特技
一週間もすると、コーシはだいぶ動き回れるようになった。
「呆れたタフさだなお前。チビのくせに」
サンドが日に日に黒くなる自分の顔の痣を冷やしながら言った。
「まだあちこち痛みはあるけどな。っていうか痒くて仕方ない」
かさぶたになった鞭の跡をさすりながら、コーシは工具のチェックを続けた。
「うん、全部無事に揃ってる。さんきゅーサンド。もうこのポーチ手元に絶対戻らないと思ってたからさ」
嬉しそうなコーシにサンドはつられて口の端を上げた。
「お前いつでもそいつぶら下げてたからな」
死体始末所での夜の乱闘後に、どうやらサンドは落ちていたポーチを拾っておいたらしい。
バイク置き場にわざわざ届けに来たサンドに、少年達は飛び上がって遠巻きにしていたが、穏やかにコーシと喋る姿を見るとおずとずと近寄って来た。
「それにしてもガラクタだらけだなここは。見事に色々バラしてやがるな」
「あ、それは…僕がやったんです」
思わず言ったのはクールスノーだ。
サンドに睨まれると消えてしまいそうなほど小さくなり、コーシをちらりと見た。
「クールスノーはバラすのがすごく上手いんだ。ここにあるのはここにいる皆がやったんだぜ」
コーシが言うとサンドは軽く目を見張って少年達を見た。
「本当かよ。ちょっとやってみせろよ」
コーシは皆が萎縮すると思い断ろうとしたが、その前にホワイトアッシュが立ち上がった。
「ちょうどいいじゃないか。コーシ、俺たちこの一ヶ月でフォーメーションを組んだんだ。見ててくれ」
コーシが目を丸くしていると、少年達は一斉に動き出した。
何人かが古びたバイクを三台運んでくると、ホワイトアッシュが掛け声をかけた。
「目標は十分以内だ!!よーい、始め!!」
少年達は綺麗に四人ずつ組み別れると、それぞれのパーツに噛り付いた。
サンドは呆気に取られてコーシをつついた。
「お、おい。一体何が始まったんだ?」
「すごい…完璧な流れでバラしてるよ」
二人の目の前で、バイクはあっという間にただの鉄の部品になった。
少年達はガッツポーズを決めるときらきらした目でコーシを振り返る。
コーシは感心して声を上げようとしたが、その前に野太い声がのし上がった。
「すげーじゃねーかチビども!!!」
思わぬ声に少年達は飛び上がった。
サンドは太い腕を組むと何度も頷いてバイクだった塊を見た。
「ほー、へー。なるほど、これがエンジンか。となるとここで出力がかかわるから…なるほどなぁ。お前らにこんな特技があるなんて知らなかったぜ」
感心して眺めるサンドに、コーシは苦笑した。
「サンド、もっと皆のことも見てやれよ」
「相変わらずくそ生意気だなコーシ」
じろりと睨まれてもコーシはびくともしない。
「皆怖がらなくていいぞ?いいかよく聞け。このサンドはな…実は、すっげーーー、いい奴だ」
サンドは真っ赤になると仁王立ちした。
「お、お前!!!変なこと言いふらすんじゃねーよ!!!」
コーシはけらけら笑うとサンドの腕をするりとかわした。
少年達は目をぱちくりさせたが、コーシの一言で明らかにサンドを見る目が変わった。
「ばっ、ばかやろ!!そんな目で見るんじゃねーよこのクソガキどもが!!俺は部屋へ帰るぞ!!!」
ぷりぷりと怒りながら通路へ向かったが、その手前で振り返るとコーシを睨みつけて言った。
「おいコーシ。リーダーが今夜部屋へ来いって言ってたぜ。忘れるなよ」
コーシは顔を引き締めると一つ頷いた。
「…分かった」
直感的に今度の争いについてだと感じた。
避けては通れぬ道が来る。
その時自分はどうしているのだろうか。
さっきまでの浮かれていた気持ちが一気に沈むと、コーシは目の前で無邪気に笑う仲間をなんとも言えない思いで見つめていた。