天才精神系能力者瞬太の日常
新緑五月。俺は休み時間に自分の席でスマホをいじっていた。
「なあ」
スマホでは月額見放題のアプリでアニメを見ていた。今見ているこのアニメは日常系で、女の子たちが雑談したりふざけ合ったりを延々と繰り返している。
「おい」
アニメの名前は『いらすと部!』である。四月から高校生になった女の子クミは、高校にイラスト部があると知り期待に胸を膨らませて入部する。しかし、そんなクミを待ち受けていたのは、個性の強い部員たちだった。まるで魔法がかったような絵を連発するのにどこか抜けてて空気を読めないナノ、ナノに美術部を乗っ取られおまけに部名まで改称させられいつも笑顔に怒気を孕ませているキョウカ先輩──クミはそんな部員たちと共に奇想天外な学校生活を送ることになる。
「おいって」
ちょうど今は第6話で、いらすと部の面々は仮の部室の第二講義室で文化祭の準備に追われていた。いらすと部は文化祭でイラスト展示を行うそうだが、ナノが溢した絵の具がクミの絵にかかったとかで、ちょっとしたいざこざが起こっている。いざこざはそのままふざけ合いだかじゃれ合いに移行し、ナノとクミは講義室の中を走り回っている、そこへキョウカ先輩が入ってきて一喝、2人に何か話しかけている……
「ねえ!」
思わず顔を上げた。キョウカ先輩がいた。俺に話しかけていた。先輩が話しかけているのは俺だった。
「…え」
「聞いてるの」
俺は慌てて辺りを見渡す。気づけばそこは教室ではなかった。さっきまで画面の中であったはずの第二講義室だった、机、黒板、全てが光と影の2パターンの色で構成されていた、まるでアニメの中だった、いや本当にアニメの中にいるのかもしれない……
「返事は」
あの世話役キャラらしい口調でキョウカが俺に話しかけている。
俺は慌てた。返事をしなきゃと声がどもった。
「はひっ」
声がcv:高柳梨沙だ、そう気付いたか否かのところで意識は暗転した。
気づいたら目の前には瞬太。呆れた調子で俺を見ている。既に第二講義室は影も形もなく、俺はただ自分の教室の自分の机に座っていただけだった。
「ったく、さっきから呼びかけてんのにろくに返事もしやしねえ。プ、リ、ン、ト」
前の席に座っている瞬太は数枚のプリントをバサバサさせている。
「あ、ああ」
俺は慌ててプリントを受け取った。
「何を好きでもいいと思うが、人の話くらいは聞けよな」
瞬太は長く息をついた。
「悪い」
俺はプリントを後ろへ送る。
「じゃないと」
瞬太は俺の目を見た。彼の目が細くなる。
「もう一度第二講義室に閉じ込めるぜ?」
口元には意地悪そうな笑みが浮かんでいた。
「え、ちょっと、」
今のどういう意味、と聞こうとしたが、ちょうどチャイムが鳴り出した。じきに号令がかかり、授業が始まり、聞くタイミングは失われる。
まさか、とは思いつつも俺はぼんやり瞬太の背中を見やった。またどこかへ行かされそうな気がして、何も頭に入って来なかった。