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暴君と女神様  作者: maruisu
王宮編
14/69

第十四話

 後宮の中庭に面したサロンで、フィナ姫主催のティーパーティが開かれた。侍女を連れて行くことはできないから、サロンの正面の扉の前で先導してくれていたイゾルと別れた。イゾルは侍女の控室で待機しているらしい。

 

 うう、一人。怖いよ~~。

 こう見えても、私、人が嫌い。


 きっと育ちのせいもあるんだろうけどね……私は人に好かれる自信がなくて、人に嫌われてるんじゃないかと必要以上に怖くなる。人の顔色をうかがってばかりの自分が、あんまり好きじゃない。


 それまで姫君方のさざめくような笑い声とか、弾んだ声のおしゃべりとか聞こえてきたのに、私が中に入るとしんと静まり返った。

 ……おっと、デジャブを感じます。


 こういう時は、部屋を仕切る女官がいるから席に案内してもらうんだっけ。って扉の前に立っていると……誰も来ない。

 あれ? ここってファミレスの入り口だっけ? ボードに名前書かないと案内してもらえないシステム?


 んなわけない!!


 だって、次に扉があいて、名前も顔も知らない妃候補の姫が入ってきたときには、女官の方がすぐに扉の前にいらしたもの。

 ――あからさますぎません??


 それから初めてこちらに気が付きましたよって顔をして、一人の女官が近づいてきた。こりゃまた、意地悪そうなお顔立ち。竜人ていじわる種族なのかな(イゾル、ごめん……)。

「トゥヤ様ですね。お席はこちらです。どうぞ」

 通された席はもちろん末席。まあそうよ。この中で一番身分もへったくれもないの私だもん。

 

「ありがとう」

 とりあえず席に通してくれた女官に礼を言う。

 すると女官は一瞬固まった。


 なによ、相手が意地悪でも私は意地悪しないよ。そんな低レベルなこと。


 ざっと見まわすと、まあ、きれいな女の人がいっぱい。王様が竜族だからお妃候補も竜族なのは分かる。で、竜族ってみんな神秘的できれいな顔立ちをしているんだよな。見渡しているとうっとりしちゃう。

 で、私はというと、ほんとお門違いなんですよ。

 考えてください。白人スーパーモデルに交じって、日本の地方都市にいたモンゴロイド(標準体型)がぽつんといるんですよ。ほんっと、場違いって言葉は今の私のためにあります!! って大手を振って宣伝したいぐらい。

 いや、宣伝してどうするよ……。


 皆が席に着いてから、最後にフィナ姫が姿を現した。

 扉が開いて入ってきたその人は、もうね、言葉になりませんでした……。


 ウラヌス・ラーさんもすごい美人だった。細い金髪に、真っ青な瞳。真っ白な肌は本当に神様が最高傑作としてお創りになった陶磁器じゃない、と思うほど。

 この人はほんと、大人の女性としての美しさって感じ。


 で、フィナ姫はもうちょっとかわいい系の美人。真っ白いプラチナブロンドが優雅に波打ってて、

 ほっそりとしたあご、尖った耳、パッチリ二重に、まっすぐに鼻筋の通った鼻。同年代位だなって年頃の本当に可愛らしい顔立ち。

 これは、抱きしめたいでしょ、王様!!

 

 こんな美しいものを蹴って、私のところに来ているって、そりゃ、どんだけブス専だと思われてるんだよ、王様よ!!


 あー、もう、ほんと恥ずかしいな。こんなところでお茶飲んでる自分が。


「……ヤさま? トゥヤ様?」

 呼びかけられて、はっと我に返る。王様のブス専疑惑を考えてる場合じゃないよ。言ってみれば敵陣、ここ。気を抜いちゃいけなかった。

「自己紹介をどうぞ。トゥヤ様、初めてでございましょう? こちらのサロンは。末席の方からのごあいさつになりますから、どうぞ、お話しなさって」

 声をかけてきたのは、正面に座っている女性だった。室妃候補の姫君で、ライ家の遠縁にあたるはず。お茶会出席が決まってから、イゾルに姫君方の情報を教えてもらった。


「あら、失礼いたしました」

 ふふと小さく微笑む。

 しっぽ見えたらすみません。猫被るってこういうことですのね。おほほほ。イゾルとシャナヤ相手に何度も練習しましたさ。あのお姉さん、怖いんだよ、ほんと。教師になったら鬼教師だよ。被った猫の端っこから本性が垣間見えるたび、イゾル姉さんにバシバシ手の甲を叩かれました。スパルタ……。


