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暴君と女神様  作者: maruisu
またまた王宮編
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第三十九話

 兵士たちに連れてこられたのは、町の外れにある一棟の長屋だった。

「むさくるしいところですみません」

 部屋に入ると、中には6人の兵士たちがいる。その中でいつも顔を見る護衛の兵士たちの中でも一番偉そうな人が膝をついた。

 護衛の兵士とずっと呼ぶのも面倒だったので、名前を聞くと彼は「ギル」と名乗った。


「……で、どういうこと?」

 勧められた椅子に座り、ほうっとため息を一つつく。

「陛下が行方不明って……」

 何があったの?

 王宮で王がいなくなることって、一体どんなこと……?


「は、本日昼の三の刻ごろ、保守派が武力で王宮を攻め落としました。その際に、陛下もお行方が知れず……」

 男が頭を下げたまま、唇を噛み締めながら言う。


 ……武力で王宮を……それって、クーデターじゃないの!!


 うそ……。

 確かに、見せてもらった政治の場では保守派と革新派に分かれて言い争いをしていた。

 王様の政策に反対している人たちもいた。


 だけど、クーデターって!!


 思わず、椅子から腰を上げていた。大きな音を立てた椅子は、バランスを崩して後ろに倒れた。その音があまりに大きくて、驚きながら振り返ってしまった。


 ……。

 足が、震える。


「王様は、無事なの……?」

 クーデターが起きた王宮で、王様が行方不明……。

 

 それは……考えられる限り、最悪の状態に思えるのだけど……。


 目の前が暗くなる。

 今この事態で、自分がどうしたらいいのだろうか。

 ここでじっと待っていれば、いつか元に戻って王様が迎えに来るんだろうか。


 大丈夫か? って、ひょっこり現れる?

 怪我がなくてよかったとか、そういうことを当たり前に言うの……?


 ……違う。

 目の前が真っ暗になる。

「トゥヤ様!」

 ギルが私の肩を抱きとめる。

「大丈夫ですか?」

 その言葉にうなずく。

 

 今、この状況で私に何ができるっていうの?

 

 王様……!!

 朝、ダメだって言った王様の言葉を聞いていればよかった。王宮にいれば、王様の身辺のことは分かっただろうに、何て私はバカだったんだろう……!


「……私、どうすればいいの……」

 私のその呟きに、ギル達兵士が息を飲んだ。

「トゥヤ様の身の安全はお守りいたします。その上で、助力を願いたいのです」

 ギルがその場に平伏する。それに倣って、皆平伏した。


 助力?

 私が??

 何をするのかわからないけど、この状況で私ができることなんて何もない。

「私たちは龍騎隊一番隊に所属しています。この一番隊というのは王直下の軍隊で、王命でなければ動きません。しかし、今現在王は行方が分かりません。

 そして、本来王が不在の折に正妃が軍を指揮するのですが、正妃候補のフィナ姫の父君は保守派です」

 ギルが平伏したまま告げる。


 保守派の筆頭がフィナ姫のお父さんだったっけ。

 ……ん?

 クーデターって、武力で権力を奪う事でしょ? フィナ姫父は娘がその王様のもとへ嫁ぐことになっているんだから、クーデターなんて必要ないんじゃないの?


 思った疑問を口にすると、ギルは首を横に振る。

「フィナ姫の父君、イダンナス公にはあと二人、姫君がおわします。そのうちの一人を、アッシェン殿下のもとへ嫁がせることが決まっておりました」

 ……。

 アッシェンって誰??


「あのー、アッシェンさんって誰?」

「陛下の弟君、アッシェン殿下です」


 ってことは、フィナパパは、両方に娘をとつがせて、どっちに王位が転んでいもいいようにしていたってことだね。で、言うことを聞かない王様に業を煮やして、弟にってことか。


 ……え、えげつないっす……パパさん。


「保守派は王位をアッシェン殿下に継がせようとしているわけ?」

 ここは王権神授説の国だ。神ケペリから王権を授かっている。だったら、王家の人物が王位を継いでいかなければならない。いくらクーデターを起こしても、ライ家では王にはなれない。だから、アッシェンを傀儡に選んだのか。


 それにしても、私、王様の身内なんて全然知らなかったなー。

 そんな話したことなかったなー。


 ちょっと反省。


 ギルは小さく頷く。

 なるほど、なるほど……だんだん概要が見えてきた。


「で、王様が行方不明なのね……。王宮から出た気配はないんだよね。後宮に匿われていることはないの?」

「ございません。後宮の中でも革新派の姫君は人質にとられております。革新派が武力を行使できないように。後宮に姫君を輿入れさせるぐらいの革新派であれば、軍隊を率いることもできましょう。それを封じるために、保守派は後宮の姫君を人質にしたのです。

 トゥヤ様だけなのです。現在、王の名代で軍を指揮できるのは」


 は、はい??

 今、とんでもなく恐ろしいことがさらっと聞こえたんだけど。

 軍の指揮って……。え?

 今度は軍隊!? 


 いやいやいやいや、それは無理でしょ。

 だって、軍隊の知識は全くないもん。


 あのね、軍隊は普通の女子高生には無理レベル。

 ちょっとそれは、一線越えちゃうんで。

 それはね、どっか別のところでやってほしい……。


 ほら、やっぱり剣のお稽古しておけばよかったんだよ。

 こういう不測の事態に備えて。

 そしたらちょっとは、私でも役に立ったんじゃないの?


