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竜を喰らう者  作者: ヨクイ
第1章 エルフの娘
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第5話 ソフィアの力

 すらりと背の高いエルフは、緑に覆われたなだらかな斜面をゆっくりと登ってきた。

 色白の肌に、長い耳。金色の髪は、光の加減で、やや緑がかっているようにも見える。

 ゆったりとしたベージュの服に身を包んだ彼の姿は、とてもはかなげだ。

 エルフは、二人まであと少しの場所まで来ると、声をかけてきた。


「アレク様ですか?」


 アレクのよく知っているエルフに面影はよく似ていたが、彼の口から出た声は、自分の記憶の中にあるものとはずいぶん違った。


「ボロワース? だよね? 久しぶり」


 すっと通った鼻筋に、優しい瞳。確かにそれは、アレクがかつてよく話をした、知りたがりの少年のものだった。

 今は成長して、すっかりおとなのエルフになっているけれど。


「おどろきました。まさか、あなただとは思わなくて」


 ボロワースは、すらりと高い背を折り曲げるようにして、アレクと握手をした。


「ファーロンはいるかな? まだ生きてる?」


「長老はまだまだお元気ですよ。――アレク様、いくらなんでも長老が今の言葉を聞いたら、怒りますよ」


 そんなことを言いながらも、彼は笑っていた。人懐っこいような笑顔は、昔と変わらない。


「もちろん秘密にしといてよ。それにしても……、そうかあ。ファーロンは長老になっちゃったか」


 懐かしい。アレクが知っているファーロンは少し気難しい初老のおじいさんだった。

 だが、彼は常にこの村の中枢に深くかかわっていて、彼ら一族の歴史にも詳しく、頭が切れる人物だった。


「稀代で一番の長老だって、うちのばあちゃんなんかは、そう言ってますけどね。正直言って、僕にはよくわかりません」


「それはそうだろうね。比べる人がいなきゃ」


 エルフの長老ファーロンの家は、村の中の少し奥にあった。


「これは、これは。アレク様。よくいらっしゃいました。」


 長老ファーロンは、アレクに恭しくおじぎをした。白く長くなった髪が印象的だった。


「久しぶりだね。まさか、ファーロンが長老になっているなんて、思いもしなかったよ」


「おかげさまで。アレク様も、お変わりなくお元気なご様子で安心いたしました。――それで、そちらのおじょうさんは?」


 ソフィアに目をとめた長老ファーロンは、目を細めてソフィアを見た。

 戸惑った様子で頭を下げて、ソフィアは目を伏せた。ソフィアの代わりに、アレクは彼女を紹介する。


「ソフィアだ。エルフの……例の木に会わせてやりたいんだけど」


 長老ファーロンは黙ってソフィアをじっと見た。そして、少し考えてから、言った。


「エルフのようにも見える。だが、耳は短い。しかし、強い力は感じられる。――いったい彼女は何者なのです?」


 長老ファーロンのその言葉は、アレクをがっかりさせた。

 彼は、"いにしえのエルフ"を実際に見たことがないのだから、ソフィアがそれと分からなくても仕方ないのかもしれない。

 だが、今やもう、エルフ族の長老でさえ、"いにしえのエルフ"を見てもそれと分からないという事実が、アレクには少し哀しかった。


「いにしえのエルフだよ。ファーロン」


「失われた一族の……ですか? 失われたエルフの民。しかし、彼らは千年ほども前に滅びたはず」


「――それを確かめに来たんだよ。この村にある、あの木なら、彼女が本当にそのエルフかどうか、わかるんだろう?」


 二人の会話を聞いていたソフィアは、ついに口を開いた。


「あの……、待ってください。私はエルフなのですか? この私が?」


「ぼくはそうだと思ってる」


「なぜですか? 私は耳も短いし、どう見てもエルフじゃありません。魔法だって、使えません」


「ぼくは"いにしえのエルフ"の一族を"知っている"。彼らは耳が短く、とても強い魔力を持っていた。魔法が使えることと、魔力を持っていることは、意味が違う」


 それでもさらに言い募ろうとするソフィアを、長老ファーロンが手で制した。


「それは行ってみればわかること。ここで議論をしていても仕方がない。――それに、これは我々にとってもいい機会なのかもしれません。時がアレク様を、我々の村に遣わしたのかもしれぬ。アレク様にも、見ていただきたいものがあるのです」


