表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
今度こそ君に  作者: 三月べに@『執筆配信』Vtuberべに猫


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/9

まさか勇者は



 十四歳で魔王になりました。

歴代最強の魔王から歴代最弱の魔王に変わり、その座を奪おうと立ち上がる輩が大勢いた。

その大勢を返り討ちにして、半年後は歴代最小年の魔王と認められました…。

伊達に歴代最強の魔王の血を継いでません。

伊達に歴代最強の魔王の腹心に鍛えられてません。

 腹心達は鼻を高くして満足げ。。期待に答えることができて嬉しいです。

 父親は新しい妻とラブラブ生活を境界線付近で送っております。幸せならいいです。ええ、まぁ。

 一度、人間の王と話し合おうと向かった。だが、門前払いを食らう。大砲やら銃弾の嵐。

話し合いすらできねー…。

話し合いは早々に諦めて、勇者が現れるのを待つことにした。





 十六年+十六年が経ったある日。

ついに勇者が現れたそうだ。


「何でも神が異世界から召喚した人間の少年だそうです」

「ほう…?異世界からか…」


玉座の膝掛けに頬杖をついて、報告してきた右腕である宰相を見る。

 異世界から。

もしかして地球からだろうか。

神様ってなんでもありなら、何故自分で魔王を倒さないのだろうか。この世界に生まれたのが神様のせいなら、喜んで戦ってぶっ潰してやる。


「特徴は黒い髪にダークブラウンの瞳をした顔立ちのいい少年。名前はケイ・サトウ」

「……ケイ・サトウ?」


宰相の口から出た名前に反応して、あたしは目を丸めた。

 佐藤景───サイウ・ケイ。

橙色の夕日を背に、手を振って笑いかける想い人が浮かんだ。

そんなまさか、とその可能性を忘却する。

あれから十六年だ。少年とは言えない。彼のはずはない。

そうそう、平凡な名前だ、ありがち。偶然よ、偶然。たまたま偶然、同姓同名の人が召喚されただけだ。彼なんかじゃないわ。彼なんかじゃないわ。彼なんかじゃないわ…。

 自分に言い聞かせた。

黒髪にダークブラウンなんて、ありがち。そうそう、ありがちなの。十六年前だから、絶対に違う。絶対に違うわ。


「顔色が優れませんね、魔王様。どうかなさいましたか?」

「………」


誰かが声をかけてきたが、あたしは応えることが出来なかった。

過った可能性が捨てられない。

 嘘だろ、そんな、まさか…。

倒さなければならない勇者が、前世の想い人なんて、なんの因果だ。

偶然のはずがない。

ただの偶然のはずがないのだ。


「勇者を見に行ってくる!!!」


 あたしは玉座を立ち上がり、窓から城を飛び出した。

十一年前と違い、あたしを確保する者はいない。人間の姿に変えて、既に魔物の大陸に足を踏み入れているという勇者───ケイ・サトウを捜す。

蝙蝠の翼で飛び、境界線の森へ入る。

人間の匂いを嗅ぎ付けて、数時間で見付け出した。

 平然と森の中の道を歩いていた勇者。右手はポケットに、左手は頭の後ろに置いていた。その背には身の丈のほどの剣を背負っている。

この世界の服に着替えていて、一見異世界から来たとは思えない。

 でもその顔は、間違いなくあたしの知る佐藤圭だった。同じくらいだった背が、少し伸びたように見える。顔立ちもほんの少しだけ違っていた。

 でも鮮明に記憶に残っている彼と酷使している。

胸が締め付けられて苦しかった。


「────景くん?」


久しぶりに呼ぶ名前。泣きそうになってしまい、声が震えた。

 本当に、本当に、君なの?

 あたしが恋をした、君なの?


「…え?…えっと…」


 突然目の前に現れて名前を呼ばれて、戸惑いつつも彼は一歩歩み寄った。

声も少しハスキーになってる。

違う人なのかな?と過った。

 別人、なのかな?

不安に思いつつ、知り合いかどうかを確かめるように顔を覗いてくる彼を見つめた。

彼が目を見開く。


「─────せなっち?」


懐かしい響きで呼ばれた。

もう堪えられなくなって、涙が落ちていく。

 景くんだ。

 あたしの知っている景くんだ。

 あたしの好きな景くんだ。

感極まってあたしは景くんの胸に飛び込んで、抱きついた。



 ───倒すべき勇者は、好きな人でした。








勇者はまさかの、好きな人。



神様の仕業、と思ってください。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 64行目辺りの「でもその顔は、間違いなくあたしの知る佐藤圭だった。」の景君の名前が誤字だったので報告です!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