表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
暴君と女神様  作者: maruisu
王宮編
26/69

第二十二話

「……やめて」

 ファン先生と会って、嬉しかった。

 私はこの星で、ようやく”私”のことをわかってくれそうな人を見つけた。

 それが嬉しくて、王様に聞いてほしかった。


 こんなつもりじゃなかったのに。

 

 話をしている途中、突然、王様の顔色が変わった。

 そんなに怒るとは、思わなかった。


 神殿に行きたいっていうのも、王都に行くのを許してくれたように、すんなり連れて行ってくれると思ってた。王様が学問所に口をきいてくれればいいと思っていただけなのに。

 

 帰りたいかって聞かれた。そりゃ、帰れるものなら帰りたい。

 今なら、ここは夢の中のことだもん。不思議な世界で、不思議な出来事を体験したってくらい。

 

 ――全然引き返せる。


 そう思っていたのに。

 今、私は王様に組み敷かれている。机の上で。


 ピーンチ!!


 って、今はふざけている場合じゃなく……。


 王様の顔が真剣だから、怖い……。


 真顔で、私の顔にそっと近づいてくる。さらさらと流れる白銀の髪の毛が、首筋にそっと触れる。そのひんやりした感触がぞわりとする恐怖を感じさせる。


 私だって、男女の仲(言い方ふる!!)がどういうものか知ってるけど、そういう事じゃない。

 

 ……こんな一方的なの、嫌だ。


 体が勝手に震える。カタカタと歯の根が合わさる音が部屋に響いている気がする。


「……お願い……」

 涙が、自然に溢れていた。耳の横に冷たい涙が伝わるのが分かる。自分の身に起きていることが自分のことじゃないような気がした。


 王様は無言で、私と目を合わせようとはしない。


 こんなの、ヤダ……。

 こんなの……。


 王様が両手を掴んで、右手で着ている衣装に手をかけた。麻だから、縦に裂け目を入れたら簡単に引き千切れてしまう。


 怖い!!


 ぐっと目を固くつぶった。


 すると、ふっと掴まれていた両手の力がなくなった。

 王様の体の重みがなくなって、離れたのが分かった。


 恐る恐る片目ずつ開けてみる。王様はこちらに背中を向けていた。


 左手を固く握っている。


 体を起こして、胸元を掻き抱いた。特に何をされたわけじゃない。

 震える必要はない。

 そう思いながらも体が震えて、その場に座り込んだ。


「……あ」

 声をかけようと思って、手を伸ばしかけた。


「……」

 王様は黙って立ち尽くしていた。こちらを見てもくれない。


「王様……」

 声を出そうと思ったけど、蚊が鳴く様な声しか出なかった。



「――よい。

 どこなりと行くがいい」

 王様から発せられたのは、冷たい、短いその一言だけだった。


 違う、怒らせたいんじゃなかった。

 そうじゃなくて……。

 でも、どんな言葉を言えばいいのかわからない。


「や――」

 首を横に振る。

 

 王様が振り返った。

 血の色の全く感じられない、表情のない顔だった。

 こちらを一瞥すると、


「今日はそなたの部屋へは行かぬ。

 好きにするとよい」

 それだけ言って、扉の方へ歩き出した。


「違う――、違うの!」

 引き止めたかった。

 手を伸ばして、王様に向かって駆け出す。   


 腕を掴もうとして、ふり払われた。


「……行かないで――」

 もう一度手を伸ばす。


 だけど、王様は振り向かなかった。

 一瞬動きを止める。

 でも、振り返るでもなく、何か言うのでもなく、扉を開けて出て行ってしまった。


「や、やだ!」

 扉に向かって手を伸ばそうとするけれど、その手は届くことなく、扉は閉じられた。


 なんで、どうして?


 どうして、怒るの……?


 涙が溢れてきた。

 あんなの、初めてだった。

 そりゃ、初めはあんな感じだったけど――最近は、少し近づいたと思ったのに。


 そんなの、初めから夢だったんだ。


 思い上がったから、つけあがったから、切り捨てられた……。

 王様はいつも、前を向いている。

 自分のするべきことをやっている。


 それなのに、私は自分ばっかりで、王様のことなんて何も考えてなかった。

 怒られるのも、あきれられるのも当たり前だ。


 私、甘えちゃいけなかったんだ……。



 

 






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