作戦会議
「ザリーガの元に、続々と人が集まっている。始まりは約一週間後ってとこだな」
長い偵察から帰ったカヲルは、スラムの地図を広げながら一点を指差した。
「ザリーガは拠点の南区を離れ、今東寄りの廃墟跡に人を集めている。
グランディオンのテリトリーはここからさらに東寄り。迎え撃つ形で西に向けて人を配置している」
サキはカヲルの指を追うとコンパスと定規で大体の中間地点を割り出した。
「ここが決戦の地か。他の一派は?」
M-Aに視線を向けると、彼は吸っていた煙草を灰皿に押し付けた。
「それぞれの報酬やらメリットで勝手にザリーガ派とグランディオン派に分かれてる。
割合は…ザリーガの方が多いな。余程の金額を約束したんだろう」
サキは腕を組むとララを振り返った。
「武器の流れは?」
ララージュは唸りながら低い声で言った。
「スラム街に流れる武器でいえば、ザリーガに渡る銃はおよそ二百丁。対するグランに渡る武器はナイフから手榴弾まで色々な物を合わせても百に届かない。分はザリーガに有りだな」
ただのスラムの小競り合いにしてはやはり数字は大きい。
内戦と言う言葉もあながち大げさではなさそうだ。
アオイは腕を組むと一歩離れた所から静かに割って入った。
「市街地から流れている武器類はほぼグランディオンに回されている。
その数は残念ながらルートが多すぎて把握は仕切れていない。
でも確実に様々な武器が総じて三百は動いてる」
「三百!?」
ララが素っ頓狂な声をあげると、アオイは頷いて組んでいた腕を解いた。
「グランがどうやって掻き集めたのかまでは分からないけれど、数字にはそんなに誤差はないはずだ」
「馬鹿野郎がっ!!どうやったらそんなこと割り出せるんだよ!?」
ララはアオイに食いついたが、生憎相手が悪かった。
アオイはにこやかに笑うと軽く手を腰にかけた。
「情報屋から情報が欲しいのならば、それ相応のものがかかるけれど知りたいかい?」
ララはぐっと詰まると拗ねたように椅子にどかりと座った。
サキはナイフを一本取り出した。
ゆっくりとその手を上げると、勢いよく決戦の地に突き立てる。
「はっきり言って争いに横槍を入れるだけでザリガニもグランも倒せるとは思っていない。
実は俺の今回の目的はこの二勢力を潰すことじゃないんだ」
一同目を見張るとサキを凝視した。
サキは自分を見つめる者達を一瞥すると、その瞳に誰をも威圧する気迫を込めながら不適に笑った。
「今から俺のプランを説明する。
お前達とはこの先も長い付き合いになると思うが、俺の期待に全力で応えることを要求する。
報酬はお前らの手で掴んだ新しいスラムだっ」
それは高圧的な命令だった。
相手の意思を省みない、圧倒的な力でねじ伏せるような要求だった。
それなのにサキが言葉にすると、不思議と男たちの胸をたまらなく爽快にすく。
舞い降りた沈黙は重い空気を漂わせたが、ある種の高揚感もはらんでいた。
サキはもう一度全員をゆっくり見渡すと、今度はいたずらっぽく笑った。
「まぁ俺が見込んだ奴らばかりだからな。
癖はあるが実力者ばかりだ。何かあったら遠慮なく言えよ。M-Aに」
「やっぱり俺かい!?お前初めから面倒ごとは俺に投げる気満々やったやろ!?」
サキは楽しげに笑うと一枚の紙を広げた。
「これが俺のプランだ。皆来いよ」
一気に砕けた空気に、皆はゆっくりと動き出した。
一人女のカヲルは、サキの緩急の付け方にだいぶ慣れていたはずなのに、まんまと揺さぶられた自分に舌打ちをした。
「やっぱり敵にはしたくない奴だな…」
小さくつぶやくと、男たちに混じりながらサキの計画に耳を傾けた。