「もちろん、実際に指揮を執れ。戦え。というわけじゃありません。あなた様は、妾妃として鎮圧軍の旗印になっていただければそれで構わないのです。

 私たち、正規軍が正統なる旗印の下、陛下を奪還いたさなければなりません」

「当たり前でしょ。戦えって言われたら速攻辞退だよ」

 あきれ顔で私はため息を吐く。


 革新派が表だって動けないから、私の名前で兵を集めるっていうのか。

「旗印は構わないんだけど……。私の名前で兵が集まるわけ?」

 

 恐る恐る聞いてみる。


 すると、ギルは心得ているという感じで、頷いた。

「軍を動かすのにも大義名分がいるのですよ。我々陛下子飼いの軍人は、反乱軍を鎮圧させなければなりません。しかし、我々は王命がないと動けない。

 ましてや、王不在の今、王宮を占拠しているアッシェン殿下は正統なる王族です。刃を向けることは王家に弓引くことになります。

 だから、あなたが妾妃として王に代わって王を奪還せよと命じる。そうすれば、我々は正当な大義名分を得ることができます。それでいいのです」


 大義名分――か。

「でも、王様って一代倒れたら、次は猿王家に移るんじゃないの? そっちに頼んだ方がいいと思う」


「本来ならばそうですね。ですが、王はまだ戴冠式を済ませてはおられません。

 戴冠式が終わらなければ、神殿としてはまだ王は先王のままです。ですから、先王の次にまた猿王という形に形式上なってしまわれるのです。

 今から数代前のことなのですが、当時の王が戴冠式前に病に倒れたことがございました。その王は王位を王子に譲位し、戴冠式ではその王子が戴冠なされた例が過去に一度だけあります。

 今回もそれを踏襲し、神殿も認めるのではないでしょうか」

 結局は、神殿がそれを是と言ってしまえばそうなるのだ。

 もちろん乱用することは許されないし、王が健在ならば神殿はそれを良しとしないだろう。

 だけど、今は火急の時で……。

 

「それに、猿王家は今の政治に口出しできる立場ではありません。

 それをなさっては、国の乱れる元ですから」

 ギルの言葉に目を開く。

 そういうことは、先に言え~!


「ああ、そっか。もともとケペリは国が荒れないように二つの種族に王位を分けたんだっけ。

 だから、竜王家が王位につている間は政治に関しては王族は口を出さないってこと?」

 頭を抱えながら言う。なんのための王家だよ。

 火中の栗は拾わないってことか。寝て待ってれば次に王位は転がり込んでくる。だったら今どちらかについて国を二分するよりは、確実に次代の正当な王になればいい。王様だろうが、王弟だろうが、竜族の次は、猿族の番なのだから。


「そうです」

「でも、これは火急の事態じゃないの? 国の根幹を揺るがしかねない……」


「いいえ。アッシャン殿下がおられる限り、王冠は竜王家で引き継がれるのですから問題ありません。ですからこのままでいれば、反乱軍はその位に就きます。

 しかし、我らは聖王(ウラヌス・カーリ)に忠誠を誓っております。われらの王は、至高のあの方のみです」


 ギルが頭を上げる。力強く、一点の曇りもない瞳で私を見据えた。

 まっすぐに、ただまっすぐに、王への忠誠を誓っている。


 そうか、この人は王様を信じているんだ。

 王が正道を歩んでいることを。


 だからこの人は、私に頭を下げる。そういうことだ。


 私は黙って目を閉じた。

 王様がいない。反乱軍をのさばらせるわけにはいかない。



 ――許せない。

 自分の権力のことばっかり考えて簡単に武力で何とかしようなんて考え方は好きじゃない。

 

 くっだらない正義感かもしれない。

 ただ好きってだけの感情で、ここまで踏み込んじゃいけないのかもしれない。

 遠くで眺めていれば、この出来事は通り過ぎていくだけのこと。

 

 だけど王様(好きな人)と知り合っちゃって、自分自身が後宮にいて、そこにいる人たちが怖い思いをしてるんだったら何とかしたいとも思う。


 すべてが終わった時は、何もなかった時には戻らないのだから。

 

 戦うことは私にはできない。

 だけど、そういう事なら協力できるんじゃないかな。

 大義名分が揃えばいいのなら……。


「……わかった」

 静かに目を開ける。

 私はギルの王様への忠誠を確認するように、彼の目を見据えた。

「私の名前でよければ、使っていいよ。

 都合のいいこと言ってるかもしれないけど、名前は貸すけど、私は戦えない。

 戦うのは、あなたたちだよ」

 すると、ギルの顔にさっと生気のような赤みが走る。


「それは重々承知いたしております。

 われら一番隊が動けば、猿騎隊も、他の龍騎隊の支隊も動かすことができます。

 では、トゥヤ様の名のもとに、陛下奪還を!」

 ギルが立ち上がった。そして、周囲が鬨の声を上げた。


「バカバカ! 何時だと思ってるのよ!!

 やめてよ!」

 慌ててみんなを制する。いくら町のはずれだからと言って、こんなところで鬨の声あげたら怪しまれんでしょうが!!


 すると、ギル達ははっと我に返り、短く謝っていた。


「失礼いたしました。ではさっそく明日の朝、王宮に攻撃を仕掛けます。まずは、姫君方の解放と、軍隊の確保を」

 ギルの言葉にうなずく。ギル達はさっそく作戦会議を行っていた。

 私は疲れて、本当に疲れて、誰かが直してくれた椅子に座り直した。


 ……王様、どこにいますか?

 無事ですか……?


 


 


  

 

  


 

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