「トゥヤと申します。みなさま、お見知りおきを」

 おほほ、耳生えてたらごめんなさい。私ってば、付け焼刃ですから。もう、笑顔引きつりますの~。席から立ち上がって一礼する。

 身分が低い人は、多くを語っちゃダメなんだと、さんざんイゾルに言われました。ですから、ほんと名前だけ。

 しんと静まる。

 あらら、この場合って拍手で迎えるのが普通じゃないの? イゾルさん、そういってましたけど?

 

 しかし、誰も何もしない。

 目すら合わせようとしない。おお~い、誰かいませんかー。確認しようと声をかけてくださった姫君を見ると、うつむいて知らないふりをしていた。

 まあ、そうですよね。いいんです、わかります。期待はしません。


 しばらくしてから、ぱちぱちぱちと、控えめな拍手が聞こえた。

 その音はとても小さいんだけど、静まり返っていた部屋の中にほのかに響いた。


 音がする方を見ると、フィナ姫がはにかみながら周囲をはばかるように小さく指先を合わせて拍手していた。

 ……フィナ姫?


 すると、皆が一斉に左右の顔を見合わせる。「どうする?」「どうする?」「ちょっと、フィナ様が拍手なさっていますわ、私たちどうしましょう(汗)」という姫君方の心の声がダダ漏れでございました。

 それから皆何事もなかったように拍手をする。

 

 ……ん?

 

 それから次の姫君、そのまた次の姫君、とご挨拶していって、皆、拍手で答える。

 最後フィナ姫が立ち上がった。

「みなさま、ご存じだとは思いますが、本日、初めてトゥヤ様をお呼びいたしました。これを機に、後宮の皆が纏まり、陛下の御世をお支えしていければと私は思っております」

 小さいけれど、しっかりした口調でフィナ姫が言う。姿に合った、なんてきれいな声。鈴を転がすような声ってこういうことを言うんですよね。ソプラノの、天使がしゃべったらこんな声なんだろうなって想像してしまうような、流れるような声音。女でもうっとりと聞き惚れて、もっとしゃべってほしいと思ってしまうな。


 王様ブス専疑惑、私の中で再浮上↑↑


 っと。王様はブス専じゃないよな。だって、私の事は知らんぷりだもん。

 ……でも、お似合いじゃないのかな。この二人。王様はそれはそれは美男子。いや、私から目線だと、ちょっと首が長いけど、ちょっと色白すぎるけど……それは私基準でしかなく、こちらではむしろ当たり前の姿なんだけどね。で、それを差し引いて考えて、地球人レベルに換算すると――ほんとやばいですよ。やばい、いやむしろ、ヤヴァイ――ってなぐらいのかっこよさ。

 地球レベルで考えるなら、某公国のイケメン王子並みの美しさですよ、ほんと。


 それにフィナ姫は私と同い年ぐらいの、ふわふわお姫様―って感じの、ほんと、美しくてかわいらしい姫君。この世の男の誰もが守ってあげたくなるっしょ、っていう風情を醸し出している。頭の先からつま先まで、一貫して作り物のようなお人形のような隙のなさ。

 ほんとうらやましい……。


 首が長いのと血管浮いてるよくらいの色の白さはやっぱりデフォなんですけどね。


「ではみなさま、ご自由に歓談いたしましょう」

 フィナ姫の号令がかかると、みんなそれぞれ仲良しグループにまとまった。ああ、女子高の休み時間みたい。おしゃべりのさざめきだとか、小さな笑い声、女の子のこういう姿ってどの世界でも変わらないんだな。

