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暴君と女神様  作者: maruisu
王宮編
8/69

第八話

サイスさんは泣いている私の頭にポンと手を置いた。


「すまなかった。たった一人で放り出されて、

心細くない方がおかしいな。

それに気が付きもせず、今日まで過ごしてしまい、

申し訳なかった。

これからは、時々会いに来てもいいだろうか」

サイスさんが泣いている私の顔を覗き込む。


「ほんとに?!」

「もちろんだ」

「あ、でも……迷惑じゃないの?」

私の中の後宮っていったら、男子禁制のイメージしかないんだけど、

そう軽々会いに来れるものなんだろうか。


「大丈夫だ。お前が心配することはない」

「それに、私、罪人なんでしょ?

そんなのと一緒にいたら、サイスさんまで悪く言われたり……」

すると、サイスさんが「はは」っと声を出して笑った。


「私は貴族なんだ。それも我が家はこう見えても

軍人としては家格の高い家柄でね。

お前が心配しているようなことは、取り立てて心配ない。

一族のものが後宮にいるから、ご機嫌伺いに

後宮へ出向いて、ついでにお前に会うくらい

造作もないことだ」

「なんで?

なんで、そんなに親切にしてくれるの?」


「そんなの、当たり前だろう?

お前は行き倒れている人を拾ったら、放っておくのか?

拾って面倒見たら、どうなったのか気になるだろう?

まして、あんな形で別れたのだ。

気にならない方がおかしいだろう?」

サイスさんが当たり前のように言うから、また涙が流れた。


そんなふうに当たり前に、優しくしてもらえるなんて。

「サイスさん……」

ありがとうってお礼を言おうとした。



「お前は、何をしている!?」

突然足音が聞こえて、腕を掴まれた。

「陛下!」

サイスさんが片膝をついて礼を取る。

怒りの形相でこちらに近づいてきたのは、

王様だった。


サイスさんに目もくれず、王様は掴んだ私の腕を引き寄せる。


そして、突然頬を叩かれた。

「わが妃が、私のおらぬところで

他の男と親しくしているとは、何事だ!?」

激しい声を上げて、王は人を見下ろしている。

「……王様」


なんで叩かれているのか、どうして腕を引っ張られているのか

よく分からないまま、目の前が痛みでちかちかする。


「お前は私の妃だ! いいか!?

私のそばを離れてはならぬ!」


なんで、なんで?

だって、人のこといないものとして放っておいたのは王様の方なのに。

ここにきて、顔を合わせたのはたった二回。

言葉を交わしたのも、二回だけ。

それなのに、なんでこんなこと言われなきゃいけないの!?


悔しい。

ものすごく悔しい。

こんなの、許せない。

わけがわからないよ!!


「私は妃なんかじゃない!!

いきなり牢に入れて、連れてこられて、妃とか、

わけがわからない!!

あんたの命令を、なんで私が聞かなきゃいけないわけ?

私が気に入らなかったら、さっさと放り出せばいいでしょ!?

王様なんだから、意のままになる人はいっぱいいるんじゃないの!?


命令すればなんでも思い通りになると思ったら、大間違いなんだよ!!」

頭に血が上って、怒鳴ってた。


来たくて来たわけじゃない世界で、自分の分からないことを

たくさん言われて、馬鹿にされて……。

たった一人、知っている人と話しただけで、怒鳴られる。

そんな理不尽なことってない。


「ええい! 余に対してその態度!!

あまりに無礼であろう!」

王様の真っ白い頬が怒りで朱色に燃え上がる。

「控えよ!」

王が声を上げた途端、しゅっと風を切る音がした。


ぱしんと音がするのと、私の肩に針金が擦れたような

熱さとも痛みともわからない衝撃がが走るのは同時だった。


「あっ!」

痛みに足元が崩れる。思わず左肩を抑えると、ぬるっとした

ものと、ひりひりとした痛みが走った。


肩を押さえてうずくまった私の背中を、

もう一度痛みが走る。


「痛い――!!」

衝撃に、思わず悲鳴を上げた。

悲鳴とともに、目の前がカチカチとはじけ、視界がぼやける。


ぱっと浮かんだのは、お母さんの顔。


やめて!!

叫んだのは、私……。


「やめて!」

背中に衝撃が走る。


「やめて!

やめて――」

これが夢なのか、現実なのか……

焦点がぼやける。


泣いている小さな頃の私が見える。

叩いているのは、お母さん。


ううん。違う。

怒りでお母さんを見上げているのは、

私だ。


じゃあ、私を叩いているのは、お母さん――?


「許さん!!」

はじけるような痛みと、耳に響いた男の人の声に、

否応なく意識が戻った。


お母さんじゃない――。

叩いているのは――


やめて!!

叫ぼうとして、目の前が真っ暗になった……。










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