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転生記録シリーズ

とある神様の転生記録

作者: 猫月 葉



 やあやあ皆様はじめまして。私、この度晴れて神となりました元人間の名無しです。あいにく、まだまだ新参者の神なもので明確な名はありません。故に、便宜的に名無しと名乗っております。あしからず。

 神になる過程で通算100回ほど人生(たまに神以外の人外生)をやり直し……あ、いや、やり直したのは99回ですけどもまあ取り敢えず神になる前の名前はちょっと勘弁してください。言おうと思ったら全員言えますけど、あまりに多いので聞いているのがめんどくさくなると思います。それに、神になってしまった今ではそれ以前の名前なんてもう関係ありませんしね。


 閑話休題、それはさておき。

 実は私、転生中はほとんど眠ったままで、転生する度に違う人格で生涯(もしくは神以外の存在での人外生)を送っていたんですよ。それがなかなか面白い話もありまして、折角だし一から記録に書き出すことにしました。大元の人格である初代の私(転生の度に人格が変わっていたので私はそれぞれを魂は同じだけど独立した一つの意識体と認識しています)の記憶はズボラな性格も合わさってあまり覚えていないんだけど、それ以降は完全記憶のおかげで忘れたくても忘れられないし、いい機会だと思ったのです。


 さて、今回の話はいきなり転生も終盤に差し掛かった72回目の転生時のことなんですが、最近話題の乙女ゲームの世界に転生しちゃった! なやつなので読みやすいんじゃないかと思います。

 時によって口調が変わる上、拙い文章ではありますが、どうぞ楽しんで読んでやってください。ではでは皆々様、私の転生記録をご覧あれ。






Vol.72




 唐突だが、ここは乙女ゲームの世界である。タイトルは忘れた。ただし学園ものであること、陰陽師が出てくること、これに付随して妖という妖怪変化の類も出てくるということは覚えている。

 この世界が乙ゲーの世界だと気がついたのは、というよりも一番古い人格である“私”の意識が浮上したのは、今世で73代目に当たる光明(こうみょう) (あかり)がとある学校に入学してしばらく経った、ある日の帰り道でのことである。


 ――今代の私は、妖と遭遇した。






 ・

 *

 ・






「いきがるなよ、小僧ども。今代が妖と間見えたのはお前たちが原因であると知れ」


 公明党(名前を音読みしたらこうなるので、私はそう呼んでいる。実際の政党とは関係ない。ついでに言っとくと光明灯は仏壇に飾るアレ)が妖に遭った日の翌日放課後。本編通りに攻略者たち生徒会執行メンバーに呼び出され前日の出来事に関しての説明を半ば強制的に聞かされた私は、今を生きるものに影響を与えないようにと自らに課した約定を忘れて眼前に居並ぶ野郎どもを睨みつけた。

 今代とのギャップに驚く様はさぞかし見ものであったろうが、この時の私は色々と頭に来ていて全く目に入っていない。とても惜しいことをしたと今では思う。


「えーっと、なんの冗談かなぁ、灯ちゃん?」

「ふん、うつけ者の小鬼なんぞに冗談言ってどうするか。つーか、馴れ馴れしく今代の名前呼んでんじゃねーよ」


 ゲームではお調子者でおバカさんなムードメーカー役の副会長が不穏な空気を察してか軽い口調で場を和ませようとしたが、その努力は他ならぬ私の言葉によって水の泡と化す。そも、冗談を言うくらいならさっさとこいつらの記憶でもなんでも改竄(かいざん)してトンズラしとるわ。ついでに今代の力も封印してな。


「おーおー、固まっとるなぁ。なんだ、(おの)が妖気も抑えきれとらん子鬼に、私が気付かないとでも思っていたのか? だとしたらなんと愚かなことか。この私を騙そうというのなら、人生ひゃっぺんやり直してこい」


 実際私はすでに70回以上人生やり直しとるからな。あと30回ほどで百を超えるぞ。まあ、4代目以降は“力”封印してほとんど眠っとったけど。

 そんなことを頭の片隅で考えつつ、先ほどから感じていた術の気配を力任せに払う。誰の術かは確認するまでもないので、おそらくは内心の動揺を隠そうと無表情を貫いている俺様メガネ(せいとかいちょう)(笑)に向かって嗤いかける。


「ましてや、その程度の力しか持たん小鬼と(つる)似非(えせ)陰陽師の術なぞ、私に効く筈もなかろうよ。なあ、そうは思わんか?」


 同意を求めるように語尾を上げ、白衣の化学教師兼生徒会顧問に視線を向ける。


「随分と弱体化しているようだが……お前、この辺りの土地神だろう? 気配が近くの襤褸(ぼろ)神社から感じる気と同じだからな。私の存在に気付くまではいかずとも、違和感くらいは感じていただろう――ああ、今代の力はお前関係だったか。少し似ているな。……ふむ、こうかね」