 女性たちを見回していると、みんなに話しかけられていたフィナ姫が、人の合間を縫ってこちらへやってきた。

 すると、皆の顔色が変わる。

 目の色が変わるとは、こういう事なんですねって感じで、扇で口元を隠しながら視線はこっちにばっちり張り付けたまま固唾を飲んで、私たちを見守っている。


「トゥヤ様、わたくし、トゥヤ様に一度お会いしたかったんです。ウラヌス・カーリにご無理を言って、来ていただいて、申し訳ありません」

 フィナ姫が伏し目がちに微笑んで、ぺこりとお辞儀をする。

「わたくしの方こそ、先日は失礼いたしました。後日、陛下にすっかり怒られてしまいました。フィナ姫の御所有の奴隷とは知らずに、とんだ失礼をお詫びいたします」

 とりあえず、イゾルさんに言われたんです。謝っとけって。だから、言われた通りの口上をし、頭を下げる。

「いいえ、いいえ、そのようなこと、お気になさらないで。あの奴隷は本日後宮監督官を通してトゥヤ様付にしていただきましたから、ご自由になさってくださいませ」

 フィナ姫が真顔でこちらを見る。恐縮しているような感じだ。一気に言葉を発してから、息を整えて、また私をじっと見つめる。

「あの、サイスに聞いたとおり、本当に黒い瞳なのですね。(わたくし)一度、近くで拝見させていただきたかったのです」

 思いがけない人の名前に、びっくりしてフィナ姫の顔を見つめてしまった。


「サ、サイス!? フィナ姫はサイスさんとお知り合いなんですか?」

 サイスの言葉に思いっきり食いついてしまい、身を乗り出してしまった。イゾルに聞かれていたら、扇飛んできます。


 フィナ姫は私の食いつきっぷりに驚いて、ちょっと引き気味になっている。

「え、ええ。サイスと私は従兄妹なのです。ですから、たまに後宮にも姿を現すのですよ。先日、私の母に頼まれてわたくしのところへ様子を見に来たのですが、その時にトゥヤ様のお名前が出ましてね。わたくし、トゥヤ様のお話をサイスから聞いて、一度でいいからその黒い瞳を拝見したかったのです。ですから、今日はとても嬉しいのです」

 ほんのり頬を染めてそんなことを言うフィナ姫は、本当にかわいい。


 そういえば、以前後宮には一族のものがいるから、たまに会いに来るって言ってたっけ。フィナ姫の事だったんだ。

 ――顔出してくれるって言ってたのに、やっぱり、忘れちゃってるよね。

 

 サイスさんとは、あのパーティで会って以来、顔を合わせていない。

 仕方ない。サイスさんは私の事を気に掛ける義理なんてないし。居場所がわかれば、それで十分だと思うのは当たり前のことだ。

 あの日、ああ言ったのはきっと慰めてくれたんだろうな。小さな子どもに、「また今度ね」っていうような感覚だったんだろう。だから、仕方ない。

 ……少し切ないけど……。


「サイスは、トゥヤ様の瞳を夜空のようだと申しておりました。とてもきれいな星の瞬き」

 歌うように、うっとりと言う。


 そこへ割り込んできたのは、フィナ姫のおとりまきの2人だった。

「フィナ様、私たちもトゥヤ様とお話をさせていただきたいわ。入れてくださいませんの?」

 にこにことフィナ姫を見て、2人で顔を見合わせている。

「あら、とんでもない。みなさま、お話ししましょう。大勢でお話しするのは楽しいわ」

 フィナ姫の声が弾んで、にっこりと二人に微笑みかける。


「トゥヤ様は、異国の方なのでしょう? どのようにして陛下に見初められたのですか?」

 キラキラと光る大きなブローチをしているの姫君が話しかけてきた。

「あら、トゥヤ様は罪人だったと聞きましたわ。それを陛下がお助けになって、後宮に召し上げられたのですよね。以前から陛下は珍しいものが好きだと聞いておりましたけれど、驚きましたわ」

 もう一人の、ピンクの花模様の姫君がうふふと笑いながら言う。


「まあ、確かにトゥヤ様のお姿は珍しいですものね。まるでモウモウみたいですもの」

 くすりとブローチの姫が笑う。

 

 も、モウモウ? なにそれ?


