フロアスタッフ1
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「悪いけど、俺たちのパーティーから抜けてくれ」
ショックだよねぇー、こんなこと言われたら。長年連れ歩いた仲間なら尚更。でもね、これ愛情だと思うんだ。言うの辛いよ? 向いてないんだから正直辞めたらいいと思うんだ。でも現実はこんなことは言われない。サービス業は今、人手不足だから。猫の手も借りたいのに、入れ替わりも激しいし、派遣会社は雇用費が高いからという理由でもの凄く"できる"人が多いのに削られてしまうし。言えないんだ。残業費がかさむから、向いている人が偏らないように、向いてない人にもたくさん仕事は回される。だから辞められると上は困る。下(従業員)は向いてない人がいるとイライラが続く。まさに負のスパイラル。
そんなこんなで、勇者パーティーから追い出される人はこんな類の人だろうという独断と偏見で語ってみよう。
とあるホテルレストランでの話だ。
私は色々な人達と共に働いてきた。サービスにおける凄く向いてる人とそうでない人の差はなんなのか?
良く気がつくこと。これは誰にでも想像できることかな?
テーブルからお客様がそっと手を上げる。
「お待たせ致しました。なにかございましたか?」
フロアスタッフがいち早く気がついてテーブルへ向かい、お客様の意向を伺う。さほど待たせてはいないけれど、気持ちの良い対応と笑顔。
相手の必要とするものを直ぐに提供できる人はレストランでのバッファーだ。敵が早い時、素早さバフを掛けてくれると助かる! お客様を敵認定している訳では決して無いのであしからず。指示を出す責任者(勇者)も安心して仕事を任せられる。
一方、気が付かない人は……。
責任者(勇者)の指示を聞いていない。いや、聞こえてはいる。だけど理解していない。だから指示された事の半分も成し遂げることが出来ない。だからしわ寄せが、"できる"人達に向かうことがある。
「〇〇さん、20番テーブルにコーヒー」
指示が飛ぶ。〇〇さんはコーヒーポットを片手にテーブルへ向かった。待たんかー! それではダメだー! 他のスタッフがフォローに回る。
一連の流れを理解していないと大変なことになるんだ。お客様をイライラさせる結果になる。何がいけないのか?
指示が飛んだ時点で、いや、飛ぶ前から確認すべき、視認すべき、把握しておくべきことがある。
何名お座りですか?
コーヒーは何人分必要ですか?
クリームやお砂糖は?
カップはテーブルにありますか?
そもそもお皿はテーブルから下げられていますか?
残っているなら丸トレイ要りませんか?
周りのテーブルにもコーヒーが必要そうなところありませんか?
一瞬で判断ができないとお客様をお待たせしてしまう。一つでも足りないと二度手間三度手間になる。お客様のテーブルへ何度も足を運び、話の腰を折るんだ。ヘイトを上手に自分に集めているんですか? 違います。ホテル全体へヘイトをもたらしているんです。
「バフを頼む!」
素早さが必要な部分で、精神力バフを掛けるようなバッファーは要らない。メンタル強くしてどうするよ!? むしろ反省して欲しい。コーヒーポットだけ持っていったところで、お客様を満足させることはできないんだ。
責任者(勇者)の"バフを頼む"という指示は聞いた。でも意図していることはできていない。そしてパーティーに汚名を献上する。これでは追い出されても仕方がない。魔王との命をかけた戦いで指示を意図通りにできない者では困るのだ。一気に崩れて全滅も有りうる。
伝説の男がいる。ガッツではない。
カフェオレ用のミルクを温めるのに、飲むヨーグルトを温めたのだ。それをポットに入れてコーヒーデキャンタ(コーヒーのガラスポット)の横に置いた。
コーヒーにヨーグルト入れた事ありますか?
勇気ある人は試していただきたい。良い子は絶対に真似しちゃダメですよ? ものっすごい不味いです。この世のものとは思えない味です。怖いもの見たさでやってみる人はぜひ覚悟を決めろ! という気合がいります。
随分話がそれた。
ミルクを温めるお話ですよ! だいたい温めるのに、飲むヨーグルトのパックからそもそも牛乳違いまっせ!? タイトル見なくても普通わかりません? いや、百歩譲って、一万歩譲ってタイトルでわからないとしようね? 出した瞬間のトロミ加減で「あ、牛乳違うやん」ってわかりません? わかりませんか……そうですか。
じゃあ次、匂いですよ! 一発でわかりますよね? あ、この牛乳腐ってる? てなりませんよ? ヨーグルトって直ぐにわかりますよね? わかりませんか……そうですか。きっと皆さんは飲むヨーグルトを温めた事の無い清らかな人達なんでしょうね。うん、いいことですよ。
ヨーグルト温めるとですね? 凄い臭うんですよ。「牛乳じゃない」なんてレベルじゃないんです。明らかな酸味の効いた匂いになるんですから。ホットヨーグルトに罪は無いですよ。もしかしたら好む人もいるかもしれないし。それぞれの好みがありますからね。
でもですね、ホットヨーグルトをコーヒーに入れるのはダメだ!! カフェヨレ? なんだそれは!? 断じて認めん!! ものっそい不味いから!
伝説の男に飲み物を任せた責任者(勇者)が悪いのか。黙認したスタッフが悪いのか。いや、ホットヨーグルトを黙認した訳では無いよ? 奴にこの仕事を任せることを黙認したスタッフって意味で。
こうしてお客様にポーションによる毒状態というデバフをもたらした伝説の男はアルケミストといったところだろうか? クレーム来たのは言うまでもない。
ほんの一例に過ぎないですが、勇者パーティーから追放される人はきっと意図を汲めない人でしょう。
伝説の男は問題外ですけどね。なぜパーティーに入れたのか? 色々なコネとかでしょうね。王家から初期メンバーに選ばれたとかそんな感じの。
良く気がついている人でも罠はあります。気が付きすぎるんですね。何がいけないのか?
良く気が付く人は全体を把握できる人なので、今足りない部分をはっきり認識できているんです。素晴らしい。だけど、そのせいでストレスを抱えやすい。まず、気がついてない人のフォローに自然に入るんです。レストランの評判を守る素晴らしい態度。
だけど歪みは知らないうちにドンドン大きくなる。足りない部分を補うために手伝うのにも関わらず、手伝われた方から煙たがられるんだ、理不尽なことに。じゃあお前やれよ! って言いたくなるけど、無理なことがわかってるから諦める。
責任者(勇者)から頼りにされるから仕事はドンドン回されるのに、できない奴には嫉妬される。かといって張り合って頑張ってくれる訳でもない。サービス業界の闇の部分のほんの一コマでしかないけれども、人が減る原因でもあると思う。
勇者パーティーが没落していくのもこういった原因があるんじゃないでしょうか?
最後まで読んでくださってありがとうございました!