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ホラー探偵 後半

 後に落ち着いてからは、あれはなんだったんだろう、という話でもちきりになった。先輩はもう関わらない方が良いと逃げ腰だったが、あたしたちはどうしようもなく気になって、もう一度訪れることを何度も提案した。とうとう折れた先輩は、一つ提案を返してきた。それが・・・

 「それで、僕のところに来たと。」

そう、探偵、とは限らないが、自分たち以外の誰かに一緒に行ってもらうことを条件に出してきたのだ。どうしてと聞いても判然とした答えは返ってこなかったが、改めて訪ね、冷静な第三者の目からの情報で事を測ろうというようなことらしかった。こんなくだらない依頼を受けてくれる事務所などないと思っていたが、

 「構いませんよ。依頼ならどんな内容でもお受けします。」

と、なんとも違和感のあることに、この探偵は面倒くさがりもせず依頼を承諾した。この探偵、どうにも不思議な様子なのだ。日本酒片手に3流雑誌に読むともなく目を傾け、その目は酒に酔ってはいないようだが、どこかてんでん別のものを捉えているようだった。


 そのまま依頼を二つ返事で受けた探偵と、あたしたち、それとまあまあ顔を出す方の先輩5人で例の場所へ向かった。出たのが6時過ぎだったので、着いた頃にはさすがに夏の日も落ちていた。先輩らは日を改めることを提案したが、こんな機会を逸するのはもったいない。元より怖いもの見たさの同好会なのだから、といってあたしたちが押し切った形であった。

 やはりその敷地内に入ることが危ぶまれるほどの不気味さであったが、今回は人数も多く、しかも依頼に反対したあたしが言うのもなんだが、このふてぶてしい第三者には不思議な安心感があった。今回は最初から例の大屋敷から攻めることにした。同じルートで階段へ向かおうとしたのだが、探偵さんが無言で別の道を行ってしまい、図らずも別ルートで入ることとなった。

 以前入った場所を左に大きく回って、離れのあった方向に今にも倒れてきそうな引き戸があった。よく見ないと単なる壁にしか見えないが、これがどうやら本当の玄関のようだった。引き戸を乱暴に開けて、探偵さんはずかずか中へ入っていく。この入り口から入ると、家の造りはわかりやすかった。入って長い廊下が伸び、右手に居間、左手は応接間か書斎だろうかという部屋だった。廊下を進み、突き当りを右へ折れる。左は水場のようだった。この分だと、二階は家人のプライベートスペースなのだろう。右へ折れると、そこが崩れた階段前だった。こう見ると、以前入り込んだ入り口はお勝手でも裏口でもない、単に風通しのための通し口であったようだ。

 階段は見事に崩れていた。5人分の懐中電灯で照らし出され、その光量を前に不可思議が蒸発してしまったようだった。こう見ると何の変哲もない、つまらない・・・

 「やっぱりなんにもないだろう?もう帰ろう。馬鹿馬鹿しい。」

 「そのようですなぁ・・・」

 「ホントだよ。もう、俺足痛くなってきたし。」

 「なぁんか、つまんないね。ねぇ?」

・・・

 「あれ、見て。」

あたしは、気づいたことを言ってみる。

 「ほこりがこの辺だけなくなってると思わない?」

そう土、砂、塵。いろんなもので埋め尽くされてそれがどこにもかしこにも振り積もっているはずなのに、ここだけやたらきれいなのだ。まるで、

 「まるで、誰かが這い回ってたみたい。」

 「ちょ、ちょっとやめろよ。そんなのわかんないだろ?」

 「そうだよ、やめろよ。」

 「いや、だっておかしいですよ。明らかに。」

そう、これは勘違いではすまないレベルだ。先輩たちにはお目目がついているのだろうか。

 「・・れ、霊の仕業って事なの?」

 「そ、そうか、霊だよ。も、もう行こうぜ・・・」

霊・・・あたしはこんな同好会に所属していてなんだが、幽霊なんてものは存在しないと思っている。みんなも同じだと思っていたが。大体本気で霊を信じているなら、廃屋に入り込んだりしてあからさまに霊の神経を逆なでる様なことはすまい。そもそも先輩たちの反応はさっきからおかしい。

