらから的が来てくれたんだ...ここは手を取り合って一つの敵に絞ってもバチは当たらないかと」

 ジェノバを攻めた手合いとは随分と、モノの考え方が違うなと考えさせられる。

 騎士は鞍上で姿勢を正し、もの思いに耽る。

「しかし、この会談は...」


「ああ、十中八九で西欧はサイドを裏切っているよね?という踏み絵だよ」

 西欧には、苦しい立場を再認識させる。

 寄り添っていった相手が悪かった。

 かの陣営では、蜂の巣を突いたような大騒ぎになっているだろう。

「惨い」


「それは自業自得さ。でも、素直に会談に臨み首を垂れて...赦しを乞うのであれば、同じ教徒同士なのだから助力は惜しまないという。まあ、そういう事なのだけれども...試用期間中の密偵が調べた限りでは、残念」

 紙を破る音が聞こえた。

 聞き耳を立てた訳じゃないので不確かさはある。

「おバカさんであったら、未だ御しやすかったんだけど...悪い事をする人たちがいたもんだね」

 この会話ののち、私は少し寝るよと言い残して――騎士は、馬車から遠ざけられた。

 馬車の周りの厚みは一層、硬くなっていた。



 指定された会談の日時が迫る中、西欧諸侯の苛立ちが筆頭役のデプセン公に向けられる。

 それぞれの諸侯は、それぞれが“王”を自称しているに過ぎず、また国の歴史も浅いものばかりである。真に大国と言えるのは、エイセル王国とデプセン公国しかないというのが現状だ。

 そのエイセル王国は、持ち回りの筆頭席を去年済ませた後である。

「諸兄らも、儲かるのであれば...と」

 デプセン公も、ビジネスと割り切って悪乗りしたひとりだ。

 この集まりに“実は私は反対だったのだ!”という花畑脳を持つ政治家ものはいない。

 一応、自覚はあって悪乗りしたのだ。

「え、エイセル王!」


「こんな窮状で儂を頼るなよ、弟...」

 デプセン公は王の実弟で、公国に婿養子で入った者だ。

 エイセルの血統支配を目論んだ結果だが、この場合は上手くいっているという雰囲気ではない。

「そ、そうだ! ここは帝国に事の顛末を!!!」


「冒険者に踊らされてと?! バカなことを言うなッ、庶民の口車に乗せられて王を名乗る為政者が判断を誤ったなどと、どの口が言えるものかッ。考えてもみよ、それこそ貴卿らの統治能力を疑われて帝国の触手が伸びかねない!!!!」

 この場合は、腹を決めるしかない。

 エイセル王は諸侯が集まる半刻前にクランの代表と面会していた。

 彼らは、自分たちの()を認めて帝国に名乗り出てもいいと言い出した。

 その場合のリスクは、西欧諸侯を手玉に取って傀儡した事実の公表である。


 王はこれを拒んだ。

 会戦もやむ無し――これがエイセル王の決意だ。

 逃げ道は無くなった。

 いや、無くなってた。

「そ、それでは...」

 諸侯たちは膝から崩れ落ちたり、背中から倒れる者もある。

「だが、この時の同盟だ!! 魔王軍に助力を依頼もとめて今こそ対帝国の狼煙を挙げるときなのだ!!!」

 という演説じみたセリフが響く。

 デプセン公は「兄上、一体何を言って?!」と驚愕していたという。

 エイセル王の目は血のように真っ赤になっていたという。

 会談場所として指定された地は“ディフェンダー城”だった。

 エイセル王国の古城のひとつで観光地でもある。

 開戦に踏み切っていない現状であれば、同地は中立地よりも西欧諸侯側に安心感を与える地域である。

 帝国から発案した会談というだけでも重圧プレッシャーが強いのだからという配慮だ。

 ただし、これを正しく先方は捉えなかった。

 敵国認定は既知。

 帝国は西欧諸侯に恩情を与えるつもりはないと、そう判断した。

 そう、思うように誘導されたと言い換えてもいい。



「ご苦労さん...いい働きだったよ」

 路地裏で、黒装束にローブ姿の男から手渡される革袋。

 重さだけでも相当な量が中に入っている。

 が、男はローブの方を直視していた。

「これで...終わりか?! ほら、この後はさ決まって方々の路地、いや屋根とか路に面しての家屋から矢でも毒付きのナイフとか...そういうのが飛んでくるんじゃないのか?!」

 男はクランの冒険者だ。

 そう説明して彼も仲間を忍ばせている。

「いや、何もない。...これは面倒だったんで明かす必要はないと思ってたが、冒険者プレイヤーをどうこうしても、ブレイクアウトしてログの最新地へ戻るだけだろ? デスペナがあっても消滅するわけじゃあない...そこら辺のゾンビやスケルトン、リッチよりもしぶとい連中を相手にしてたらこっちの身がもたないって。だから何もしない...報酬をやるから、さっさと消えてくれ」

 淡白だ。

 悪戯とかそういう気力いや、意欲さえ削られるような雰囲気だ。

 冒険者側も頭を抱え、

「そういうのはやる気が削がれるなあ」

 ローブの男を襲撃する。

 伸ばした腕が異様な曲がり方をした――脱臼させられた。

 激痛に転がる襲撃者。

「だから無駄なことを!!」

 ローブがはだけて、顔が顕わになる。

 額に見えるのは――ツノ?!

「鬼、か?!」


「ちぃ、面倒だなあ...甲蛾衆おれたちを敵に回したことをその身で思い知れよ!!」

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