 喋りながらやっていた今代の力の解析が終了したので、内に向けていた“目”を化学教師に移す。同時に彼の手を取り、判明した今代の力を流し込んだ。

 途端に強い光が視界一杯を埋め尽くし、段々と暗くなりつつあった生徒会室にひとときの昼間を作り出す。


「……っ!? 力が戻った…………?」


 すぐ近くで聞こえた声につられて反射的に瞑っていた目を開けると、驚愕と困惑をない交ぜにした感情を顔に浮かべた生徒会顧問――否。神聖な雰囲気を纏う土地神の姿があった。

 彼の力がきちんと戻ったのを確認して、しかし若干の後ろめたさを感じた私は(ほう)けた様子の神から一歩距離を取って頬を掻く。


「あー、人化が解けちまったか。すまん、一気にやりすぎた。……つかお前、龍神だったのな」


 あー、なんか懐かしいな。私が最初にあった龍は、まあ同じ種族にカテゴライズされるのだろうけれども西洋的な、竜と書いてドラゴンと呼ぶのが相応しい雌の個体で……この土地神と同じような明るい青色の髪をしてたんだよねえ。世界によって時間の流れ方も違うし、生きてるかどうかっつうか、そもそも私時間さえも跳躍して転生繰り返してるから生まれてるかどうかも怪しいんだけど、元気にしてるかしら。あの子、見た目賢そうなのに竜故にちょっと抜けてて、すんごく可愛かったんだけどなー。もふもふよりは劣るけど、私にとっては精神的にかなり癒しになってたし。ああ、なんか会いたくなってきた。そしたら今のこの、ささくれ立った感情も落ち着かせられるような気がするよ……はぁ。

 なんてこっそり溜息をついている間に、龍神は私がどういう存在が察してしまったらしい。さっと顔色を変えたかと思うと急にかしこまった仕草で(ひざまず)こうとしたので、慌てて()めさせた。


「確かに“私”の“力”は強大だ。けど、今の私はあくまでもただの人。それ以上でも、それ以下でもない。そう生まれたのなら、それ以外になるつもりもない。故に、本物の神である貴方が変に畏まる必要はないよ」


 若干動揺して素の口調に戻ってしまったんだが、土地神以外は皆衝撃を受けてそれどころじゃなかったらしい。封を解いてそのままにしていた私の“力”が、勝手に他人の感情(というよりは波長の乱れ)を感知して私に伝えてくる。……土地神、誰にも正体言ってなかったのかよ。いや、まあ普通は言わないか。ゲームでは会計ルート一回こっきりしかプレイしてなかったから正体なんて知らなかったし……私ですら封を切った後じゃないと認識できないくらい脆弱な気配だったものなあ。曲がりなりにも神様だし、気付く奴がいなくても当たり前か。

 まあとにかく、龍神が私の言葉に肯定を示したので今度は隠すことなく溜息を吐き、生徒会室から出て行こうと踵を返す。ガラリと小気味よく扉をあけてから言い忘れがあったことに気がついて、首だけ振り返った。


「そうそう、あんたらは今後、一切とは言わずとも必要以上に関わってくるなよ。お前らと連んでたら今代の命がいくつあっても足らんし、面倒だ。あ、土地神は別な。役目を果たす限りは今代にも協力させるから。――じゃ、ま、そういうことで」


 ひらりと手を振って今度こそ生徒会室を出る。ぴしゃりと閉めた扉を背にしてぐいーっと大きく伸びをすると、私は昇降口に向かって歩き出した。






 ・

 *

 ・






《-•-•• ••、-••-• •-•-•?》

「ん? なに、口止めしなくてよかったのかって? ああ、そういえば忘れてたね。どうしようか」


 今までずっと黙ったままだった今代に「初代の存在を口止めしていない」と指摘されて、私は今代のベッドの上であぐらをかいて腕を組む。しかしすぐに面倒になって、思考を放り投げた。


《--•-- -•-•• ---》

「ま、いいでしょ別に。私が起きている間はどんなセキュリティシステムよりも安全だし。公明党、君に色々と教えこんだら私はまた眠りに就くし。ああでも、その前に変な虫が付かないよう護身術をみっちり仕込んであげる」

