武器商人
暗く湿気った陰気な部屋で、二人の男は大きな箱を挟み、表向きは穏やかに交渉していた。
「もっと数は揃わなかったのか?俺は二百丁頼んだはずだ」
対峙する男は痩せ細った指をくるくると回すと、炯炯と光る大きな目を糸のように細くした。
「あの値段じゃこれが精一杯だ。大体これがバカ高い」
別の小箱を出すと目の前の男に差し出す。
中には黒光りする弾丸が二十ほど納められていた。
一つを手に取ると、男は満足そうににやりと歯を見せた。
「これが絶対暴発しない弾だな?」
「そうさ。保証は折り紙付きだ。ただ数は本当に少ないぞ?」
男は蛇のように目を光らせるとその弾を懐にしまった。
「構わないさ。これは俺だけが使う。他の奴らは運が良ければ暴発はしないだろう」
「拳銃二百丁はお前の部下に持たせるんだろう?これで何かをおっ始めようってんならこっちの血しぶきの方が上がる可能性が高いぞザリーガ」
ザリーガは暗く笑うと一つ顎を撫でる。
「分かっているさ。それでもこいつがないとグランディオンは押さえつけられん。こいつで一気にカタをつけられるなら、こっちの人数は半分になっても構わない」
痩せ男は声を立てて笑うと自らの薄い頭に手を置いた。
「参ったよ。君をみくびっていた。変な口出しして悪かったな。これからもどうぞ良い付き合いをお願いしますわ」
男が立ち上がると、ザリーガも音を立てて立った。
「バリィ、あと二ヶ月以内に必ず二百丁揃えるんだ」
「怖や怖や。スラムで内戦が起こりそうだ」
儲ける気配ににやりと痩せ男が笑みを刻む。ザリーガは低く笑うとカッと目を見開いた。
「その通りだ。今度は本気でスラム全土を掌握する。グランディオンを筆頭にうるさいネズミどもも踏み潰してくれるわ!!」
バリィは楽しげに笑うとザリーガに一礼した。
「御用の時はいつでもお声を。ただし、お金が整ったらの場合はでございますが」
ザリーガが忌々しげに舌打ちすると、バリィはさっさと部屋を出て扉をぴたりと閉めた。
「いい風が吹いている。やはり今儲けどころは市街よりスラムだな」
一人怪しく笑うと、バリィは急ぎ足で南区を後にした。
ーーー
ララージュは半月も散々使いっ走りをされ続けたあげく、交渉の場にちっとも立ち合えないことにひどく機嫌を損ねていた。
「大体売り物が武器のみだなんてつまんねーんだよ。薬よりたちが悪りーじゃねーか」
ぶつぶつと文句を垂らしながら表路地を歩く。
体は疲れ切っていたが、大事な友から是非にとの願い出があったので渋々待ち合わせ場所に向かっていた。
着いたのは西区の端の瓦礫の山だ。
一見何もないこの場所は、絶好の死角がいくつもある。
落ち合う時はいつもこの場所だった。
「遅いぞ。商売人なら時間くらい守れ」
着くなり頭上から声がかかり、ララはぶすくれた顔をさらにしかめた。
「お前なぁ、俺は帰ったばっかでくたくたなんだよっ。重い体引きずってきたってのにそれはないんじゃねーの?」
腕を組んで座り込むと、軽やかな音がして目の前にカヲルが降りてきた。
「あんなバカみたいな仕事続けるからさ。さっさと辞めろと何度も言ってる」
「うるせーな。俺だってこんなことになるなんて思ってなかったんだよ!スラムを潤す商売ができるっつーから張り切ってたのによぉ」
ララが腐っていると、カヲルは一つため息を着いて後ろを振り返った。
「こんな男だが、話を聞く必要はあるか?」
ララは眉をひそめると立ち上がった。
「誰かいるのか?」
カヲルが一歩下がると、その後ろから男が一人出てきた。
背はララと同じくらい高く、引き締まった体は敏捷性を匂わせる。
何より目尻は甘く下がっているのにその瞳は意思の強さをありったけ詰め込んだようにきつく光っていた。
ララは警戒して一歩引いたが、その男は意外なほど人懐こい笑顔を見せた。
「やぁララージュ。俺はサキ。お前に会えるのを首を長くして待ってたぜ」
ララは怪訝な顔になったが、サキは構わずすたすたと近づいてきた。