「いやだわ、モウモウだなんて。でも、確かにお可愛らしい顔が似ていらっしゃるかも」

 ふふふと花模様の姫も笑う。


 この二人は側妃。


「およしなさいませ、お二人とも」

 眉をひそめたフィナ姫の声が、震えている。


 モウモウって、何……?


「ところで、フィナ姫、お聞きいたしましたわ。なんでも、トゥヤ様に奴隷を贈られたのですって?」

 ブローチの姫がフィナ姫に向く。

 おっと、今日の本題にいきなり突入か。

「私も聞きましたわ」

 花模様の姫も参戦してきた。

 すると、あら、と興味津々で他の姫君方も近寄ってきた。


「何でも、トゥヤ様が陛下におねだりされたとか」

 花模様の姫が言う。ブローチ姫もそれにかぶさってきた。

「うらやましいですわ。陛下が毎日お部屋に訪れるだけではなく、トゥヤ様のお願いを聞いてくださるなんて」

 うっとりした口調で言う。


 んー、皆さんがうらやましがるようなことは何もないんですけどね。結構いじめられてますけどね。皆さん、王様の本性知ってるの?

 しかも、いいように事実が捻じ曲げられてますけどね。


「違いますのよ。私の方からトゥヤ様へいかがですかとお声をかけたのです。贈ってもいいですかとお尋ね致しましたけど、陛下に言われたわけではございませんのよ」

 フィナ姫が必死に反論している。

 

 あれれ?


「まあ、フィナ様はお優しいから……かばわれているのですね」

 ブローチの姫が大げさに言う。

「違いますよ、違います」

 フィナ姫が必死になってブローチの姫に訂正している。


「フィナ様、お返しは相手の望むものを返すのが礼儀ですから、トゥヤ様にお望みのものを言ってはいかがですか? トゥヤ様がお持ちのもので、フィナ様が手に入れたいものなど、一つしかございませんでしょう? 私だったら、迷わずお願いするところですわ」

 ブローチ姫がフィナ姫に笑いかける。フィナ姫は困ったような顔をして、扇で震える口元を隠している。


「トゥヤ様、もうお分かりでしょう?」

 ブローチの姫が扇をぱちんと閉じた。そして、にっこりとほほ笑んで、真正面を見据える。その口元がぐにゃりと歪んで見える。


「この伝統あるケペル王宮の奥殿に、異国の者などふさわしくありませんでしょう。陛下の寵愛をお断りなさって下さいませ。そうすれば、陛下のお心はフィナ様に向かわれると思いますわ。なんせ、フィナ様はライ家の御令嬢なのですから。フィナ様を差し置いて、罪人風情が寵をいただくなど、厚かましいことですわ。陛下の寵をフィナ様にとご進言なさってはいかが? あなたにできるそれが一番のお礼でしょう」

 ブローチ姫が声高に言う。まるで、この場のみんなを代表していますっていうような顔で。にやりと笑って、言い放った。



 周りの人たちの息をのむ音が途切れ途切れに聞こえる。ブローチ姫に味方するように勝ち誇った顔をする人たち、同じように思っているけれど、自分から矢面に立ちたくないので、聞き耳を立てているけど知らないふりをしている人たち。

 そして、扇を持つ手が震えているフィナ姫。


 立ち尽くしている、私。


 中庭に面しているサロンに静寂が訪れる。外から鳥の鳴き声だけが聞こえている。

 のどかだな。

 あんまりに思考回路が停止してしまったから、そんなことを考えてしまった。

 ゆっくり視線を動かすと、庭を一瞥する。

 

 ……ああ、そうだよね。

 みんな私のこと嫌いなんだって、忘れてた。

 フィナ姫が普通に話してくれたから、普通に答えていたけど、やっぱりここは敵陣だったんだ。

 ちょっと仲間に入れてもらえるのかなって、期待しちゃってた。

 でも、そんなことはもちろんないわけで……。

 

 奴隷にかこつけて私を貶めたいだけのお茶会。

 ばかばかしくて、ため息が出る。


 パチンとわざと大きな音を立てて、持っていた扇を閉じた。その音に、びくっとしたのはフィナ姫だった。

 じろりと私を睨みつけているブローチ姫。その横でしたり顔の花模様姫。

 

