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Saki & Koshi  作者: ゆいき
それぞれの結末
159/176

サキに集いし者達

そのバイクは作り自体が一際厚く、どちらかというとスピードより頑丈さに焦点を置かれた戦闘用の機体だった。

そのタイヤは一つ一つがまるでキャタピラーのように土を噛み、どんな傾斜でもぐいぐいと進んでいく。


アオイは値踏みするように近づいてくるバイクを眺めると目を細めた。


「あれは厄介な代物だね。どうりでこんな所まで登って来れるわけだ」


言いながら一つ薬を口に放り込む。

背中からはじわりと赤い色が滲んでいた。

手にした銃は既に弾を使い果たしている。


後ろから近付く敵が思い切り振りかぶると、アオイは振り向き際に思い切りがら空きの腹部に蹴りを入れた。

敵の手から滑り落ちた剣を空で取るとそのまま持ち主の胸に深く送り返す。

流れるような動きだが、アオイは眉間に皺を寄せると滴る汗を拭った。


「…っ長くはもたないな。体が動くうちにかたをつけたいところだが…」


左腕に持つ大きなナイフで敵の首を叩き落としたグランが同意した。


「全くだ。普段の半分も動けやしない」

「それで普段の半分なんて、流石に恐ろしいことを言うな」


グランの右側をフォローしていたカヲルは息を切らせながら言った。


サキは一足先に目の前の敵を全滅させると仲間を振り返った。


「お前ら…わざわざ死に場所をこんな所に決めるなんて馬鹿なことを…」


M-Aはサキに引き続き敵を沈め終えると往生際の悪い年下の友に向き直った。


「俺らの死に場所は、お前やサキ」

「…」

「お前を一人でこんなとこで死なすんやったら、共に散る方が百倍ましや」

「俺にそんな価値はないっ!!!」

「お前の価値を決めたんは、俺ら自身や。つべこべ言うなっ」


そうこうしているうちにも、騎乗部隊はスピードを上げながらすぐ側まで迫っている。

グランは最後の敵を叩き落すと、唸り声を上げた。


「せめてあいつらを引きずりおろせればまだ勝機はあるものを!!!」


五人は揃って迫り来るバイクに備えた。

緊迫した空気の中、この場に不釣り合いな幼い声が後ろから割って入った。


「その役目、俺が引き受けたぜ」


五人が弾けるように後ろを振り返ると、少年はすたすたとその中を通り一番前に立った。


「コー!!!!お前何してる!!!」


サキが怒り任せにコーシの腕を掴み上げたが、コーシはそれを思い切り振り切った。


「邪魔するなよサキ。あと数秒なんだ」

「今すぐここから離れろ!!!」


コーシはサキを睨み上げると、負けずに怒鳴り返した。


「俺から見ても馬鹿なことをしてるのはサキの方だ!!こんな死に方したら一生許さないからな!!!」

「お前がここで何が出来る!?犬死にしかならないぞ!!」


コーシはサキそっくりの不敵な笑みを浮かべると間近に迫ったバイクを指差した。


「時速70キロ以上で5秒」

「あ!?」


コーシはレンチを手にした右腕を掲げ上げた。


「これが俺の戦い方だっ!!!」


目の前まで轟音を立てて直進してきたバイクが、まるでコーシの声に呼応したかのように急に崩壊を始めた。

後ろに続くマシンも次々とパーツをばら撒きながら崩壊していく。


護衛兵達は驚愕の悲鳴とともに次々とバイクから放り出された。

M-Aは突然の阿鼻叫喚な事態に目を見張った。


「な、なんや!?!?これは第二地域のバイク崩壊と…同じ!?」


サキははっとするとコーシの手にした見慣れたレンチを見た。


「コー…お前まさか…」

「あのバイクが厄介の種になることは明白だっただろ?昨日の夜のうちに仲間達と仕掛けてきたんだ」


コーシはわざと何でもないことのように顔をつんと反らせた。

見覚えのある仕草にカヲルの顔が一瞬ほころんだが、まだ戦いは終わったわけではない。すぐに顔を引き締めた。


「コーシ、あとはあたし達が引き受ける。お前はすぐにさがってろ」


コーシは黙って頷くと数歩下がった。

何ができて、何ができないのかは自分でもよく分かっている。

グランは低く笑うと立ち上がる護衛兵にナイフを構えた。


「思わぬ伏兵に勝機を与えられたな。よくやったぞそこのチビ」


アオイも手に剣を持つと不敵に笑った。


「見直したよコーシ。しょうがないから今度くらいはサナに会いに来たらちゃんともてなしてあげるよ」


コーシは微妙な顔をしながらも声を上げた。


「お前ら…負けんなよ!!!」


サキはコーシを見つめるとため息をついた。


「誰に言ってるっ。そこで昼寝でもして待ってろっ」


くるりと踵を返すとサキは先頭に立った。


「敵が持ち直して来ることを待つことはない!!行くぞ!!」


号令と共に猛攻を仕掛ける。

ボイルエッグはまさかの事態に顔中に脂汗を浮かべると、まだ決着もついていないうちに後ずさり始めた。


「…まずいぞ…!このまま押されれば私の命が危ない…」


じりじりと南の塔側に寄っていると、その頭上から高らかな笑い声がした。


「これだけの備えが有りながら尚不利を呼び込むか!!代われ!!俺様が相手をする!!」