 「埃が散っている以上、ここに誰かいたんですよ。誰かいてのたうち・・・」

閃くものを感じたが、一瞬逡巡する。でも言ってしまう。だから男の子にもてないんだろうな・・・

 「先輩、足の怪我どこでどうしたんですか?」

 「・・・」

尻尾を出した。ここで沈黙しちゃ駄目でしょ、先輩。

 「あ~あ、もう駄目のようですな~お二人さん。もう観念しましょうよ。」

 「探偵さん・・・?」

・・・ここで探偵が口を挟むとは思っていなかったが、その理由は台詞が語っている。


 そう、先輩方は裏で計画をして、あたしたちを驚かそうとしていたのだ。あの日、足に怪我をした先輩は階段の裏に潜み、あたしたちが二階に登った隙に階段にいたずらをし、降りてきたところを驚かそうとしていたそうなのだ。ところが階段の裏に潜んでいると、階段が突然崩れて足を挟まれた。あっけらかんと叫んだら雰囲気ぶち壊しなので、できるだけ耐えたが、どうしても出てしまったのがあのうめき声、ということだった。真相を知りたがるあたしたちへ事の露見を恐れた先輩は探偵を裏で買収し、何とかごまかして事を切り抜けるつもりだったらしい。

本当に馬鹿馬鹿しい。というか、

 「そこまでする必要あります?っていうか、足怪我してたら普通に危険じゃないですか。なんで声あげなかったんですか?」

 「それは・・・雰囲気ってもんが・・・」

ため息しか出ない。こいつら常識ってもんがないのか。だいたい・・・とあたし流の説教が始まろうとした矢先、腰の低い先輩が柄にもなく勢い込んで話し出した。

 「お、俺が悪いんだ!俺が頼んだんだよ。」

まあ、あなたも悪いですよ、と思いつつ、なんだかデジャブ。こんなに威勢のいい先輩をどこかで見た気がする。

 「俺、君が・・・君が好きなんだ!」

・・・・はぁ?先輩はあたしの友達に向かって、いきなり告白した。この場合、暗闇だが、この言葉があたしに向けられたものではないと確信できてしまう自分が哀しい。そういえば、こやつあの時"君を守る"的発言をしておったわ。

 つまりは、そういうことらしい。語らせないでくれ。ホント馬鹿馬鹿しい。他でやってくれ。


 ともかく、これで事件は解決し、探偵事務所に戻ったのは、バカップルの場をわきまえない告白合戦が終了するのを待ったため午前1時を回っていた。探偵さんにはあたしたち全員でお詫びを述べて別れた。去り際、

 「はらっとけ」

と言っていたが、支払いのことだろう、どこまでもぶっきら棒な探偵さんだ。

 その後あたしたちはお詫びとしてファミレスでの奢りを要求し承諾を得たので、その足で近場のレストランへ向かった。席に案内され、お水を持ってきてもらう。ところがだ。


1,2,3,4・・・5。


・・・何度数えても、グラスは5つ並べられていた・・・





後で聞いた噂だが、この街には霊能関係のトラブル専門の探偵局があるという。霊からの依頼を受けて仕事をする。人間からの仕事を決して受けないのだという。この噂の探偵が実在するのか、あの探偵さんがそうなのかはわからない。


ただあの後どれだけ探しても、あの古びたコンクリ建屋は見つけられなかったのだ。



「ホラー探偵」 完


完結です。


なぜこんな話を書いたのかは僕のブログに書いてあります。

万一興味のある方はブログにいらしてくださるとうれしいです。


感想・ご指摘お待ちしております。

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