 私はゆっくりと庭を見つめていた視線を、姫君方に戻した。

「私は、侍女にこの国の事を教えていただいております。今回、フィナ姫のお申し出で贈り物をいただくので、礼儀上どのような返礼をさせていただけばよいのか、侍女たちと悩みました。

 わたくしのいただいたのは、先ほどおっしゃっていた奴隷の男の子です。贈り物の倍の、相手が望まれるものを贈るのが、礼儀上一番理にかなっているのですよね。

 わたくし、フィナ姫に何をお返しするのが喜んでもらえるか一生懸命考えました。

 ですが、わたくしはフィナ姫が望むものをお返しできないようですね」

 ゆっくり、微笑みながら告げる。


「ここは後宮。陛下ととても近い場所です。みなさまも、陛下のお近くにおられ、陛下はみなさまにも私と同じように、気安く接していらっしゃるのだと思います。

 ですが、私にはどうしてもわからないことがあるのです。

 私の産まれた国にも、王陛下がいらっしゃいます。わたくしの国の王陛下は、神より王権を授かり、世俗の王と言われ、誰よりも尊いお方です。そのような国王のいる国で生まれ育った私が、どうしてこの国の聖王(ウラヌス・カーリ)と奴隷を比べられましょうか。奴隷の身と比べて、陛下のお心を奴隷の倍とおっしゃるならば、みなさまの中では陛下と奴隷は同じ基準で量っておられるということなのでしょうか。

 私にとって、ウラヌス・カーリは誰よりも尊い、並ぶもののないたった一人のお方です。その方のお心を奴隷と引き比べること自体が、わかりかねます。

 それともこの国では、王であるウラヌス・カーリは奴隷と比較される対象だということなのでしょうか。それはあまりにも不敬であるとしか思えません。もしもそうだとおっしゃるのならば、奴隷に鞭打つようなむごい罰を科せるのは間違っておられるのではないですか?  

 どうかみなさま、わたくしのような異国の女にもわかるように、お教えくださいませ」


 目の前のブローチ姫と花模様姫、周りにいる立ち尽くしている姫君方を一人一人見た。

 誰も、何も返しては来なかった。


 しんと静まり返ったままのサロンで、フィナ姫に向かって一礼した。


「フィナ姫、申し訳ありません。フィナ姫が望むものが先ほどの姫君の望むことと同じならば、私はお返しすることができません。返礼のお品は、陛下におたずねして、後日善きものを贈らせていただきとうございます」

 固まったままのフィナ姫に笑顔を作って言うと、フィナ姫はフルフルと首を横に振った。

 切ないような顔をして、こちらを黙って見つめている。


 私はそのまま扇を開く。口元を隠して、みんなを見る。

「本日は、お招きくださいましてありがとうございました。みなさま、ごきげんよう」

 そのまま扉に向かって歩き出した。

 女官が慌てて扉を開ける。

 廊下に出ると、誰もいない廊下に自分の足音がやけに大きく響いた。

 私が部屋を出ると、イゾルも部屋を出てきた。どうやら、侍女の控えの間には自分の主人がサロンから出てきたのが分かるようになっているらしい。


 

「トゥヤ様!」

 少し歩いたところで、フィナ姫に呼び止められた。

 振り返ると、フィナ姫は立ち止まる。


「あ、あの……」

 呼び止めて、何を言おうか迷ったようだった。

 緑色の瞳が左右に少し泳いでいる。


「不愉快な思いをさせてしまって、ごめんなさい……」

 恥じ入るように小さな声で言って、フィナ姫は頭を下げた。しばらくしてから上げた顔は真っ赤になっている。

 なんて返事をすればいいか、考えあぐねた。


 そりゃ不愉快だけど、フィナ姫が直接不愉快なことをしたわけではないし。

 でも、顔に出したら負けだ。

 だから、笑顔を作った。

 私の笑顔に、フィナ姫はもう一度頭を下げた。

 

 

 



 

 


 


 

 

 

 

 






 


 


    


 


 

モウモウとはケペル国でテナガザルみたいな生き物のことです。アイアイみたいなイメージです。

トゥヤさんが語っていた自分の国の王様とは、歴史の教科書に出てくる中世ヨーロッパをイメージして適当に語ってます。

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