綾香サイド
そうだ、バラの匂いをつけたクッキーを渡そう。
きっといつか、あなたにこの思いが届くように・・・。小学四年生のバレンタイン。私は彼の郵便受けにそっとクッキーを忍ばせた。
自己紹介が遅れました。私「紫雨綾香」といいます。
絶対に実らない恋に気休めのバレンタインをすごしています。
だけど、バレンタインの翌日十五日。
「昨日さ、俺の家に俺の名前だけ書かれたクッキーが入ってたんだけど」
「うっわなにそれー」
軽く傷つきました。そりゃそうですよねー。急に渡してきた相手もわからないようなクッキーが郵便受けに入ってたら・・・・。そうなりますよねーー。
「食ったのか?」
「すてた」
もう・・・立ち直れません・・・。
周りには気取られないようにはしていますが、かなりの精神的ダメージです。
「そういえば綾香はバレンタイン誰か男子にあげたの?」
あ、京香ちゃん。幼馴染の親友です。
毎年この質問をされますし、された時の回りの男子の反応が何故か凄いんです。
「え・・・。いや、あげたおぼえは無い・・よ?」
曖昧にごまかすに限ります。
「ふむ、その反応、誰かにあげたな?正直に話せ!」
「だから、あげてないってばー」
話したくてもここじゃ話せませんよぅ。
めげずに来年も入れておきますよー!祐樹君からしたらちょっとした恐怖かも知れませんねぇ。あ、ゆうき君というのは私の初恋の相手です。言うまでも無いですかね?
そして、五年生のバレンタイン。今回も中に祐樹君の名前だけが書かれたメモを入れて霧雨家の郵便受けへ。
今年こそ食べてくれるといいんですが・・・。
十五日。神様は私を嫌っているのでしょうか?
「今年もあのクッキー入ってたんだけどー」
「じゃあ、今年も捨てたのか?」
「あぁ、だって気味わりぃじゃねぇか」
うぅ・・・・。もう・・・無理・・・・。
「食べた方が良かったんじゃないかなぁ。だってバレンタインでしょ?女の子の気持ちは大切にしておかないとあとで痛い目見るよ?」
あ、京香ちゃん・・・。こっちにパチッとウィンクしてきました!事情をあのあと説明していたのでフォローしてくれたんですね!ありがたいですーーーー!
「まぁ、今年はもう捨てちゃったし。来年も入ってたら食っといてやるよ」
「なーんでそんな上からめせんかなぁ」
来年は食べてくれるんですね!うれしいです!
ウキウキそわそわしながらやっとのことできた六年生のバレンタイン。
おいしいって言ってくれるんでしょうか?おいしいって言ってる所を聞きたいです。
同じように祐樹君の名前だけがかかれたメモを入れたクッキーの包みを霧雨家の郵便受けへ。ウキウキそわそわしながら十五日。
「で、今年もきたのか?そのクッキー」
「あぁ、きたぜ。なかなかうまかった」
バラみたいなにおいもしててにおいも良かったぞ。という祐樹君。
やったぁーーーー!うれしいーーーー!おいしいってうまいって祐樹君がいってくれましたよー!
もう、気持ちが天まで舞い上がります!
でも、私は自分で言うのもなんですが意外とポーカーフェイスなんですよ?
こんなに嬉しくても顔はいつもの無愛想なままです。証拠にトランプのダウトで負けたことがありません!
意味の無い自慢でしたね。すみません・・・。
「で、来年も渡すの?」
モチロンです。たとえ祐樹君に彼女ができたとしてもクッキーの量が減るだけです。
結婚したら別ですけど。
「彼女が出来たらやめときなよ。祐樹君が酷い目に合うかもなんだからさ」
うぅ。確かに正論といえば正論ですが屁理屈といえばへりくつですぅ。
「ま、程ほどにしときなよ?」
了解しました。
中学生のバレンタイン。
また、バラのクッキーを霧雨家の郵便受けへ。
毎年うまくなっていってる気がします。気がするだけですが。
毎年毎年。バレンタインにクッキーを渡す。だからともチョコはいつも一つ多い。多い分は本命だから。
で、もう偶然京香ちゃんと祐樹君と一宮さんと同じ高校に!
一宮さんは祐樹君を狙う私のライバルです。
高校一年生のとき、遂に私のポーカーフェイスが見破られ、
「紫雨、クッキー渡してきてる奴知ってるのか?」
「へ?あ、うん。私のしってる人だよ」
うん。ウソはついてない。と思うよ?
「ふぅん。どんな奴?」
「えっと、長い黒髪で星の髪留めをだいたいいつもしてるの。特徴といったらそれくらいかなぁ?」
残念ながら私が今つけているのはハートの髪留め。星の髪留めをだいたいいつもしているのはそうだけどね。
「そうか。会ってみたいなそいつに」
「そう」
思わず頬が緩む。笑顔になる。
いつか、面と向かってクッキーを渡しているのが「私です」っていえたら・・・。
私が「あなたのことを好きです」っていえたら・・・。
苦しい初恋。小学四年生からずっと高校生まで。長い長い初恋。
実ることは無い。そう、割り切っていたつもりだったんです。
だけど、高校二年生のとき。
祐樹君が私を本格的に探し始めた。なぜかは分らりません。けれど、毎年クッキーを郵便受けに入れている人つまり私を探していた。
その時名乗りを上げたのが一宮さんでした。
星の髪留めをつけて、長い黒髪の少女。
私の言った条件にぴったりじゃないですか。私も同じ格好でしたが名乗りを上げませんでしたから気づかれるはずもありません。
とても・・・、悲しかったです。自分に成りすまされいる気分で・・・。
苦しくて悲しくて。
けれど、私はめげませんでしたよ?
彼女ができたとしても、付き合っている理由は一宮さんがクッキーの少女と勘違いしているからなんですから。一宮さんが違うと分れば・・・。分れば・・・・。
どうなるんでしょうか?
まぁ、いいです。高校二年生のバレンタインにも同じように霧雨家の郵便受けに入れておきました。
気づいてくれるんでしょうか?分ってくれるんでしょうか?
不安です。
ですが、それも杞憂に終わったようです。噂では、祐樹君と一宮さんの関係が上手く言ってないようです。
おっと、私の悪い癖が出てしまっているようですね。嫌いな人の不幸は心の底から嬉しがってしまうんです。
なかなか性根が腐ってるでしょう?自覚はしてますよ?私なりには。
さて・・・・・・・。どうしましょうか?
どうするも何もアプローチはバレンタインにしかできませんしね・・・・。
「綾香、見てみなよ。一宮さんと祐樹君完全に上手くいってないよ。見るだけで分る」
京香ちゃん。その笑い方「悪」です。
え?私も同じだろって?当たり前じゃないですか。表に出さないだけで私は京香ちゃんより「悪」ですよ。嫌いな人に対しては、ですが。
祐樹君は最近ずっと考え込んでいます。だいたい見当がつきます。
次は、手紙を入れてみようかなぁ・・・・。
何て事を京香ちゃんの話を笑顔で聞き流しながら考えている私でした。
何を血迷ったのか、やや季節はずれのバレンタインネタ。
当日に投稿できてたら良かったんですがね。