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暴君と女神様  作者: maruisu
神様編
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エピローグ

 長い列を整え、城門の外に出る。

 龍騎隊に命じ、パルムールの都を焼き払った。

 ここはもう、死の街と化す。

 その未練を残さないように。


「よし、出立だ!」

 われらが旅立つ時、神殿の神官たちが見送りに現れた。

 神殿に用はない。

 最後にトゥヤの顔を見れば、連れて行きたくなってしまう。


 最後の瞬間まで、共にいたい――。


 しかし、それでは駄目なのだ。

 あれは、長く苦しい生涯を歩んできた。出来ることならば、この手で幸せにしたかった。


 だが余はトゥヤに生きてほしかった。

 余にはもう、そなたを幸せにしてやれる時間がない。



 生きていてよかったと思える瞬間を、数限りなく感じてほしかった。

 もう二度と、死にたいとは思わせたくなかった。


 余と出会えたことが生きる証だと言ってくれるのならば、その生の最後の時まで生きるが良い。

 

 それが、余にとっても生きた証となるのだから。


 長い隊列が歩き出した時、列の後ろから駆け寄る人影が見えた。


 ――もしや……。


 その願いは、姿を現したその人物を見て違っていたことがわかった。


「そなた! どうしてこのようなところにいるのだ!?」

 白いフードを被ったその者は、余の前でフードを外した。

「やはり、来てしまいました……」

 現れた、うつむきがちにほほ笑むアシュリアーナの姿を見て、愕然とした。


 なぜ、彼女がこのようなところに。

「そなた! なぜ行かなかった!? 神子が人々を導かぬでいかがするものか!!」

 つい、声を荒げる。


 すると、アシュリアーナが俯く。そのように声を荒げられるとは思ってもいなかったようで、一瞬目を瞠った後に、涙をこぼした。


「神殿には、(ケペリ・ラー)がおわします。

 わたくしの役目は終わったのです。

 ですから、ただの女のとしてこの地に残りました……」

 あの鮮やかな青い瞳を曇らせて、彼女は言う。


 ――ただの女のとして――。


 その言葉に、やるせなくなった。

 

 パシッと辺りに音が響いた。


「何をなさいます!?」

 アシュリアーナが驚き顔で叫ぶ。信じられないといった表情で、目を瞠ったままこちらを見た。


「なぜ、なぜ今そのようなことを申す! 

 そなたは大神官となる道をあの時に選んだのではなかったのか!? 己の運命を受け入れていたのではなかったのか!?」

 怒りで、我を忘れそうになる。なぜ今更そのようなことを言う。

 なぜ!!

 あの日、道が分かれたその時に、二人はもう終わっていたのだ。


「わたくしは――!」

 アシュリアーナが頬を押さえる。

「もう、間違えたくはなかったのです!! 私も、幸せになりたかった!!」

 泣きながら、余をまっすぐに見つめた。


 余は、彼女にかける言葉が見つからない。


「……そなたは、愚かな女だ……」

 それ以外に、何を言えばよかったのか……。


 そのために人を陥れ、それでもただの女に戻りたいと望む者に、何て言葉をかけることが出来ようか……。


 振り返ることは出来なかった。

 

「出立だ!!」

 長い隊列は、再び歩き出した。

 きっと、長い旅になるだろう。

 辛酸を舐め尽くす旅になるだろう。

 それでも、故郷に残ると決めたのだ。それ以外に、どうやって生きて行けるのだろうか。


 人々にはできる限り、馬車や馬、ロバを与えた。

 少しでも遠くに、少しでもパルムールを離れるように。

 休むことなく足を進めるように、みなに言う。


 休むのは、王都を限りなく離れた後だ。



 

 パルムールを焼き払い、都を後にした我らは、次の日、激しい衝撃とともに、竜門火山が激しく爆発するのを見た。

 

 それは、言い知れないほど不気味な噴火だった。

 火柱が上がり、炎の壁が出来て、きのこのような雲が空に突き抜けて行った。


 ロバに荷物を載せた民や、馬に乗る人々、徒歩の民も皆、阿鼻叫喚の中を一斉に逃げ惑った。


 逃げ遅れた者の中には、列の後ろで溶岩に呑まれた者もいる。

 無事に逃げ切れた多くの民も、急激に訪れた闇夜の様な暗がりに、怯え始めた。

 じっとしていれば気温の変化に体が冷たくなっていく。我々は、心細くなっていった気持ちを切り替えるように、新たな安住の土地を目指して歩き続けた。

 

 空を覆い尽くす灰のせいで普段なら乾燥して熱いくらいのパルムールも、人が肌を寄せ合わないと寒くてどうしようもないほど気温が下がった。

 荷駄がなくなれば、それで終わってしまうような流浪の旅だった。もともとこの星は土地が痩せている。大地が潤っているのはほんの一部分だった。そのため、人々は一か所に集中して都市を広げてきたのだ。


 我々はきっと、長くは生きられないだろう。

 

 ※    ※    ※


 乾いた砂は氷が混じり、風に乗って舞い上がる。

 とうとう、この地に残る人々はいなくなってしまった。


 力はとうに尽き、砂塵の中に足をついた。

 少しでも体を止めると、砂塵が容赦なく体の上に降り積もる。


 もう、よいか――。

 足を止める。

 これで、守るものはいなくなった。最後の最後まで、余はこの命を人々に捧げ続けた。

 だから、もう良いだろうか……。


 言葉にできないほどの疲労を感じ、体を横にする。少しだけ、休みたい。

 風が砂を巻き上げては、体の上に落ちてくる。


 余は、目の前の空を掴んだ。


 ――ようやく、そなたの元へ行けそうだ――。

 

 砂でかすむ空を見上げる。

 今はもう見ることはできないが、目を閉じると浮かんでくる。

 星々が浮かぶ夜空が。たくさんの星々と、明けの明星が二つ。

 この中のどこかの星に、トゥヤがいるのだろう。

 

 幸せにしているか? 笑っているだろうか?

 それだけで余は満足だ……。


 ――もしもそなたがまだ泣いているのならば、余はそなたを迎えに行こう。

 この広い空の星となって。

 愛しい娘よ、いつかこの星に帰って来よ。

 再び見える(まみえる)ときには、二人で生きてゆこう。死が二人を分かつまで――



 大地に、風が吹く。

 赤い砂は死せる人々を覆い隠す。


 そして星はゆっくりとその活動を終え、死んでゆく。

 夢を見ながら。


 ――それは赤い星(火星)が見た、最後の王の夢――


                                        〈終〉

 



 


 

 

読んでいただいて、本当にありがとうございました。

ラストだけは最初に決めていました。

というのも、科学雑誌を見て火星に水があったころのイメージイラストを見て、こんな世界なら人が住んでいてもおかしくないなーというところから始まった話です。

初めての投稿だったので、読みづらい点多々あったと思いますが、お付き合いくださってありがとうございました。


 

 

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