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暴君と女神様  作者: maruisu
神様編
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第四十七話

 王様は剣を納めると、近くにいたギルの方を見た。一言二言何かを交わすと、また私に向き直る。


「――上出来だ」

 それだけ言うと、踵を返す際に、私の頭をポンと一つだけ押さえていった。


 その大きな手のぬくもりに、溢れそうになる涙を懸命に堪えた。

 

 王様――

 そう言って、引き止めたくて堪らない。

 どんなに怒られても、いい。

 憎まれてても、嫌われてても――声が聞きたい。

 言い争いでもいい、それでも――側にいたい。


 ――手を離したのは自分なのに。



 王様はギル達に命じ、礼拝所を出ようとした。

 その時、ウラヌス・ラーが心配顔でこちらに駆け込んできた。


「ウラヌス・カーリ! これは、何事でございますか!?」

 心配そうに王様を見つめるまなざしを見て、鼓動がその瞬間早くなった。

 王様の側に当たり前に並ぶその人を見て、胸が痛い。


「何、戻るところだ。大事はない」

 あっさりとそれだけ言う王様がウラヌス・ラーを見つめて笑う。

 二人が当たり前に会話を交わし、見つめ合っている。


「今日のところは女神殿に免じて剣を納めよう。しかし、次はないと思え」

 こちらを向いて、それだけ言うと王様はすたすたと歩いて礼拝所を出ていく。

 その後ろをウラヌス・ラーが付き従うように、一緒に外に出た。


 ……そりゃ、分かっているけどさ、平然と人の前でやめてくれないかな……。


 あんまりにも態度が違いすぎや、しませんか?


 大事はない?

 

 大事ですけれど?

 私の方はさ。

 剣が擦れた喉は、やっぱり痛いんですけど?


 そうだよ! 王様が言うように、生身の女だよ。

 そんなの、自分がよく知っている。

 だから、辛いのに……。


 他の人を見つめる王様のその眼差しを見ているのが一番痛い。

 首の傷なんかより、よっぽど……。


 私には、あんなに冷たいのに。

 どうして他の人には、優しくするんですか……。


 私の中は、何一つ変わってはいない。

 変わってはいないのに……。

 

 俯いている私に、駆け寄ってきてくれたのはサイスさんだった。

「申し訳ありません、お辛い思いをさせて……」

 あの日からすっかり敬語になってしまったサイスさんは、常に私と一緒にいてくれる。

 私は黙って首を横に振った。

「恐ろしかったでしょう。首の手当てをいたします」

「いらない」

 首を横に振った。

「いいの、大丈夫だから……」

 これは、きっと罰なんだ。

 王様を怒らせた罰。自分で手を放した罰。


 だけど、私がそばにいたら、私を愛してくれたんですか……?

 それとも、忘れえぬ夢を一生引きずって生きていったんですか、王様。


 大丈夫です、と言った後、眩暈に襲われた。

 緊張が解けて、首の傷を思い出したら昔の傷の感覚までがよみがえって、頭の中がパニックになった。思わず、サイスさんの腕にしがみつくと、サイスさんが体を支えてくれた。

「大丈夫ですか?」

 ぐらぐらと眩暈がして、足元が崩れそうになるのをじっと支えてくれる。

「ごめんなさい、少しだけ、こうさせて」

「謝らなくて構いません。これも役目ですからね」

 サイスさんが緊張をほぐそうと微笑んでくれたから、私も笑い返した。

 だんだん感覚が戻ってきて、支えてくれた腕を離そうとしたときに、よろけてしまった。転ばないようにと慌ててサイスさんの制服の裾あたりを掴もうとした。その時、制服の中に固い何かがあって腕に当たった。

 何だろう?

 短剣でもナイフでもなさそうだ。

 武器じゃない?

 軍人が、武器以外を制服の下に入れてる?


