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今度こそ君に  作者: 三月べに@『執筆配信』Vtuberべに猫


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8/9

こ紹介するは




お父様が城に来ました。


「プロポーズの件はどうなった?」

「ま……まだです、お父様…。プロポーズの台詞が決まらなくて…」


 ゴオオオ、と殺気と魔力をただ漏れしている元魔王に、現魔王は青ざめて震える。

揃いも揃ってあたしの築き上げた威厳を破壊したいのか。


「ならば何故来ない。ユリーヌが首を長くして待っているぞ」

「はっはい、お父様。お待たせして申し訳ありません」


 ガシリと大きな手で頭を掴まれた時は、引っこ抜かれるかと思ったが、気付けば見覚えのある森の中にいた。

父がブロンドの美男子の姿になったのを見て、あたしも人間の姿に変える。

 黙って父の後を追い、ユリーヌの住む村に向かった。その村でユリーヌと父は食堂をやっている。

美男美女がやる食堂だけあって、人気なのだ。

元魔王がやっていると知ったらどうなるんだろう…。


「あら!探したのよ、あなた。セレイナちゃんまでいいところに!」


食堂に入ると、直ぐに笑顔でユリーヌが駆け寄った。

いいところに?


「勇者様が来てるのよ!」

「あれ?せなっち?」

「え。」


 ユリーヌの後ろからひょっこり顔を出した景くんに、あたしは硬直した。

隣から冷気を感じる。

吐血して気を失いたい。

 とりあえず、元魔王が行動を起こす前に腕に抱きついた。


「お父様、勇者の景くんです。景くん、あたくしのお父様です」

「あ、どうも勇者の景くんです」


 目を丸めていた景くんは、紹介し終わるといつものようにあたしが抱きつく父に笑いかける。

 聞き流してる!


「景くん。あたしのお父様」

「うん?」

「あたしのお父様だよ」

「うん」

「あ・た・し・のお父様だよ」

「うん…………ん?」


 気付け!と念じた。

漸くあたしの父=元魔王だと思い出した景くんの笑みが凍り付く。

 つい昨日、家臣達に圧勝して調子に乗っていた景くんに、あたしの父である元魔王には絶対勝てないよと忠告した。

あたしが見る限り、景くんは勝てない。そう断言しておいた。

実際、一捻りにされると思う。

 歴代最強の元魔王と勇者が鉢合わせした瞬間。

凍った笑みのまま見上げている景くんを、凍てつく目で見下ろす父・ジゼルグ。


「ところでプロ」

「うわああああああっ!!」


 冷気を微塵も感じていないユリーヌが口を開いた。開口一番にプロポーズの件を訊こうとしたため、大声を出して阻止する。

 プロポーズまだ、プロポーズまだだから言わないで!

と必死に小刻みに首を振ってユリーヌに伝えた。


「ど、どうしたんだよ?せなっち」

「なななんでも!」

「まぁまぁ。さぁ座って、一緒にご飯を食べてって」


 クスクス笑うユリーヌは、景くんの背中を押すと席に座らせる。

父までもが座るものだから、あたしも座るしかなかった。

激しく逃げたいが、この二人を一緒に置いていけない。


「…なんでここにいるの?景くん」

「村長に頼まれ事されて……そしたらユリーヌさんが寄ってって。まさかユリーヌさんの義理娘が、せなっちだとは…」


 用事があってこの村に来ていて、その情報を掴んだユリーヌさんが捕まえたわけだ。

よかった。プロポーズ云々は聞いていないようだ。


「つかぬことをお訊きしますが、勇者様」

「様なんてとんでもないです。なんでしょう?」

「ではケイさん。お姫様と婚約したって噂は事実なのですか?」


 クリン、と首を傾けてユリーヌが直球で訊いた。

あたしも聞きたくても訊けなかったので助かるが、せめて心の準備をさせてほしかった。

 ギョッと目を飛び出すほど大きく見開いた景くんは、あたしに目を向けたかと思えばグルリと明後日の方向に向ける。


「ご、誤解ですね。その噂は。事実無根です」


 キョロキョロと目を泳がしつつ、否定した景くん。ホッとした。

別に人間のお姫様と結婚するためにこの異世界に留まるわけではなさそうだ。


「では他に心に決めた方がいらっしゃるのですか?」

「えっ、いやっ、決めたっていうか、そのぉ…」


容赦なくグイグイと問うユリーヌに、たじたじな景くんは顔を赤くして俯いた。

言葉は詰まっていたが、その反応は図星。

 意中の相手が他にいる!?

その相手がいるから、この世界に留まりたいのか。

泣きそうになってしまい、両手で口を押さえる。悲鳴を上げてしまいそうだ。


「二人って仲が良いみたいだけど、もしかしてケイさんの心に決めた人はセ」

「うわああああああっ!」

「うおおおおおおっ!!」


 容赦ない天然女神な美女の問いをあたしも景くんも声を上げて遮った。

 やめて!トドメを刺さないで!

今それ答えたらあたしの心は粉々になって、景くんはお父様に殺されちゃうから!!


「ちょっ、景くんちょっと外して!」

「お、おう!ちょっと外の空気吸ってきます!!」


あたしも景くんも顔を赤くして、席を立つ。景くんはさっさと食堂を飛び出した。


「や、やめてくださいっ!まだプロポーズも告白もしてません!自分でやりますから!自分で告げますからそうゆうのやめてください!」

「まぁ…でも今の」

「お願いします!」


 泣ける!寧ろ泣く!

五歳の時父に怒られて以来号泣したことなかったが、今なら号泣できる!

必死に言えば「わかったわ」とユリーヌは諦めてくれた。

仲良いわね実は付き合ってるの?なんてお節介はやめてほしい。絶対にだ!


「でも彼、少し話しただけだけどいい子ね。セレイナちゃんが好きになるのもわかるわ、とっても素直で飾らない子よね」

「……ありのまますぎて子どもっぽく見えますが…」

「そんな彼が好きなんでしょ?」

「…………はい…」


ユリーヌの偽らない言葉に、恥ずかしく俯く。

 子どものまま身体だけが大きくなったような、無邪気さが滲み出る笑顔の景くん。

お調子者でも子どもっぽくっても、不意に垣間見るかっこいい姿。

真っ直さが好き。全部が好き。

ユリーヌの率直な問いに、あたしは熱を帯びた顔を伏せるように頷いた。


「……あら?ジゼルグは何処?」

「え?………!?」


 ユリーヌが漏らすため顔を上げて隣を見たら、つい先程までそこに座っていたはずの父がいない。

 まっさっかっ!!

慌てて食堂を飛び出すと、少し離れた場所に景くんと父がいた。

そこにダッシュで向かう。


「なにを話しているのですか?」


 脅迫プロポーズの話をしてないよね!?

ビクリと小さく震え上がる景くんと父を見上げる。


「ユリーヌの飯を食えと話しただけだ」


あたしの頭をその大きな手で撫でると父は一足先に食堂に戻った。

 ん?それだけ…?

父が中に戻ったのを見届けてから、景くんに見上げた。


「……まさか会うなんてびっくりだよな、おっかないなお父さん」

「うん…だから言ったじゃん」


怖いでしょう。あたしのお父様。

沈黙したけど、どうやら結婚の件は聞いていないみたい。


「ご飯食べようか」

「あ、うん。食べようか…」


現魔王と元魔王と勇者で、村の食堂で一緒に食事をすることになった。






愛妻家だけど、実は娘も大好き!なお父様。

お姫様はその事実を知らない…。


さて、割愛割愛で

次が最終話です。




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