プラマイゼロ
俺の脳内に、期待していたものとは少し違う、無機質な精算音が響いた。
ピコーン!
《緊急クエスト『堕天使を捕縛しろ』:地獄省への通報を確認。自力での解決を放棄したとみなします。》
《報酬内訳:有力な情報提供 徳ポイント 1,000,000pt / クエスト放棄ペナルティ 徳ポイント △1,000,000pt》
「……おっ、おーー、プラマイゼロ。あー、増えると思ったんだけどなあ……」
世の中そんなに甘くないらしい。俺のなけなしの知恵は、システムによって「手抜き」と判定され、華麗に相殺された。
だが、損はしていない。安全に事が済んだと思えば安いものだ。そう自分に言い聞かせようとした、その時だった。
「コーセー、ポイント増えたのね? いくら? さすがに自分で捕縛してないから丸々1千万は無理でしょうけど、半分の500万は堅いわよね? で、実際のところは?」
エマがジト目で詰め寄ってくる。こういう時の女性の勘は鋭すぎる。500万pt入る前提で「私も、もうすぐ結婚ね」とか考えてそうな顔だ。ゼロだったなんて言ったら、今の俺の命がゼロになりかねない。
「え、エマ、今はポイントよりもこれを見てくれ!」
俺は引き攣った笑顔で、ユータから届いた緊急メッセージを彼女に見せた。
画面には、聖教国のライブ配信が映し出されている。
『緊急でお送りします! 我らが聖教国のシンボル、ベト・ハドゥド大聖堂が……ああっ、今、完全に崩壊しました! 原因は不明ですが、先日宣戦布告を行ったフェイタル・ガーデンの攻撃と思われます!繰り返します…』
「……え? グリム、やりすぎじゃね?」
画面の向こうでは、白亜の大聖堂が、まるで巨大な何かに「上から踏み潰された」かのように粉砕されていた。
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大聖堂は当時、聖王アザゼが、、魂を生贄に、更なる勇者召喚を行う儀式をするために人払いされていた。地下にある儀式の間、純白の法衣の背中から醜悪な黒い翼を広げた男――聖王アザゼはそこにいた。
その目の前に、13の影が音もなく降り立つ。
「アザゼだな。地獄省の死神課だ。用件は分かるだろ?我々に同行してもらう……抵抗は無意味だ」
漆黒の戦闘服にドクロの仮面を被り、身の丈を超える巨大な大鎌を担いだ集団。地獄省が誇る特殊部隊【G.R.I.M】である。
「じっ、地獄省だと? 私はベリアの息子だぞ!私に手を出すと神罰が……」
「五月蝿い。お前が誰の子かは関係ない。我々は命令に従うのみ」
「ちっ、馬鹿にしやがって」
アザゼが舌打ちをしながら、魔力任せでグリムに攻撃を仕掛けようとした時
ドォーン!!
音さえ置き去りにする速度でハーベスターを一閃、アザゼの攻撃ごと切り裂いた。
「ギャァァァァァッ!?」
「抵抗は無意味と言った。」
リーダー格の男にやられアザゼはあっさり気絶した。
「Aチームは俺とこいつの移送だ。Bチーム。この場所を徹底的に壊せ。建物が魂の牢獄になってる」
こうして、アザゼはボロ雑巾のように引きずられ、虚空へと連れ去られていった。そして、Bチームの波状攻撃により、大聖堂は完全崩壊した。
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その圧倒的な暴力が、「フェイタル・ガーデンの仕業」として世界中に生中継されている。
直後、脳内に人生最悪の不吉な音が鳴り響く。
ビービービー!!
《深刻な警告:世界認識の致命的な固定化を確認》
《世界中の99%が『フェイタル・ガーデン』を人類史上最凶の魔王として正式に認識しました。》
《称号:『真なる魔王』確定》
《徳ポイント:△10,000,000pt》
「……い、いっせん、まん……?」
膝から崩れ落ちる俺。魔王認定の冤罪を払拭できず、世界に恐怖を撒き散らした責任として、システムが俺から「徳」を根こそぎ奪い去った。1千万のマイナス。もうゴミ拾いどころか、国一つ救ってもお釣りが来ないレベルの負債だ。
「……ねえコーセー。私たち魔王冤罪払拭しないと駄目だったじゃない?あれ魔王の所業にしか見えないんだけど」
やはり、こういう時の女性の勘は凄まじいな。諦めた俺は引きつった笑顔で告げる。
「……マイナス1千万確定しちゃった」
「コーセー!諦めちゃダメよ。 まだ1千万ポイントのクエストが残ってるじゃない!」
エマに怒鳴られ、俺はハッとした。
そうだ。聖王は連行されたが、【クエスト:不当に召喚された勇者の魂を地球に返せ】はまだ生きている。報酬は1千万。これさえクリアすれば、ひとまずはプラマイゼロにできる!
俺は即座にフェイタル・ガーデンメンバーとスカイのドラゴン部隊をグループ通話で呼び出し事情を説明した。
「皆、説明した通り、勇者たちが逃げ出した。それぞれ、バラけて勇者を捕まえてくれ。あーもちろん殺さずにだ。アカリは無理せず、拠点で皆のサポートを頼む」
俺がそう告げると、フェイタル・ガーデンの面々は、それぞれの「いつもの調子」で応えた。
「コーセー、 一千万ポイントきっちり回収するわよ。新しい眷属、ステルスビーで居場所も捕捉しているわ」
「「お姉様の勇姿バッチリ配信しますわ」」
「いやぁん! 逃げてる勇者くんって、なんだか守ってあげたくなっちゃう……。でもダメよ、コーセーきゅんのために、アタシが濃厚に……捕まえてあげるわん!」
「レンレン、私たちずっ友だからチーム組みましょ?」
「終わらせて俺はハネムーンにもどる」
「あーし、まだ根に持ってるんだよねー。ロザリーっちと開発したあれ試そっかな?」
「私もせっかく大量生産した聖剣を試せなくてウズウズしてたので、ちょうど良かったです」
「おい、ユータ俺にも、それ一本くれ。先輩勇者様の俺が直々に指導してやる。コーセー終わったら蜂蜜酒で祝杯な!」
「スカイ第一航空部隊は、皆さんを勇者の元へお届けしましょう」
「うちは妊婦なんでお留守番っすね」
よし、皆準備OKだな。ああ、ちなみに信長は手当たり次第、レールガンぶっ放そうとしたので、ロザリーに着払いで返品しました。じゃあ始めますか。
「――魔王による勇者狩りの時間だ」




