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親より先に死んだ俺、異世界で徳を積んで無双する  作者: 田舎浪漫


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トサン

老夫婦が置いていったリンゴを前に、俺たちは深刻な壁にぶち当たっていた。


「……なぁエマ。さっきの老夫婦、最後まで俺のこと『お尻の神様』って呼んでたぞ。感謝はされてるっぽいが、意思疎通がこれっぽっちもできてねーじゃねーか」


俺は前足で地面に『アリガトウ』と書こうとしたが、蜂の細い足では土を掘り返すだけで、文字通りミミズののたくった跡にしかならなかった。


「徳を積むには、相手のニーズを知るのが基本じゃ。……いや、基本なのよね。なのに会話ができないんじゃ、ただの親切な害虫として駆除されるのを待つだけね」


「害虫って言うな。……なぁ、ステータスに何かないのかよ。翻訳スキルとかさ」


エマが渋々といった様子で、空中にホログラムを弾き出す。


「あるにはあるわよ。ほら、これ。念話テレパシー:半径10メートル以内の対象と意思疎通ができる。だって、ただし」


「ただし?」


「解放コストが『5000pt』。今のあなたの残高はマイナス。……ポイントが無いわね」


「高っ! 地平線の彼方じゃねーか!」


絶望する俺の視線の先で、エマがニヤリと、あの地獄にいた時と同じ「性格の悪そうな笑み」を浮かべた。


「いい? コーセー。世の中には『キャンペーン』という便利な言葉があるの。……今なら初回限定で徳ポイント前借りプラン:30日無利息キャンペーン実施中よ。でもこのキャンペーン、30日以降の利息はトサンね。どうする?これを使えば、今すぐスキルを解放できるわよ?」


「トサン……! 闇金も真っ青の超暴利じゃねーか! だが……」


このままじゃ、俺の存在は永遠に「お尻の神様ピンク」止まりだ。親元に帰るための100万ポイントなんて、夢のまた夢。

俺は意を決して、エマが提示した「借入ボタン(肉球マーク)」を、蜂の前足で力いっぱい踏み抜いた。


《キャンペーン適用:スキル【念話(不完全)】を解放しました》

《警告:徳ポイントが『マイナス5000』加算されます。返済期限にご注意下さい。》


「よっしゃ……出ろ、俺の声! 『あー、テステス、マイクチェック、ワンツー!』」


俺が念じると、エマの頭の中に直接俺の声が響いた。


『おっ、聞こえるかエマ! 俺の声、イケボで届いてるか!?』


「……聞こえるわよ。不快なほど鮮明にね。でも、そのスキル……『不完全』って書いてあるわよ?」


「あ? 不完全ってなんだ……」


俺が不思議に思っていると、森の奥から一人の新米らしき冒険者の少年が、こちらに向かって歩いてくるのが見えた。

獲物……いや、徳の匂いだ! 俺はさっそく練習のために、空中に浮かび上がり、少年の目の前まで飛んでいった。


『よぉ少年! いい天気だな、何か困ってることはないか?』


自信満々に念話を飛ばした――その瞬間。

「ヒッ……!? ピッピンクの蜂……『貢げ……もっと徳を……さもなくば刺す……』って、脳内に直接語りかけてきたあああああ!!」


「えっ」


「助けてくれえええ! 呪いだ、ピンクの蜂に殺されあああ!」


少年は、持っていた薬草の袋を放り出して、脱兎のごとく逃げ去っていった。


『……おい。エマ。今、あいつなんて言った?』


「……不完全。つまり、『こちらの意図が間違って伝わる』か、もしくは『強制的に威圧感のある声に変換される』仕様みたいね。流石は地獄省の格安スキルだわ、性格が悪すぎる」


《ピコーン! 冒険者を恐怖させたため、徳ポイント△100pt》


「マイナス増えたじゃねーかああ! ポイント返せ! 少年待て! 今のは挨拶だ、ナイスな挨拶だったんだぁぁぁ!」


俺の必死の呼びかけ(念話)は、逃げる少年の背中には『逃がさぬ……地の果てまで追い詰め、地獄を見せてやろう……』という死神の宣告として響き渡っていた。

こうして俺は、対話能力を得ると同時に、この付近の冒険者ギルドで「喋るピンクの蜂」として討伐依頼が出され、報酬目当ての冒険者の襲撃に頭を悩ませるのだった。

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