 ふと疑問に思って、サイスさんに聞いてみた。

「その下に持ってるのって、ナイフ?」

 腰のあたりを指差すと、サイスさんは笑って首を横に振った。

「なかなか目ざといですね、トゥヤ様。

 これは、ナイフではなくて、学問所からの借りものなのですよ」

 そう言って、制服の裾を少しめくってくれた。

 中にあったのは、形は紛うことなき銃――の形だった。


「え? これ、銃?」

 まさかね、と思いながら恐る恐る口にすると、サイスさんは「ええ」と短く返事をした。

「ご存知でしたか? 私はファン博士に聞くまで知りませんでしたが、トゥヤ様はやはりご存じなのですね」

「ファン先生に聞いたの? じゃあ、これは学問所にあったものなの?」

「はい。学問所が古代の品の中にあったのを見つけ、ウラヌス・ラーに献上されたものをお借りしたんです。護身用に」

 護身用……?

「じゃあ、竜騎兵の人たちはみんな持ってるの?」

「いいえ? これはそんなに数があるものではないらしく、お借りしたのは私だけですよ」

「ふうん」

 この国に銃なんてものがあるとは思わなかった。

 学問所から借りたってことは、聖船の中にあったものだろうか。

 なんで、こんなものが? 何のために?

「ちょっと、貸してくれる?」

 サイスさんに聞くと、危ないからダメだと断られた。だけど、もしかしたら……って思った。

 無理に半ば奪うようにして銃を借りる。

 そして、砲身を誰もいない床に向けてみた。トリガーみたいなものはない。これ、どうやって使うんだ? こうやって見ると、確かに未来のテクノロジーっぽい気がする。

「これは、ここを押すんですよ」

 サイスさんが指示してくれたところを見ると、確かにそこにはスイッチのような四角いパネルがはめ込まれていた。

 とりあえず、押してみる。すると、ぱしゅっというともに、床が溶けた。


「なにこれ?」

 驚くと、サイスさんが銃を私の手から取り上げた。

「神殿が言うには、熱線を利用した攻撃兵器らしいです。ただ、殺傷能力はあまり高くないです。威嚇程度ですね。で、それにこうすると」

 私に手のひらを出すように、サイスさんが言った。素直に手を出すと、サイスさんはデジカメのズームのようにリング状になったレバーを引くと、ぱっとボタンを押した。すると、指先にはぴりりっと痺れるような感覚があった。

「麻痺銃ですよ。今は一番弱い刺激にしたんですが、この痺れる感覚を調節すると、殺せないけれど、大概のものなら麻痺して気絶させることができるんです」

 スタンガンのようだった。ピリピリと痺れる感覚で指先が痛い。

「なんでそんなもの、持ってるの?」

 神殿の警護が、そんなに危険を伴うものじゃないのは分かる。

「これは、あなたをお守りするために借りたものです。

 トゥヤ様はこの星で唯一無二の方です。何かあったら困りますから、先手を打てるように常に携帯しているのですよ」

 にこっと笑ったサイスさんの顔に少し影があるような気がした。


 ふと、この熱線を浴びたらどうなるのかと考えた。

 熱を押し当てられた傷を知ってる。たばこの……

 たばこのような、やけどの跡。

 どきんと心臓が一つ波打った。


 たばこの映像と、王様の肩の傷が脳裏によみがえる。

 王様のあの肩の傷。あれは明らかに火傷だった。

 剣やナイフじゃない。丸くなった焼けた跡。

 傷はその焼跡を破るように付けられていた。


 この銃は学問所から出たものだという。

 そして、ウラヌス・ラーが所有していた。

 ウラヌス・ラーがサイスさんに貸したものということは――。


 思い当たる一つの可能性を考えて、慌てて打ち消した。

 だけど……。

 そう考えたら、辻褄が合う……。

 王様がいなかった丸二日間の空白。

 

 でも、なんのために?

 

「あなたの身は私が守りますよ」

 声をかけられて、はっと我に返った。

 真っ青な顔をしているであろう私に、サイスさんは優しく微笑みかけている。

 その言葉に、私はあいまいに笑ってみせるしかなかった。









 





 



  

 



 



 

 




 

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