 長老ファーロンは、杖を手にして、歩きだした。


「ついてきていただけますかな? ――おい、ボロワース」


「は、はいっ。長老様」


「これから『精霊の樹』に会いにゆく。森の奥には誰も近づけるな」


「わかりました」


 知りたがり屋のボロワースは、長老に目をかけられているのだな、とアレクは思った。

 聡明で気難しい長老には、確か、子どもはいなかったはずだ。

 ソフィアの視線を感じて彼女を見ると、彼女はアレクから目をそらして、うつむいた。

 嫌われてしまったかな、とアレクはぼんやりと思った。

 彼女がもし、本当に"いにしえのエルフ"なら、これから一緒に旅をして、自分の目的を果たすつもりでいたが、もしかしたら、そう思い通りにはいかないかもしれない。

 村にいるエルフたちの好奇のまなざしの感じながらも、アレクとソフィアはだまったまま、長老ファーロンのあとに続いた。




 長老ファーロンについて森の道をずっと歩いて行くと、急に少し開けた場所に出る。

 そこには幹の太い、大きな木が一本立っていた。

 その木は、まるで何本もある手足を広げるように、空に向かってその枝を四方にいくつも伸ばして、緑の豊かな葉を茂らせていた。


「立派になったな……」


 アレクは思わずつぶやいていた。彼が以前にこの木を見た時には、これほど立派な枝ぶりではなかった。


「これが、最後の『精霊の樹』になります」


 長老ファーロンの思いがけない言葉に、アレクは思わず彼を見た。


「最後?」


 かつて『精霊の樹』は、たくさんあった。

 それこそ、森の中を四、五歩でも歩きさえすればすぐに、その樹に会えるぐらいたくさん、だ。

 『精霊の樹』は、見た目は普通の木と変わらないが、エルフと交信することのできる特別な存在だ。エルフたちは特別なその樹木と交信し、エルフだけが使うことのできる精霊魔法をその身に宿した。

 アレクが使っている樹木を使って遠方に行く移動魔法も、元はといえば、このエルフたちの交信の力を応用した魔法だと言われている。


「どうして……?」


 アレクはがく然としていた。

 ここ数百年のうちに、一体どれほどの『精霊の樹』が失われたというのだろうか? そして、なぜ?


「わしらも長い間、『精霊の樹』を増やすために、あらゆる努力をしました。だが、ほれ、そこの樹を見てくだされ」


 長老ファーロンが指さした先、『精霊の樹』の根元には、アレクのひざぐらいの背丈まで伸びた細い木があった。正確には、葉を枯らしてしまった木が。


「新しく芽吹いても、すぐに枯れてしまうのです。何が問題なのか、わしらにはさっぱり――」


「そこにある『精霊の樹』は、その理由を教えてくれないの?」


「理だとしか、言いません。それが理なのだから、としか」


「――まどろっこしいな。でも、『精霊の樹』がなくなってしまったら、エルフの精霊魔法はどうなる?」


「……伝承できなくなるでしょう。エルフは、ただのエルフになるだけです」


 アレクは顔をしかめた。これは大問題だ。このままいけば、エルフの精霊魔法が消えてなくなる。

 だが、以前ここに来た時には、エルフたちは何も言わなかった。少なくとも、その兆候ぐらいはあったはずなのに。


「なぜ、何も言わなかったの?」


「失礼を承知で申し上げますが……。正直、アレク様がどうにかしてくださると我々は考えておりませんでした。あなた様はエルフではあらせられない。これはエルフの問題なのです。しかし――」


