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Saki & Koshi  作者: ゆいき
それぞれの結末
128/176

第二地域

ジーバルは思った以上に数の減っていない敵陣を見て舌打ちをした。


「ハンズの野郎、しくじりやがったのか?

街の者たちも捨て石にすらなれんとは呆れた無能揃いだな」

「ジーバル様、バイクの準備は二百台も整っています。蹴散らしてやろうぜっ!!」


血の気の多いザリーガの仲間たちが今か今かとエンジンをふかしている。

二人で乗る者は手に長い刃の付いたセラミック刀を持ち、興奮気味に振り回している。

ジーバルは鎖を引くとカヲルを引き寄せた。


「お前も来いイナザミ。あそこがお前の生きる場所だ」


カヲルはいつものようにただ薄い布を胸元と腰に巻いていた。

大きなルビーを入れたチョーカーとアメジストの瞳がその白い肌を引き立てる。

だがいつもは雪のように白い髪は炭で黒く染められていた。


普段のカヲルを知る者は、この姿を見ても確実にカヲルだと気付かないだろう。

ジーバルはカヲルの顔を上げさせると、眼前に迫る敵を見せた。


「いいかイナザミ。あれがお前の仇どもだ。あいつらを皆殺しにした時がお前の復讐が済む時だ。全員、殺せ。心置きなく死ぬまで踊り続けるんだイナザミ」


小太刀を持つカヲルの手に力が入ったのを確認すると、ジーバルはカヲルの鎖を切った。


「いいかお前ら!!何も考える必要はねえ!!あいつらを沈めればザリーガが天国のような街を作り上げる!!殺して殺して殺しまくれ!!」

「うおおぉぉぉーーー!!!」


雄叫びとエンジン音を最大限に響かせると、ジーバル部隊はサキに向けて走り出した。


サキは後ろから追いついて来た西区の者たちも引き連れ土煙の上がる前方を凝視していた。

西区部隊をまとめるビーハンはサキに走り寄ると小声で言った。


「サキさん。西区のビーハンです。あれを…あの数のバイクを相手にどう組んだらいいんですかね!?」


その声には焦りがある。

このままでは騎馬戦に徒歩で対峙するようなものだ。

サキは前を見据えたまま厳しい顔で言った。


「そのために西区のお前らにはボーガンを持たせてあるだろ。左右に割れてバイクのタイヤをひたすら狙え。下に落ちた奴らは俺らが引き受ける」


ビーハンは頷きを返すとすぐに後方に戻って行った。

M-Aは物騒に目を細めると唇を動かさずに言った。


「ここは、踏ん張りどころやな。混戦になりそうや」

「あぁ、なんとかグランたちを無傷のまま第三地域に行けるようにしなければならないからな」


サキは前進を止めると後ろを振り返った。


「見ての通り次の相手はバイクで突っ込んでくる。お前たちはとりあえず防御に徹しろ!!西区の者たちがバイクをひっくり返したらお前たちは下に降りた者たちを相手にしろ!!」


サキが合図を送ると西区の者たちは左右に割れて走り出した。

その数秒後に到着した大勢のバイクが中央区の者たちを引っ掻き回しだした。


サキは銃を取り出すと手近なバイクから撃ち落とし始めた。

その命中率は高く、一発打てば必ず一台のバイクが地面へ転がった。


だが西区の者たちはそうそううまくタイヤを狙えなかった。

すぐ近くには逃げ惑う味方の姿が見える。下手をすれば同士討ちだ。


「何迷っとんねん!!早よ撃たんか!!」

「M-Aさん!!で、でもこれじゃあ!!」


ジーバルの手下たちは思う存分暴れまわっていた。

中央区部隊もなんとか応戦するがやはりその足の速さにはとても敵わない。


「サキ!!やばいぞ!?思ってたよりバイクは厄介や!!早く手を打たんとやられてまうぞ!!」


M-Aが叫び、サキが次の合図を送ろうと手を上げた途端、あちこちで悲鳴が上がった。


「な、なななんだ!?」

「バイクが勝手に!!!」


軽快にバイクを走らせていた男たちがそれから放り出され地面を転がり始めた。


「な、なんや!?」


M-Aも目を剥いたがどう見ても急にバイクが壊れたようにしか見えなかった。

二百台中実に八割もバイクは崩壊を始めた。


「サキ!!どういうことや!?なんかしたんか!?」


サキは銃を懐に直しナイフを引き抜いた。


「分からん!!…分からんが、好機だ!!」


サキは動揺する仲間に一括した。


「今を逃すな!!!全隊ジーバル共にかかれ!!!」


自らも愛車で出陣していたジーバルは憤怒の形相で叫んだ。


「馬鹿どもが!!!一体何をしてやがる!?さっさと立たねーか!!敵を迎え撃て!!」


ジーバルの怒号に男たちは立ち上がると、手に武器を握り直し襲い来る敵に立ち向かった。


「イナザミ!!行け!!」


カヲルはジーバルのバイクから滑り降りると、敵味方なく手にした小太刀を閃かせた。

その太刀筋は風のように速く、切られたものは全く何が起こったのか分からないまま地に沈んだ。

合戦とは違う異様な殺戮現場が築かれていく。


ざわめきを聞きつけたM-Aは視線を送るとすぐにその正体に気付いた。


「カヲル!!!」

「何…!?」


サキは四人を同時にそのナイフに引っ掛けると、一気に吹き飛ばしながら振り返った。


「サキ!!悪いな!!俺は一回抜けるぞ!!あいつを止めやな!!」


M-Aは叫ぶと同時に走り出した。

サキはビーハンに合図を送ると大声を出した。


「西区の者を俺の周りに固めろ!!!」

「は、はいっ!!」


ビーハンはすぐに反応すると号令をかけに走り回った。


「カヲルに西区の奴らを切らせるわけにはいかないだろっ。頼むぞM-A…」


サキは小さくつぶやくと、再び二本のナイフを踊らせ始めた。


M-Aは邪魔な男たちを殴り倒しながらカヲルに近付いた。


「カヲル!!!俺や!!!なんやねんその頭は!!」


カヲルはこちらを見もせずに目の前の男に襲い掛かった。


「やめろっ!!そいつは敵やない!!」


落ちていたナイフを手に取るとM-Aはその間に滑り込んだ。


「M-Aさん!?な、なんだこいつは!?」

「ええからここから離れろ!!」


カヲルはすぐに飛び離れると次の獲物に切りつけようともう走り出している。


「カヲル!!ちょお待てやお前!!!」


M-Aは足に渾身の力を込めると凄まじい瞬発力でカヲルに詰め寄った。

小太刀を振り上げた腕を掴むとその勢いでカヲルの鳩尾に容赦無く拳を叩き込む。


M-Aの本気の一撃をまともに食らったカヲルは顔を歪ませるとその場に膝をついた。


「やっと捕まえたぞカヲル!!正気に戻すまでもう離さんからな!!覚悟しとけ!!」


M-Aはカヲルを担ぎ上げると、壊れていないまま転がっていたバイクにまたがりそのまま戦地を離れて行った。

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