止まらない暴走
M-Aはララージュに走り寄るとその胸ぐらを掴み上げた。
「一体どないいうことやねん!?ゾラシーガいうのはそこの男のことと違うんかい!?サキは確かにそう言っとったぞ!?」
ララはM-Aの手を払いのけるといかつい顔で睨み上げた。
「ゾラシーガと言うのはボイルエッグが作り上げた架空の人物だ」
アオイも二人に寄ると思案顔になった。
「なるほどね。だいぶ読めてきたよ」
M-Aが首を傾げていると、ハードハムが近付いてきた。
「ボイルエッグは権力を得るためには誰であろうと利用してきた。だが日陰の者を利用すれば必ずどこかでツケが回ってくる。奴はそれを全てゾラシーガに背負わせたのだ」
「背負わせたって言うたかって、それをどないすんねん」
アオイは低く笑うとM-Aに向き直った。
「簡単なことだよ。そのゾラシーガという人物がハードハム氏と同一人物であるという嘘を周りから固めればいい。その後でそれが事実だとでっち上げ、ハードハムを処刑させればことは済む」
ララージュも頷いた。
「自分の屋敷を襲われたふりまでして、なかなか狡猾なやり口だぜ。奴は初めからこのハードハムに全てをなすりつけるつもりで綿密に計画を練っていたってことさ」
M-Aは腕を組むと頭を整理した。
「つまり、ザリーガが癒着していた街の権力者はボイルエッグやったってことやな?ってことはこの場にしゃしゃり出てきたんも始めっからザリーガとぐるやったってことかい」
「そうなるね」
アオイがあっさりと頷く。
「ってことはこの偽護衛兵はなんやねん!?」
「そいつらも、今サキが相手しているザリーガの手下も、全てダブルフォークの残党だ」
あちこち調べ尽くしたララが確信を持って断言した。
M-Aが忌々しげにがりがりと頭をかいていると、後ろからカヲルの叫び声がした。
「コーシ!!!!」
反射的にカヲルの視線を追うと、遠目に地面に転がったコーシの姿が目に入る。
「コーシ!!?あいつ何やっとんねんあんな所で!!!」
「宙で二回跳ねた!!あいつだ!!あの男に撃たれた!!」
「なんやとぉ!!?」
M-Aは即座に走り出した。
あちこちに転がる死体をすり抜けコーシの周りをざっと見渡す。
一際敵の集まっていた場所で、突然竜巻にでもあったかのように男達が吹っ飛んだ。
その中心にいるのは見まがいようもない、よく知った姿だった。
「サキ!!!」
M-Aは本能的にまずいと感じた。
サキとコーシの距離が近すぎる。
サキはコーシが撃たれた瞬間を見たのだろう。
「…っ最悪や!!!よりによってサキの目の前で…!!!」
M-Aが着く前に、コーシは仲間の手によって既に運び出され始めていた。
M-Aは一瞬迷ったが、このままサキを一人残しておくわけにはいかない。
「コーシ…生きとれよ!!」
祈るように一度目をきつく閉じると、M-Aはそのままサキの方へ向かった。
サキは今完全に思考能力が停止していた。
本能のままに牙を剥き出し、目に映る者全てに猛威を振るっている。
「サキさん!?」
「サキさん!!」
サキの異常行為に中央区の男達が駆けつけようとした。
だがその前に黒ずくめの男が立ちはだかった。
「やめとけ!!!今サキに近付くな!!」
「M-A!!!サキさんは一体どうしたんだ!?あんなことをしていたら一気に体力を使い果たしてしまうぞ!?早く止めないと…」
M-Aは苦い顔で首を振った。
「やめとけ。話しかける前に殺されるぞ。
普段押さえつけてはいるがあいつは天性の殺戮者や。あれを解放されたらどうにも手が出せん!!」
「じゃあどうすれば…!!」
「とりあえず俺に任せろ。お前らはサキに皆を近づけさすな!!」
M-Aは言い残すとサキが暴れる後を追った。
サキの通る後ろには、文字通り死体の山が築かれていく。
わざわざ首を掻き切って派手に血の海を作り上げているのは、サキが復讐心に燃え上がっている証拠だ。
「どうやってあのサキを止めろっちゅーねん…!!」
サキの進行方向を見ればザリーガを追っていることは分かる。
あんな状態でも最終目的は定まったままのようだ。
少なくともそれまでサキは止まらないだろう。
M-Aの脳裏に、昔あの状態のサキを止めた男の影がちらついた。
「ヤリ…最悪俺の役目はお前の二の舞やな…」
あの時は壊れかけたサキを、赤ん坊のコーシが救った。
今度はそのコーシが引き金になりサキが暴走している。
M-Aは腹を括ると、誰よりも敬愛している友を止めるべく走り出した。