現れたのは大勢の男達を従えた精悍な男だった。

サキは地上から現れた男を見上げると大音量で叫んだ。


「ザリーガ!!!やはり現れやがったな!!」


つられて上を見たコーシはさっと顔色を変えた。


「あれがザリーガ…!!!なんだよ…あんな数今から相手にできるかよ!!!」


ぞろぞろとこちらに向かって走る男達は、護衛兵を倍にした数はいる。


ボイルエッグは目の前を通るザリーガを隠れ蓑にし、遠くからその様子を伺った。


サキはコーシを振り返ると北を顎でしゃくった。


「コー、今のうちにお前は逃げろ」

「嫌だ!!サキ、俺は…」

「がたがた言うな!!!!今すぐ殴り倒されてその辺に捨てられたいか!!!」


今までに無いくらいに怒鳴りつけられたコーシは一瞬固まった。

サキは腕を伸ばすとだいぶ背の伸びたコーシの体をきつく抱きしめた。


「…っ頼むから…。お前は、生きろ」


コーシは驚いて顔を上げた。

目が合ったM-Aも黙って頷いている。

カヲル、アオイ、グランと視線を移しても皆反応は同じようなものだった。


コーシは拳を握り締めると、瞳にこみ上げる熱いものを無理やり飲み込みながら佇んだ。

サキはコーシを離すと静かに背を向ける。

互いに顔を見ることはしなかった。


「…行くぞっ」


五人はコーシを残して前へ進む。

コーシは無力感に苛まれながらその背中に向かって叫んでいた。


「…ざけんなよ…。ふざけんなよ!!!お前らだけで何が出来るんだよ!!!皆を最後まで巻き込めば良かったじゃねーか!!かっこつけてんじゃねーよ!!!」


心を振り絞った悲痛な叫びは、五人には届かなかった。

だが思わぬ所でそれを受け取る声がした。


「その通りだコーシ。お前も人のことは言えないがな」


全く無防備だった後ろから言われ、コーシは驚いて振り返った。

サキが去るのと同時に、次々と中央塔から見知った顔が走り寄る。


「アークル!!?皆…!!!どうして!!」


取り巻き達が一斉にコーシに迫る。


「お前はどーして一人でなんでも抱え込もうとするんだよ!!!」

「この場に残ろうとしてることくらいばればれなんだよ!!」

「本当に可愛げのない奴だなお前!!!」


ライとサンドが特にぐいぐいと怒鳴りつけていると、少年たちも負けずに文句を言った。


「俺たちの仕掛けを一人で見届けるつもりだったなんて酷いじゃないか!!俺たちも最後まで戦うんだ!!」

「言っても聞かないだろうから、俺たち撤退したふりしてたんだぜ!?」


コーシが呆気に取られていると、シアンブルーとウォヌが隣についた。


「ぼやーっとしてるなよコーシ!!置いてけぼり食らってる場合かよ!!」

「お前の後ろは俺らが引き受ける。お前はいつものように勝手にしたいように突っ走るがいいさ」


コーシは雑に目元を拭うとすぐに顔を上げた。


「…皆…。…行こう!!!」


アークルとぴたりと視線を合わせると二人で先頭を切る。

その後ろにぞろぞろと人が続く。

だが後ろにいたのは、少年達だけではなかった。


サキたちの次の戦いは、もうすでに始まっていた。

地面に投げ出されていた護衛兵は立ち上がるとそのまま襲いかかって来た。

痛む体はお互い様だ。

我慢比べのような厳しい接戦が繰り広げられていた。


「サキ!!!お前は先に行け!!!ザリーガの首を叩き落として来い!!」


M-Aが手首を押さえながら必死で叫ぶ。

限界が近いのは、誰の目にも明らかだった。


「行け!!サキ!!!」


カヲルも傷だらけの体を庇いながら声を振り絞る。


「サキ!!」

「迷うくらいなら初めからこの場に立つな

!!」


アオイとグランディオンも体を引きずりながら叫んだ。

サキの瞳が揺らいだ瞬間、他からも次々と声が上がった。


「やっぱりこんなことになってんじやねーかM-A!!ふざけんなよてめー!!!」

「撤退とか生ぬるいこと言って自分らはこれかよ!!!」


M-Aはぞろぞろと駆けつける南区の男たちに目を見張った。


「ファイア!!エンビエンス!!?お前ら…なんでまだこんなとこ来とんねん!!!」

「なんでだと!!?それはこっちのセリフなんだよ!!!護衛兵だろうとなんだろうと、俺たちはこの南区を害する連中を排除するだけだ!!!」


雄叫びと共に男達は勝手に護衛兵に襲いかかった。


「サキ!!カヲル!!グランディオン!!こいつらの指揮はばっちり取らせて貰ったぜ!!!」


強気にしゃしゃり出たのはロバンとユカンだった。


「俺たちは皆一蓮托生!!取りに行こうぜザリーガの首をよぉ!!!」


連合軍の生き残りも雄叫びに揺れる。

サキは頭を抱えていたが、顔を上げると大音量で叫び声を上げた。


「行くぞこの大馬鹿野郎どもが!!!着いた先が地獄の果てでも後悔するなよ!!!」


全てが一体となり大きく揺れ動いた。

皆の顔には恐れも迷いも微塵も浮かんでいない。

ただこの最終決戦の結末を自らの手で掴み取るために誰もが最後の力を振り絞っていた。

サキは迫り来るザリーガを振り返ると男達と共に走り始めていた。

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