「万策尽きたってわけか」


 苦々しい思いで、アレクは『精霊の樹』を見つめた。

 こうなってしまっては、残された時間は限られている。最後のこの『精霊の樹』が枯れてしまったら、もうお終いなのだ。

 もっと早く言ってくれれば、手を尽くすこともできたかもしれないのに。


「わしの命ひとつで、事がうまくいくのならば、喜んで差し上げるのですがな」


 長老ファーロンは、深くしわを刻んだ顔で、『精霊の樹』を見上げた。


「――それも、試したんだね?」


 アレクが問うと、長老ファーロンは静かにうなずいた。


「『精霊の樹』は、それは理に反すると申しました」


 枯れた小さな樹を、アレクは見た。

 確かに、様々な知識を持っている自分でも、『精霊の樹』のことまではよく知らない。そもそも、『精霊の樹』と交信できるのはエルフだけなのだ。そして、アレクは長老ファーロンの言うように、エルフではない。


「おじょうさん。自分が本当にエルフかどうか確かめたいのなら、この『精霊の樹』にふれると良い。それだけで、分かります」


「わ、私は――」


 ソフィアはまだ、心の整理がついていないようだった。

 最初、アレクが彼女を見たとき、ただの大人しそうな、従順な女の子に見えたが、本質的なところは違うのかもしれない。

 それでも、ソフィアはゆっくりと『精霊の樹』に近づいた。樹の上の方に一度視線を走らせ、そっと幹に手をあてた。

 瞬間、彼女の体がびくんとふるえた。

 そばで見ていても、樹には何の変化もない。だが、長老ファーロンはその様子を見て、目を細めた。


「『精霊の樹』が応じているようですな。――間違いなく、彼女はエルフだ」


 やがてどこからか風が吹いてきて、あたりの木々の葉を揺らした。『精霊の樹』の枝にある無数の葉も、ゆらゆらと揺れ始めた。

 心配になったアレクは、長老ファーロンに問いかける。


「彼女は大丈夫なの?」


「問題ございません。初めて交信したのなら、少し時間がかかるかもしれませんが。『精霊の樹』には無数の言葉があります。ですが、次第に慣れてきます」


「今の彼女でも、精霊魔法を宿すことはできるの?」


 エルフはもっと幼いうちに精霊魔法を宿し、それを扱うための訓練を行う。

 彼らエルフの慣習からすれば、ソフィアの年齢で精霊魔法を宿すことは、遅すぎるように思われた。


「それは『精霊の樹』次第でしょうな。彼女に強い魔力があるのは、わしにも分かります。わしらのように、長く生きるエルフには、それが分かるのです。ですが、それを宿すかどうか、どの程度まで宿すかは、『精霊の樹』が決めることです」


 アレクは、ソフィアの背中を見つめた。

 彼女はまだ、『精霊の樹』に手をあてたまま、同じ姿勢で立ち尽くしている。

 どれぐらいかかるのだろう――、アレクがそう思ったとき、不意にソフィアの体から力が抜け、がくんとその場に崩れ落ちた。

 アレクは思わず彼女の名前を呼んで、彼女の元に駆け寄り、抱き起こした。しかし、彼女は意識を失っていた。


「大丈夫だって、言ったじゃないか!」


 声を荒げて、アレクは長老ファーロンをにらみつけた。しかし、彼は全く動じる様子はない。


「問題ございません。少し疲れただけでしょう。じきに意識を取り戻します。それまで休ませておけば、大丈夫です」


 慇懃無礼とはこのことだ、とアレクは思った。

 アレクは、ここに住まう全てのエルフたちの主君にあたる。

 しかし、その年月はあまりに長く、アレクも主君として不在にしている時期が長かったせいで、彼らの意識も薄まってしまったのだろう。昔は、ここにいる全てのエルフが彼にひざまずき、尊敬の念を以て、彼を敬ったものなのに。

