プロポーズは
「…確かにさ、城で待つとは言ったけど……本当に来ちゃうなんてどうかと思うよ」
「え?城に来いって意味かと思っちゃった」
翌日勇者景くんは、魔王の城に来ちゃいました。
あたしが止める暇もなく、城の騎士達は景くんに襲いかかり返り討ちにされた。強いね、勇者。
「しっかし昨日は面白かったな!魔王よ!勇者よ!って!ぷはははっ」
十八歳になっても大人になりきれていない景くんは大笑いする。
「しかもせなっちがノリノリでわらわって!」
「…あれが通常の口調だよ」
「え?まじで?」
「うん。景くんだから昔の口調に戻ってるの」
魔王だからあの口調が通常。
部下にも昨日の口調で対応する。
「ふぅん……」
笑うのをやめてまじまじとあたしを見つめてくる景くんに、たじろぐ。
どうしよう。景くんにはあたしと結婚か殺されるかの二択しかないことを話さなければいけないのに。話せない。
「あ、ところで。神様にさ、頼まれたんだよね。この世界を平和にしてくれって」
「ああ、うん」
「すんなり引き受けたの?それともなにか見返りを求めたの?」
お調子者の景くんのことだ。
じゃあ見返りをちょうだい、と神様相手にも掌を見せたに違いない。
それがもしかしたら、人間のお姫様との結婚では?と遠回しに噂を確かめてみた。
目を見開いた景くんは、そっぽを向いて頭を掻く。
「うん。まぁ。ちょっとな。一つだけ願いを叶えてくれって、頼んだ」
「その、願いって」
「…………」
他所を見たまま口を閉じた景くんを見て、それ以上訊くのはやめた。
訊いてほしくないみたいだ。
同じクラスの時、それなりに仲良しだったと感じていたが、二年の空白がある。その距離感が痛い。
「元の世界に戻るとは、また違う願いなのかな」
「へっ?」
「元の世界に、戻りたいでしょ?」
元の世界に戻せって願いなら隠すことではない。念のため確認してみたら、驚かれた。
「いや…俺は…そのぉ…ここに永住しようかなって考えてる。あっちの世界に戻りたい理由なんて特にないし」
またそっぽを向く景くん。
戻りたい理由がない。
ここに居たい理由はあるのだろうか。
景くんがなにを考えているかわからない。昔はサッカーしか頭になくて、お調子者で無邪気に笑う男子だった。
今はサッカーをやめてしまっていて、なにか願いを叶えるために勇者になった。
やっぱりお姫様と結婚を望んでいるのだろうか。
あたしかお姫様だったら、きっとお姫様を選ぶだろう。あたしは一応人外だし。
きっと美人で可愛らしいお姫様に一目惚れでもしたのだろう。可愛い子がタイプだって言ってたもん。
「それにしてもさー」
いきなり口を開いたので、あたしは慌てて伏せてしまった顔を上げた。
「せなっち、格好エロイな!」
「………………………!?」
笑顔で言われた言葉を理解するのに少々時間がかかったが、咄嗟に腕で身体を隠す。
確かにあたしの格好はエロイ。
魔物は露出が高い服を好むらしく、あたしが今着ているドレスは胸元を露にしたコルセットのようなデザインで、背中も露出している。前開きになっているロングプリーツスカートの下にミニスカート。惜しみ無く出した足には紐を巻き付けたブーツ。
こうゆう服にすっかり慣れてしまったし、エロイですよと注意されることもなかったため、平然としていた。
だがこうして男子に、しかも好きな人に言われてしまって、大ダメージを食らう。
「貴様!魔王様に向かって!」
「わらわは大丈夫だ!下がっていろ!」
家臣の一人が殺気立ったため、慌てて下がるよう命じる。
今あたしと景くんは玉座の前に座って話をしていた。堂々と乗り込んだ勇者に、家臣達は挑んだが敗れたのだ。
勝てないとわかっててまた挑むことをするな。
下がれと言うが、早く対決してほしいのか、それとも勝負の行方を見届けたいのか、誰一人その場から出ていこうとはせず見守っている。
「いやだって…エロイもんはエロイんだもん。恥じらうのに、なんでそんなの着るの?せなっち」
「これが魔物のファッションなの!」
「ふぅん…ならなんで恥じらって隠すんだよ?魔王の威厳的にどうなの、その恥じらいのポーズ」
「君がその威厳をぶち壊してるってわかってる…?」
全く鈍感な人だ。
堂々と城に乗り込んでこうしてあたしと向き合って座って話してる時点で、あたしの威厳が脅かされてるって気付いていないのか。
何とか胸を隠す腕をギギギッと退かす。
景くんの視線がその胸に集中する。直ぐ様また腕で隠す。
「見ないでよエッチ!!」
「え!?俺!?見せびらかすように出してる方がエッチだよ!」
「貴様ぁあ!もう我慢ならんっ!!」
───プロポーズ、出来そうにもありません。
ヘタレるお姫様
でも、実は勇者の方がヘタレなんです。
次は再びお父様ご登場




