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暴君と女神様  作者: maruisu
王宮編
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第十一話

……誰か、この状況を説明してクダサイ……。


私、佐藤桐耶は、異世界のケペリという星のケペルという国の中心にある、王宮の後ろに広がる後宮の末端の一室の、それも寝室で、クッションを抱えている。


私は日本生まれの日本育ちで、誰に聞いてもはばかることのない生粋の日本人だ。いや、産まれてこの方、日本人以外の人種にはなったことないよ。

 それが、日本の中の誰に聞いても「何、その星。そんな星知らねー。まして、ケペル国? どこだよ、それ、やばいウケル」と言われてしまうだろう。いや、絶対言われるよ……。ってなところにいる。

 なんでこんなところにいるかというと……自殺しようとしてビルから飛び降りたら、ってのが正解。

 神様が新しい人生を用意してくれたのかしら、なんてことを考える余裕もなく、なんだかわからないうちに神殿とやらへ連れて行かれて、神子様にお会いして、『厄災から人々を救ってください』とお願いされた。そんな話をしていた矢先に、ひっとらえられて、なんだか知らないけど後宮に放り込まれて、一か月放置プレイ。

 あんまりの扱いに頭に来ちゃって、王様に食って掛かったら……怒りを買って、そのまま……のはずだった。

 はずだったんだよ、さっきまで。


 昨夜、専制君主制のこの国で、絶対権力を保持している王という方に、とんでもない暴言を吐きまくって……ええ、喧嘩を売りましたよ。

 喧嘩上等! 人に諂うなって言ってみたり、大人しくいうことを聞いていればいいと言ってみたり……一貫性のない発言をする、人を振り回すわがまま野郎には、喧嘩を吹っ掛けるぐらいがちょうどいいんだよ! なんて強気だったけど、けど、さすがにまずかったかも。だって、相手は最高権力者だもの。

 だから、ほとぼりが冷めるまで大人しくしてよう(はーと)なんて思ってたら……そうは問屋が卸しませんでした。


 涙が出ちゃうー。だって、女の子だもん――(涙)


 今日はね、穏やかな一日だった。朝からお天気も良くてさわやかだったし、たわいないおしゃべりしてみたり、後宮の屋上に連れて行ってもらって、そこから見た街の景色はきれいだったし。昼食もおいしかったし、こちらのお風呂は公衆浴場みたいな大きな浴場で、サウナみたいになっている。それに入って気分もよかったし、お風呂係の下女の方がきれいに磨き上げてくれたから、肌もぴかぴかになった。


 ああ、今日はいい一日だったな。


 なんてによによしながら、イゾルと自分の部屋に戻ったら……戻ったら……、お留守番をしていたシャナヤが泣きそうな顔をしながら、フルフルと肩を震わせて、リビングルームの扉の横に、佇んでいた。


 どうしたの? って尋ねてみると……

 王のお渡りでございますって、頭を下げる。しかも、ちらり、ちらりと寝室の扉を見ている。


 ……

 どういうこと?


 はい? って首をかしげながら、寝室の扉を開けようとしたら、シャナヤが「ああ!」と小さな悲鳴を上げた。え、本当にどうしたの? ってシャナヤの方を振り返りながら扉を開けたら……


「私を待たせるとは、いい身分だな」

 って、低い声が聞こえた。


 ……


 ……


 だから、申し上げましたのに……ってシャナヤの小さい言葉がすごく遠くで聞こえた。


「――はい? ……」

「今日の伽を申し付ける。栄誉に思え」

 人の寝台でふんぞり返っているのは、私の旦那様。

 高慢ちきで、人を怒鳴って、見下してる、この国の絶対権力者。


「……はい――!!?」

 もう一度叫んだ。


 誰でもいいです、この状況を誰か説明してクダサイよ、ほんと……。


 王様はうんざりした顔でこちらを見ると、一つため息を落としてみせる。


 ……喧嘩売ってんですか?


「伽って……毛色の変わった女を抱く趣味はないって言ってたじゃない――」

と言いかけて、ぎろりと睨まれた。


「――じゃないですか?」

 いくら妃と言えど、王には尊敬の念を持ち、敬虔な態度で、とイゾルにたしなめられたのを思い出したので、とりあえず取り繕ってみる。


「ないな」

 王様はあっさり言って、クッションに靠れている体を起こした。

「伽は、名目だ。そなたの部屋を訪れる口実は、他にはないからな」

 王はそういうと、顎で私に隣に来るように指示した。

 私が寝室に入ると、侍女の手によって寝室の扉は閉ざされる。当然二人は、これ以上はこちらが声をかけない限り入ってこない。


 えっと。伽が名目で、王様はベッドに体を投げ出していて、私に隣に来いとは……これ如何に……??


 戸惑っていると、王が鼻で笑う。

「――昨日の、そなたの話、なかなか興味深かった。

 もう一度、話せ」

 人にお願いする態度まで、ずうずうしいとは……。


「昨日の話? 『裸の王様』――ですか?」 

「そうだ。あれは傲慢な王を諌める話だったな。なかなか良い寓話だった。あれは、そなたが作ったのか?」

 王の声音が軽くなる。今まで冷たい目で見ていた王の瞳が、何となく優しい。

「あれは、私の世界の話で……私が作ったわけじゃないです。もっと、昔の人のお話」

 すると、王は「ほう」と目を瞠る。


「余は、愚かな王ではない」

 突然口を開いた王様の言葉に、目が丸くなる。

 

 ……愚かな王じゃない!? ど、どの口が言うの?


「王として己を疑ってはならぬ。余がこの国の指針とならねばならんからだ。国を支えるには確固たる信念がなければならぬ。それゆえ、傲慢となることもあろう。しかし、王は愚かであってはならぬ」

王様がそのまま続ける。


「愚かな王は、国を滅ぼす」

 

 王は冷静にそう告げた。

 私と王様の間に静寂が訪れる。王は、昨日と同じように私と目を合わせようとはしない。

「そなたが何者かは知らぬ。他の女のように部屋を宛がっておけばそれでよいと思っていた。しかし――」


 言葉が切れる。王はゆっくりとその緑色の瞳をまっすぐにこちらに向ける。

 しっかりと私の瞳をとらえ、見据える。


「そなたは考え、行動する」

 真顔で一言言い放った。


 王様が何を言いたいのか、真意がわからない。

 王様を見つめ続けていると、王の口元がふとゆるんだ。いままで、怖い顔しか知らなかったから、それが微笑みなのに気が付くのに、時間がかかった。


「こちらへ」

 王が手を伸ばす。その手を取っていいのか悩み、一歩前に出た。

「そなたが何を考え、余に諫言したのか、知りたい。これは、純粋な好奇心だ」


「そなたの国の話を、夜毎に聞かせよ」

 こうして私は、夜毎訪ねてくる王様にシェヘラザードよろしく、知っている話をすることになった。

 でも、一介の女子高生だった私が、王様の聞きたい話を即興で作れるわけもなく、何でもいいという王様の言葉を拠り所に、自分の知っている話を片っ端からすることになるんだけど。

 そりゃ、もう、シンデレラから、イソップ物語、グリム童話、古今東西思いつくままなんでもしましたよ。

 

 



  



  



  






 

 


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