《……--•• -••- •-•-•。--•• --•-- •-•-•》

「にっしっし。問答無用、備えあれば憂いなし。そうと決まれば公明党、ちゃっちゃと入れ替わってちゃちゃっと依代作っちゃって。その為に寄り道してきたんだから」


 全然乗り気じゃない様子の今代をせっついて体の主導権を入れ替える。いやあ、年の功って素晴らしいよね。昔はこの切り替えが全然できなかったのに今ではもう呼吸をするのと同じ感じでできちゃうし。ああ、ちなみに体の主導権入れ替えても周りは全部見えてるよ。もちろん逆も然り。だから今代も生徒会室での事は全部知ってるし、ついでに言うと私が目覚めるのと同時に魂の記憶も受け取ってる上一晩挟んだおかげでとりあえずの受け入れも完了してるから今代にそれほどの混乱はないよ。でもまあ、やりとりの最中はものすごく驚きまくってるのがダイレクトに伝わってきたものだったから、笑いを(こら)えるのが大変だったわあ。


「……依代、作ってあげませんよ」


 驚きの嵐が吹き荒れていた今代の事を思い出して思わず忍び笑いを零すと、彼女が拗ねたように唇を尖らせてそう言ってきた。いかん、今の状態だと相互の感情が筒抜けなの忘れてた。と少々焦りつつ、作ってもらえないのは非常に困るので今代に謝罪の念を送って前言を撤回してもらう。

 ……というか、依代なくして迷惑被るのは実質公明党なんだけど。そこ分かってる?


「分かってますよぅ。ちゃんと作りますから、安心してください」


 そう、よかった。じゃあ、邪魔をしないように私は少し眠っておくよ。浅い眠りだから、呼びかけてくれればすぐに起きる。じゃ、おやすみ。またね。


「はい。おやすみなさい」


 今代がふわりと笑って私に挨拶を返すのを、デジタル時計の画面越しに見た私は意識の深い場所へと沈んでゆく。


(さて、よく考えたらイベントどころかストーリー丸ままクラッシュしちゃったけど、明日はいったい何が起こるかしら)


 ――なんて、ちょっぴり明日を楽しみにしつつ、私の意識はすぐにぼやけていった。








 続きません(笑)


2014/5/3

 73代目→74代目に訂正しました。転生は73回目ですが、転生0回目の初代を1代と数えるので、74代目になります。


2014/9/17

 諸事情により73回目の転生&Vol.73→72回目の転生&Vol.72に変更いたしました。それに伴い、74代目は73代目となります。





*オマケ:攻略者目録*


No.1生徒会長

 俺様ドSメガネ。メガネは伊達だったりする。なんだかんだツンデレで、実はもふもふ信者。実家は由緒正しい陰陽師の家系で、時期当主。力は初代からすれば足下にも及ばないひよっこ。「この世界、この時代では優秀なのかなぁ?」くらいの認識。


No.2副会長

 会長の先祖に「一緒に鍋しようぜ!」との誘いにノコノコ出てって術をかけられちゃったおバカさんな鬼。生徒会のムードメーカー。かなり本気で「馬鹿じゃねえのこいつ。もうちょっと人疑えよ」とか思ってる。


No.3会計

 生徒会最後の良心、傍から見てるとヤキモキすること間違いなしの純情少年。会長の幼馴染。会長の真似してたら陰陽術を覚えちゃった何気にすごい人。でも、初代は未だに何故会長の後を追いかけたがるのかと疑問に思っている。


No.4書記

 自称ただの一般人、ミステリアスと言えば聞こえはいいが実際はただの不審人物な敬語キャラ。本性は妖狐のようだが、なんだか邪気をまとっていて「なんでだろう?」と初代は首を捻っている。耳と尻尾をもふもふしたいので、こいつに関しては「関わってもいいかな」なんて考えていたりする。


No.5生徒会顧問

 激甘党な化学教師。73代目とはスウィーツ談義で盛り上がりそう。正体は学校周辺の土地神様で、信仰が薄れた現代で絶賛弱体化中。今代はどうやら龍神の巫女としての力を持って生まれたようで、「消えたら後味が悪い」とブツクサ言いながらも古い友人に似ているので珍らしく初代が協力をしている。


No.6音楽教師

 何故か生徒会室に入り浸る派手な格好の外人教師。昼飯を取られた経験があるので、初代から若干の恨みを持たれてる。ゲームのキャラ紹介文から、初代はヴァンパイアではないかと睨んでいる。とゆーか実際血の臭いがするのでほぼ確信している。






P.S.

 この話には元になった乙ゲーがちゃんと存在します。具体的に言うと○reeに。なんかもうすぐ無くなるみたいですけど。

 まぁそれはさておき、本編には元にした乙ゲーのタイトルも登場キャラの名前も出してはいないしストーリーも出す以前に(クラッシュ)されたので二次創作には設定しなかったのですが、分かる人には分かってしまうと思いますのでここに記しておきます。


 最後に、ここまでお読み下さった読者様方に心よりの感謝を。それでは皆々様、御機嫌よう。

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