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第78話 うなぎ釣り

作者: 山中幸盛

 今年のゴールデンウィークの最中に、去年の「北斗」十一月号で発表した場所までウナギ釣りに行くことにした。釣りそのもののリベンジはハゼ釣りで果たしたが、今回はウナギ釣りリベンジという次第。

 幸盛の十五年前のウナギ釣り実績は六月に入ってからのもので、五月の上旬に釣れるかどうか若干の不安はあったが、六月になると何かと忙しくなることが予想されるのでやむを得ない。まあ、当時から五月も釣れるという情報は耳にしていたし、八月よりは遥かに釣れる確率は高いだろう。

 ただ、ニホンウナギは世界の科学者らで組織する国際自然保護連合(IUCN、スイス)から二〇一四年六月に絶滅危惧種に指定されたので、それを釣ることにちょっぴり心が痛まないでもないが、販売目的ではないし法的拘束力もないということなので、開き直って行くことにした。


 釣り針の仕掛けは、竿一本につき二本針と決め、竿は四本持っていくつもりで前日に手作りした。何度もやり直したり、針先を指に刺して血を流しながら、予備も含めて八セットも用意した。というのも、ウナギは針を喉の奥深くまで呑み込むので釣り糸をハサミで切るしかないし、若い頃と違って視力がずいぶん衰えているため、現地で夜間に懐中電灯の明かりで仕掛けを作るのは困難だからだ。

 ウナギは釣れた後が大変で、大暴れするのでなかなかクーラーボックスに納まってくれないし、どうにか納めたとしても、二本目のウナギが釣れた際にクーラーボックスの蓋を開けた途端に、先に釣ったウナギが跳び出してクネクネと逃げて行く。そこで今回は一計を案じ、クーラーボックスに氷と水を入れて仮死状態にさせることにした。そのための氷は一リットルの牛乳パック二本に水道水を入れて自宅の冷蔵庫で凍らせたもの、水は二リットルのペットボトルに水道水を入れたものを一本準備した。


 前日の夜から明け方にかけて中部地方全域でかなり強い雨が降ってくれたので、庄内川から濁りが入っているだろうからコンディションは最高だ。当日、ウナギは日没直後が勝負なので朝から時が過ぎるのがもどかしい。そわそわしながら早めに夕食を済ませ、早めの夜の勤行の唱題も五分で済ませ、自宅を夕方四時十五分に出発した。

 釣り餌店で一匹五十円のカメジャコを二十匹買って、名古屋市港区稲永公園の対岸辺りの飛島村堤防前に到着した。昨年同様に何かの工事のため堤防道路に入れないので、車から釣り場まで、重い荷物を背負い、四本の釣り竿の束と折りたたみイスを肩にかけ、氷が入った六キロもあるクーラーボックスを手で提げてゆっくり片道五分の距離を歩く。日没まではまだ一時間以上あるので慌てることはない。 

 竿を受ける三脚や四本の竿に仕掛けをセットして、準備万端で日没を待つ。三脚には三本の竿を立て、一本は少し離れた場所で捨て竿にするつもりだ。この場所は岸に沿っておよそ五メートルの幅で海中に大きな石が沈められているので、竿の長さは四本ともが五メートル以上のものを持参した。名古屋の『日入』時刻六時四十一分を過ぎたので、針に餌を刺し、順次十メートルほど先に投げ入れていく。

 おそらく七時五分前くらいだっただろう、竿の先端に取り付けてある鈴がリンリンと鳴った。どの竿だ? と見ると右側の竿の先がペコペコとお辞儀をし、鈴の音もリンリンと鳴り止まない。来た! 間違いなくウナギのアタリだ!

 ワクワクドキドキしながら竿を手に取ってリールを巻きあげていく。グイグイ引っ張るのでかなりの大物だ。竿を大きく上げて獲物が石の間に逃げ込まないように素早くリールを巻いて海面まで引き上げるとバシャバシャと暴れる。

 堤防の上で竿先をしならせて暴れるウナギは六十センチはありそうでずっしり重い。クーラーボックスの蓋を開けて入れようとするが暴れてなかなか納まらない。しかし三度目のトライで何とか入ったので素早く蓋を閉じ、バシャバシャ暴れる音を聞きながら糸をハサミで切る。

 やったぞ! 切った分を急いで補充しなくちゃ、と竿を堤防に置いて支度を始めたら、再び鈴の音がリンリンと響き渡った。おいおい本当かよ! と二本目の竿のリールを巻き上げていくと、こいつもグイグイと引っ張る。二本目のウナギもなかなかの大物で、クーラーの蓋を開けても一本目のウナギは飛び出して来ず、無事に二本目も納まった。まだ懐中電灯を使わずに済む明るさが残っている時刻で、およそ五分の間に二本も釣れてしまった。もうこれで、いつ帰ってもいいと安堵したせいか、その後ウナギは釣れなかった。

 八時頃に捨てザオを上げてみるとアナゴが釣れていた。そのため後ろ髪を引かれることなく、十時過ぎに帰宅した。


 テーブルの上に新聞紙を広げてウナギを乗せると大きい方がまだ生きていて少しうごめく。動かないでくれと祈りながら体長を測ってみると、ウナギは六十四センチと五十六センチ、アナゴも四十五センチの良型だった。そして、これらの獲物をまな板にキリで固定せず、なおかつ切れぬ包丁でさばいた。三枚下ろしなど到底不可能なので、何とか蒲焼き一人分を取ると、他は煮物にして美味しくいただいたのだった。



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