 ベルンの言っていたとおり、アレクは確かに、このあたりのことはよく知っている。

 昔は何度もここに来たし、しばらくここで過ごしたこともある。長老ファーロンも敬意は示してくれるが、もはや彼らエルフにとって、アレクは部外者になりつつあるのだろう。

 その証拠に、アレクは『精霊の樹』が最後の一本になっていることを今まで知らされていなかったのだから。




 意識を失ったソフィアは、ボロワースの家に運ばれた。

 ボロワースもまた、そのうちに意識を取り戻すから心配ないとアレクに言った。


「彼女はエルフだったのですね」


 ボロワースは柔らかな寝床に横たわる、彼女を見つめて言った。アレクはうなずく。


「いにしえの一族の血をひくエルフだ。もう何百年も前に滅んだと思っていた」


「僕も聞いたことがあります。とても強い力を持っていたけれど、それゆえに他のエルフ一族からも遠ざけられていたと。僕らにとってはもう昔話ですが。――でも、彼女はどうやって生き残ったんです?」


「わからない。彼女は人間の世界にいた。本人にも聞いてみたけど、ソフィアは普通の人間達と変わらないスピードで成長していた。だから、誰も彼女を人間だと疑わなかったんだ。エルフと人間の成長速度は違う。それはいにしえのエルフも同じはず」


 アレクはソフィアの顔に目をやった。

 よく見ると、耳の先は少しとがって見えるが、やはりボロワースたちほどではない。

 彼女のまっすぐで淡い金色の髪が、ふわりと広がっていた。


「魔力のせいかもしれないな……」


 ボロワースは腕組みをしたまま、つぶやくように言った。


「魔力で自分の成長速度をコントロールしたってこと?」


「そうです。僕たちには到底できませんが、アレク様もご存じのとおり、魔法には本来あるべきものの姿かたちを変えるものや、植物の成長を加速度的にうながすようなものもあります。彼女はそれを、気づかないうちに自分でやっていたのかもしれません」


 それは筋の通った話だった。アレクもそういう魔法をいくつか知っているし、むしろ魔族はそっち方面の力の方が強い。


「でも、もしそうなら、なおさら彼女は精霊魔法を宿すべきです。強すぎる力は、身近な者や自分自身も傷つけることがあります。安全のためにも、彼女はその力をあやつる術を知っておいた方がいい」


 いつの間にか、ソフィアの目から涙が伝っていた。


「ソフィア……?」


 ゆっくりと目を開けた彼女は、小さく鼻をすすり、そして弱弱しく微笑んだ。


「わたしは本当に、人間ではなく、エルフなのですね」


 いつから起きていたのだろうか?

 ソフィアは傷ついていた。これまで人間として育ってきた、自分の世界が崩れたのだから。

 でも、それなら、ソフィアをその養父のところへ連れて行ったというのは一体、どういう者たちなのだろうか?

 それが分かれば、彼女の出生についての謎も解けるはず――。

 ソフィアは、ゆっくりとボロワースの方に顔を向けて言った。


「精霊魔法を、宿したほうがいいのですね? わたしはこのままでいれば、誰かを傷つけてしまうのですね?」


 ボロワースは気の毒そうに、だが、はっきりとソフィアに告げた。


「それはあくまで可能性です。だけど、宿したほうがいいのは確かです。体が落ち着いたら、長老ファーロンとともに『精霊の樹』のところに行きましょう。今度は僕も一緒に行きますから」


 ソフィアは目を閉じて、小さくうなずいた。その目からまた、涙がこぼれおちた。

 アレクはまるで、自分が彼女を傷つけたような気分になった。


(まるで、じゃない。ぼくが傷つけたのも同じこと、か)


