赤ん坊と作戦
地図を広げながらM-Aは、赤いマーカーで三つ丸を書いた。
サキはお粥を混ぜながら難しい顔でそれを眺めている。
「つまり、ザリガニの勢力に対立してるのがこの辺りに屯するグランディオンの一派か。そいつ歳いくつくらいだよ」
「ザリーガだ。気合い抜ける呼び方するなや。グランディオンは確か二十後半ぐらいや。でも味方にすんのは絶対無理やで。こいつ血も涙もない冷徹な巨漢らしいからな」
人肌に冷めたお粥を小さなスプーンに乗せると、サキはコーシの口に放り込みながら唸った。
「どいつもこいつも癖が強そうで参るね。で、スラムに武器を横流ししてる奴は突き止めたのかよ」
M-Aは肩をすくめると、お粥を吹き出したコーシの口をタオルで拭った。
「あれからまだ一ヶ月だぜ?知り合いも少ないのにそんなぽんぽん情報が入るかよ。酒場の親父が一番の情報源だ」
「頼りねーなぁ」
二人が腕を組んで考え込んでいると、コーシが机をぶったたいてそっくり返った。
「ちょっ…危ないやんか!!どないしてん!?」
「あ、わり。口に入れてやるの止まってた」
なんとか怒れる暴君をなだめながらまた粥を食べさせる。
「M-A、そろそろだな…」
「おぅ。大人しく待っとれ」
M-Aはおもむろに立ち上がると部屋の奥へ消えた。
しばらくすると不敵に笑いながら戻ってくる。
「どうや。これで気に入らんかったらどつくど」
M-Aからブツを受け取ると、サキはそれを食後のコーシに咥えさせた。
「どや?」
「…ばっちり、飲んでる。タイミングも温度も完璧らしいぞ」
M-Aが持ってきたミルクは、どうやらコーシのお気に召したらしい。
ここでごねなければ、そのまま睡眠まっしぐらだ。
M-Aはため息をつくと気持ち小さな声で言った。
「こいつがおったら話し合いもまともに進まんやないか…」
サキはうとうとし始めたコーシを抱きながら、同じく声を潜めた。
「まぁ気にするなよ。とりあえずザリガニとグラン…なんだっけ、まぁいいや。グランは放置して、他の勢力からコンタクトをとっていこう。徐々にこっちも勢力をのばす」
「仲間を増やすんやな?」
サキは黙り込むとじっとコーシを見つめた。
「仲間は…いらない。俺の仲間はお前と、このチビだけだ」
「…」
M-Aは頭をかくとポケットから煙草を取り出した。
が、すぐにまたしまった。
「まぁじわじわいこうか。一気に目立った行動するとザリガニに突捕まるからな」
「ザリガニて…」
「お前が言うたんやろが!」
コーシが眉を潜めて身じろぎしたので、男二人は口に人差し指を当ててお互いにしーっと合図しあった。
「まぁじゃあまた明日な」
大きな体をこそこそと縮めると、M-Aはサキの家からそっと出た。