成立
カヲルが案内したのは、自分が退けたボスが溜まり場に使っていた廃墟だった。
部屋は適度に明るく、十人以上入ってもまだゆとりがあるくらい広い。
散乱した椅子を立てると、サキはどっかりと腰をおろした。
「結局、コーが勝手にうろうろしててカヲルに拾われたってわけか?」
「まぁ、出だしはそうだ」
カヲルは壁にもたれて腕を組んだ。
「出だしはって…。そのあと何しててん?」
M-Aはコーシが歩き回っても大丈夫なように危険物を片付けている。
「…商店へ食べ物を買いに。あとはコーが…コーシが行きたい所をうろついてただけだ」
「なんや。人質にでもしようとしたんかと思ったわ」
カヲルは目を伏せると歩き回るコーシを見つめた。
「…正直、そのつもりだった」
M-Aは何か言おうと体を乗り出したが、サキがその前に低く笑った。
「俺はお前はそんなことをしないと思ったぜ。カヲル」
カヲルは眉を寄せるとサキを睨んだ。
「お前なんかに僕の何がわかる」
サキは立ち上がるとひたと視線を合わせた。
「…カヲルの目は、まっすぐだ」
サキが一歩進み出たので、カヲルは思わず後ずさる。
「あんなに躊躇いなく小太刀を振るうのに、汚れていない。冷淡なのに、気の優しさすら感じる。まぁその理由は、さっき知っちまったけどな」
コーシを抱き上げると、サキはカヲルの前に立った。
「コー、カヲルが好きか?」
コーシはじっとカヲルを見つめると一つ頷いた。
サキは満足そうに笑うとコーシを降ろした。
「コーシを連れてったことは、これでちゃらにする。世話かけて悪かったな。
大体俺もお前に無断で西の奴ら総動員させちまったからおあいこにしようぜ」
含みのない笑顔を見せると、サキは手を差し出した。
「改めて、俺らと手を組んでくれカヲル」
「…昨日の約束は、本気か?」
カヲルは油断なく見上げてくる。
「ザリガニの件か?もちろんだ」
相変わらず自信たっぷりに笑うサキを見て、カヲルは軽くサキの手をはたいた。
「言っとくけど、僕はお前を信じたわけじゃない。僕の為に利用させてもらうだけだ」
挑発的な言い方だが、サキは楽しそうに笑った。
「だから、そういうことは腹の中でひっそり思うもので宣言しないもんなんだぜ?」
カヲルは不愉快な顔をしながらまた壁にもたれた。
「で?お前の欲しい情報っていうのはなんだ?」
サキは途端に真顔になると腕を組んだ。
「…俺が欲しいのは、このスラムに武器を流し込んでいる武器商人の所在地と取引情報。出来れば取引現場も押さえたい」
カヲルは黙り込むと思案顔になった。
「武器商人の一人なら、コンタクトをとれる」
「本当か!?」
「ただし、その一派の下っ端だ。お前とそう歳も変わらないんじゃないか」
サキは首を振ると俄然やる気を出した。
「構わないさ!!やっと取っ掛かりを掴んだぜっ。早ければいつ会える!?」
「今は仕込み期間だと言っていたから早くても来月だな」
サキは腕を組むと考え込んだ。
「…分かった。じゃあ俺はそれまでにもっと南区やら一般市街やらを調べるか」
ずっと黙ってたM-Aはここで口を挟んだ。
「サキ、東区も要注意やぞ」
「東区…」
カヲルを顎でしゃくると、M-Aはにやりと笑った。
「前にこいつに殺されそうになった奴おるやろ?あいつと酒場でまだたまに会うんや。
どうやらグランディオンもザリーガと一戦やり合う準備をしとるみたいやで」
サキはまた考え込むと顎に手を乗せた。
「そうか…。わかった」
三人は今後を色々打ち合わせした。
帰り際に男たちに挨拶して回ると、サキはそれからしばらく西には顔を出さなくなった。