 結局、彼女に真実を突きつけることになったのは、アレクのせいなのだから。

 だが、遅かれ早かれ、いずれ彼女は自分が他人と違うことに気付かざるをえなかっただろう。ボロワースの言ったように、強い魔力は何らかの形でその姿を現しただろうから。

 それでも、アレクは居心地の悪さをぬぐいきれなかった。

 そこへ勢いよく、バターン!と扉が大きな音を立てて開き、小さな女の子が家の中に駆け込んできた。

 ボロワースの妹の、エンシルだった。


「ただいま! お客さん、来ているんでしょう? 先生に聞いたわ!」


 エンシルは無邪気な様子で、こっちにやってきた。外見は十歳くらいに見える。エルフの年齢ではもっと上だろうが。


「エンシル、静かにしなさい。ソフィアは『精霊の樹』と初めて交信して、今まで気を失っていたんだ」


「あら、そうなの?」


 エンシルはとたんに、不自然な様子で足音をしのばせて、こちらに来た。

 そして、そっと音をたてないようにしてソフィアのそばに座る。


「初めまして。わたし、エンシルよ。大丈夫。わたしも初めて『精霊の樹』と交信した時、倒れてしまったのよ。その時はお兄様が、わたしを家まで運んでくれたのだけれど。今は精霊魔法を宿してもらって、毎日訓練をしているところなの」


「宿してもらっただけでは、使えるようにならないの?」


 ソフィアはゆっくりと、小さな声で言った。するとエンシルは肩をすくめて、さも残念そうに首をふった。


「それだと、わたしもすごく楽で良いと思うんだけど。残念ながら、宿しただけではダメなの。訓練をしないと、うまく使えるようにはならないわ」


 エンシルの言葉を補足するように、ボロワースが口を開いた。


「訓練はそれほど難しいものじゃないよ。最初はね。基本さえ覚えてしまえば、あとは応用だけです。この応用が長くて、奥が深いんですが……」


 あまり時間がかかるのでは、困る。アレクはボロワースを見た。


「基本はどれくらいで覚えられる?」


「要領の良いエルフなら、一週間もあれば覚えられます。ソフィアはもう年も大きいし、大丈夫でしょう。エンシルの時には、一か月はかかりましたけどね」


 そう言って、ボロワースはいたずらっぽく笑った。


「わたしにできるでしょうか……」


 ソフィアが不安げにぽつりと言った。しかし、それを吹き飛ばすように、エンシルが満面の笑みで彼女を勇気づける。


「大丈夫! お兄様が言ったでしょ? 基本はとっても簡単なの。それに精霊魔法が使えるようになるのって、すごく楽しいのよ。それはわたしが保証する。一度魔法が使えるようになる

と、なんでもできるような気分になるわ。精霊たちは召使みたいで可愛いしね!」


 それを聞いて、ソフィアがようやく笑顔を見せた。


「そして、応用を習い始めると、その奥の深さにがく然とするんだ。どこまでも終わりがない勉強のようなものだよ」


 ボロワースが冗談交じりに、言った。


「本当に! お兄様の言う通りなの。応用を習いだすと、うんざりするわ。今でもしょっちゅう、基本を習っていた頃に戻りたくなるのよ。今日だって、そう」


「だけど、必要なことなんですよ。エルフにとってはね」


 ソフィアは静かにうなずいた。アレクもそれを見てほっとする。


「ソフィア。ここにしばらく留まって、基本だけ教えてもらおう。まだ行くべき場所があるから。それが終わったら、ここに戻ってきてもいい。きみが望めばだけど」


 笑っていたソフィアの表情が、急に硬くなる。


「まだ何か、わたしに秘密があるのですか?」


 アレクはその様子に胸が痛んだ。

 アレクはソフィアを傷つけたくて、彼女を奴隷から解放したわけじゃない。

 ため息をひとつついて、アレクはなるべく優しい顔を作ってソフィアに言った。


「今度はきみの秘密じゃない。ぼくの秘密だよ」


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