9話
助けるしかないよなこの場面は……。ここで見逃す程、心が無い俺では無いからな。それにこの村が無くなったら、折角の情報源が途絶えてしまう。それは何とかして避けないといけない。
あのスライムの波に突っ込みにいくけど、武器とか落ちて無いかな。出来ればナイフがいいのだけど……。あれ?あそこで冒険者が1人逃げているぞ。その後ろにスライム達が追いかけている。あ、転けた。転けた男にスライム達が覆いかぶさっていく。うわぁ……。今捕食されてるのかな。凄くもがいてるけど……。動きが止まった。どうやら死んだらしい。捕食を行ったスライム達は元の場所へと戻っていく。冒険者が居た所には、そいつが身につけていたであろう装備がゴロンと落ちていた。俺は櫓から降り、その場所まで駆け寄ると、何と都合のいい所にナイフが落ちていた。ラッキー!これも神のおぼしめしかな?アイちゃんありがとうー!!
《神界》
「い〜きっしゅ!!!ふぇ〜〜……。誰かわたしの噂でもしてるのですか〜?」
「おい!!そこのお前!!何ふざけている!さっさと仕事しろ!たく……。最近の神はゆとりだから使えないのか……?ほら!ちゃっちゃとしろ!!今日は終電まで帰さないぞ!!」
「ひえ〜〜!!助けてください〜〜!!」
《ウドの村》
よし、これを使えばステータスが上がるぞ。俺はナイフを手に取り、ナイフを透明化にさせる。さて、後はあの囲いに突っ込みに行くだけだな。行くぜーー!!
〜トオルがスライムウェーブに乗り込む少し前〜
《冒険者サイド》
「はあ、はあ、はあ、これでもか!!」
冒険者のウィルがスライムを一刀両断する。斬られたスライムは灰になり四散していくが、その直後に別のスライムが目の前に躍り出て来る。この作業を繰り返すだけの事を、もう何千回と行っている。流石に体力が消耗しきっていた。
「くそくそくそ!!いつになったら終わるんだ!!」
「そう声を上げるなよ相棒。苦しいのはお前だけじゃないんだ。あと少し踏ん張れ。フン!!」
「そんな事はわかっているさサンバ!!そっちの方はどうだセリア!!」
「ダメ!負傷者が多すぎてカバーできない!!回復魔法も使えるのは数人だし、もうMPが尽きちゃう!これ以上は厳しいわ!」
「むう……これ程とは……。しまった!囲まれたぞ!!早く離れろ!!」
アンダーソンが大きな声で冒険者達に促すが、時既に遅く、冒険者の周りにはスライムで囲まれていた。戦闘時間が長く、多くの冒険者達は、心体と共に擦り切れていた。その中には、もうダメだ……。此処でスライムに殺されるんだ……。という声がちらほら聞こえてくる。このままではいけない……。そう思いアンダーソンがもう一度士気を高める為に、鼓舞を行おうとするが、1人の冒険者の声で阻まれた。
「お、おい!!村の方を見てみろ!!スライムが空中に投げ出されているぞ!誰かがスライムの波を割っているみたいだ!!!」
これは僥倖!!アンダーソンは声には出さないが、心で歓喜する。果たして誰だ?この波を割ってくる猛者は。ギルド長であるわたしでも諦めかけた、此度のクエスト。もし収束したのなら、それなりの褒美を与えないとな。そう考えていると、空に浮かび上がったスライムがどんどん近くなる。もう直ぐこの包囲網を打破するのだ。さあ早く顔を見せてくれ!!
「誰だか知らないが恩にきる!此処はギルド代表として、礼…を……?」
スライムを突破したであろう隙間を見渡しても、何処にも人は居なかった。
《トオルサイド》
(よし、もう直ぐで抜ける!!)
ナイフを持つ事で力が強化され、スライムに斬りつけながら、冒険者がいる所まで掻き分けていく。
(これで最後だあああ!!!とりゃあ!!ふう……。待たせたな!!冒険者の皆!!俺が助けに来てやったぜ!!!)
高らかに叫ぶが誰も反応しない。此方を見て呆然としている。あの強面のアンダーソンですらマヌケ顔を晒している。なんだそんな顔して……。
(あ、そうだった。俺の事が見えないんだっけ。忘れてた忘れてた。テヘヘ。)
そうか透明人間である事を忘れていた。ついスライム無双し過ぎてテンションが上がっていた。お、アンダーソンくん。どうしたんだ?あー、気合入れて顔を叩いているんだな?なるほどなるほど。
「皆!!一体何が起こったのかはわからないが!今はこの出来た道へ走るぞ!!この方角は村まで一直線だ!取り敢えずそちらに避難だ!!!」
アンダーソンが叫ぶと、次々と俺を素通りし逃げていく。なんか……。寂しいな……。功績を認めて貰えないのは……寂しいな。
そして俺以外が脱出した後、出来た道は閉ざされ、再び俺を囲う様に包囲網が出来上がる。そんな時だ。ある1匹のスライムが目の前に来た。他のスライムとは違い、身体の中心に赤い球が浮かんでいる。
『お前は何者だ?』
頭の中で声が聞こえてきた。え!え!怖い怖い!!何これ!
『私はこのスライムの産みの親である、スライムキングだ。直接お前の脳内に語りかける。お前は心で私に語りかけるが良い。』
スライムキング……。こいつらの親玉か。俺の名はトオルだ。透明人間をやっている。
『透明人間とな……?長く生きていたが、実物を見たのは初めてである。トオルと言ったな?これは忠告である。我らの邪魔立てを行うでない。』
何故止めなければならない。そもそもお前らはなんの目的で、この村を襲う。
『それは無論食料の確保である。住処にしている場所では、収穫が心持たなくなってきた。言わば引越ししたいのだ。その為に村を乗っ取りにきた。貴様もモンスターならわかるだろう?腹を空かせば奪うまで。それがこの世の掟だろう?』
生憎この世界には今日来たんでな。そんな掟は知らないな。でもあの村を襲うのは止めさせて貰うぜ。俺もあの村は大事なもんでな。簡単に、はいそうですか。と止めてたまるか。
『……交渉決裂の様だな。ならば戦う迄。いざ!!』
スライムキングが臨戦体勢に入ると、周りにいたスライムがキングの方へ、集結していく。そしてどんどんとキングの体内に入っていき、その度キングの体積が増えていく。おいおいおい……何処まで大きくなるんだ……?眺めていると最後の1匹がキングに取り込まれていく。デッケー……。あのビックベアー5頭分の高さはある。およそ15m位だ。……え?俺こいつと戦うの???