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Saki & Koshi  作者: ゆいき
赤子連れの統括者
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消えたコーシ

サナの部屋の前に立つと、話し声が聞こえてきた。


「コーちゃんは、いい子だね〜。痛い痛いすぐ飛んでいくよ〜。ほら大丈夫でしょう?」

「あい」

「うんうん。でもこれ転んだんじゃなさそうだね。まさか誰かに何かされたの?」

「あき」

「え…!?サキ?本当?」


サキはたまらず扉を開けた。


「おいコー!!誤解生むようなこと言うなよ!!ってかそんなに喋れたのかよお前!?」


コーシは口を閉じるとさっとサナの後ろに隠れた。


「コーちゃん?どうしたの?」


サナが抱き上げると、顔を隠すようにしがみついてくる。

サキは腹たち紛れにコーシの頭を突っついた。


「お前…差別してんじゃねーよっ!!俺にも喋りやがれ!!」


サナは笑いながらコーシをあやしたが、サキを見ると少しだけ不安な顔を見せた。


「コーちゃん、危ない所に連れて行ってるの?」


サキは苦笑すると肩をすくめた。


「このスラムで危なくない所なんてないぜ?こいつもだけど、お前も気をつけろよ?」


色の薄い細い髪を指ですくと、サキはぽんとサナの頭を軽く叩いた。


「何かあったら、俺に言えよ。お前は一人じゃないんだぜ?」


サナは瞳を大きく開いた。

じっとサキを見つめていたが、柔らかく微笑むと首を振った。


「ありがとう。一人でも、大丈夫だよ」


反応したのはコーシだった。

顔を上げるとそっとサナの頬に手を当てる。


「いたい、いたい、っけー」


サナがさっきしていたように、手を空に向けて痛みを飛ばそうと頑張っている。

それから驚いて凝視してくるサキをきっと睨んだ。


「あき、めーーっ」

「…んのガキ…」


サキはコーシのほっぺを軽く引っ張ってやった。

サナが笑いながらコーシの頭を撫でているのを見て腕を組む。


「こいつの方が、サナを守ろうとしてたんだろうな…」

「…え?」

「いや、なんでも。おいコー、これからも頼むぞ」


コーシの頭をくしゃくしゃに撫でると、サキは部屋を後にした。


翌日、いつものようにコーシを連れてサキはカヲルの元を訪れていた。

コーシは昨日以外はやっぱり口を開こうとせず何を話しかけても黙っててくてくと歩いている。


「なんでサナにはあんなに喋るのに俺はだめかなー。おいこら、コー。誰が泣き叫ぶお前に夜な夜なミルクやったと思ってやがんだよっ」


コーシはちらりとサキを見ただけでやっぱり黙ったままだ。


「サキさーん!!何一人でぶつぶつ言ってんすか?」


馴染みの男たちが声をかけてくる。


「なんでもねーよっ。それより今日はカヲルはいるか?」

「いや、いないっすよ?」


サキは舌打ちすると、カヲルが姿を見せるまでいつものように男たちと雑談しながら待つことにした。


コーシはすっかり慣れたこの廃地区をウロウロしていた。

好奇心から少し足を伸ばして低い建物の裏を覗き込むと、小さな猫が目の前に飛び出して来た。


動物を見たのは生まれて初めてだ。

コーシはびっくりしたが、そっと手を伸ばしてみた。

だか猫はすぐに踵を返すと薄暗い路地へ走り去って行った。


サキが気付いた時には、コーシの姿は全く見えなくなっていた。


「コー?」


あちこちみて回ったがやはり見当たらない。


「コー!!コーシ!!おいっ誰かコーシ見なかったか!?」


男たちもその辺を覗き込むが皆首を振った。

サキは脇目も振らずに走り出した。


「コー!!」


一番高い所まで駆け上がると目を凝らす。


「コーシっ…!!」


サキは今までで味わったことのない焦燥感に苛まれた。

下に降りると顔を出した男たちに声を張り上げた。


「皆集まってくれ!!コーシがいなくなった!!危険地区を先に集中的に探す!!

二十人ほどはこっちについて来てくれ!!」


彼らのボスはサキではない。

よってこの命令に従う義理は全くない。

だがサキがこの数カ月でまとめ上げた男たちは、当たり前のようにその言葉に従った。


「コーの身の安全が最優先だ!!行くぞ!!」


サキには天性の支配者気質がある。

相手の呼吸を巻き込むその命令は、男たちに疑問を抱かせることもなく響いた。

皆は一斉にコーシを探す為に走り始めた。

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