絶賛正座中
『コーセー、どういうことかしら? あなた、まさか単騎で王城に突っ込んだの?』
グループ通話越しでも分かる、エマの低い声。俺が無謀な特攻を仕掛けたと勘違いしている彼女は、少しイラ立った様子で問い詰めてくる。だが、俺はどこ吹く風で、ありのままを答えた。
『いや……散歩してたら捕まえた』
直後、通信の向こう側で、絶句するような長い沈黙が流れた。
あ、今の言い方は「なめてんのか」と思われるな。俺は慌てて、もっともらしい言葉を付け加える。
『……あー、つまりだ。天が俺に味方したんだ』
さらなる、果てしない沈黙。
そして10分後――俺は今、村の広場で絶賛正座中である。
「……まあ、だいたい理解できたわ。そこに転がっている『中身を剥がされた王』と『眠っている不審な小男』を見れば、あなたの言い分が真実だってことはね。居たのを捕まえたのは、当然の行為よ」
怒れるエマを筆頭に、武装したメンバー全員が飛んできた。
全員が「歴史的な開戦」に向けてフル装備だったため、聖剣を腰に差したヤスオや、レールガンの上に座った信長、ドラゴンの姿のまま着地したレンレンの孫たちに囲まれるという、地獄のような圧がすごい。
「でもね、コーセー。報連相は正確にしなさい。あなた、いい大人よね?」
エマが少し……いや、かなり怒っている。このままだと説教が朝までコースだ。正座のせいで足の感覚がなくなってきた俺は、一か八か、空気を変えるために渾身のセリフを放った。
「……そんなに怒るなよ。でも怒ってるエマも、可愛いな」
ゴンッ!!
「今言うことじゃないわ」
視界が火花を散らし、俺の意識は呆気なく手放された。久々のゲンコツ……やっぱりエマ、腕力上がってないか?
次に目が覚めたとき、俺はなぜか眩い光の中にいた。
「……ん? ここは……」
そこは、村の集会所を改造したらしい記者会見場だった。
正面には大量のマナカメラが並び、それは世界中にライブ配信されているみたいだ。会場にはモニターが多数設置されておりコメントも確認出来た。
俺の隣には、強制解除薬のおかげで、すっかり毒気の抜けた、なんちゃら王も座っている。
「えー、あ、その……。余が、不甲斐ないばかりに、え〜……精霊に唆され、このような……」
王が震える声で謝罪の言葉を述べている。どうやら、憑依されていた期間の記憶はあるらしく、自分がしでかした悪事の重さに絶望しているようだ。
すると、最前列に陣取っていた記者の男が、俺に向かってマイクを向けた。
「……えー、コーセーさん。世界が固唾を呑んで見守っていたこの一週間、一体何をされていたんですか?」
鋭い目つきの記者がマイクを突きつけてくる。
ライトが眩しい。隣でガタガタ震えながら「申し訳ない、全ては余の不徳の致すところで……」と呟き続けている王を余所に、質問の矛先は完全に俺へと絞られていた。
「何って……準備とか、色々と……」
「『準備』、ですか。革命軍を組織し、トール君を旗頭に立てて国民の不安を煽り、聖剣を大量生産して一触即発の空気を作った……。それだけの力がありながら、『散歩中に偶然捕まえました』で済ませるおつもりですか?」
「いや、事実だし…」
「最初からその力を使えば、戦争の恐怖に怯える国民も、家を捨てて避難した避難民も出なかったはずです! なぜ、もっと早く動かなかった!? 本当は戦争を煽って、自分の実力を世界に誇示したかっただけではないのですか!?」
「えぇ……!?」
記者の怒号に近い追及に、会場がザワつく。
ライブ配信のコメント欄も、猛烈な勢いで流れていく。
『散歩で捕まるラスボスウケる』
『俺たちの不安を返せよ!』
『魔王の自作自演じゃねーの?』
『トール君を利用して人気取りかよ、汚いぞ魔王!』
「……まあ、そういうこともあるよね?
多分」
「ではお聞きしますが! あなたが組織した『フェイタル・ガーデン』のメンバー全員が世界に魔王と認定され更には天空国家スカイのドラゴン部隊、果ては海底国家ショーナンの戦闘部隊!革命軍は全員聖剣持ち。 あれだけの過剰な軍事力を見せつけておきながら、『ごめん、歩いてたら解決したわ』で納得する人間がどこにいると思っているんですか!?」
記者がさらに身を乗り出す。
「これはもはや、悪質なドッキリと言わざるを得ない! あなたが英雄気取りで散歩をしている間、どれだけの人が死を覚悟したと思っているんですか!」
あーだんだん面倒くさくなってきた。
「……争いは何もうまないし、国が変わるきっかけになったなら良くない?」
「なっ、ぎゃ、逆ギレですか!?」
記者が顔を真っ赤にして言ってくる。
「過程はどうあれ、これで国は変わるだろ?そもそも、俺たちが動くまで国や王に疑問を感じた奴いないのか?貴族にしろあんたたちにしろ。今まで、見て見ぬ振りしてたんじゃないのか?」
「そ、そうだ……! 悪いのは余に憑依した精霊だ! このコーセー殿は、余を救ってくれた恩人で……」
「陛下、あなたは黙っていてください! 今は魔王の不誠実さを追及しているんです!」
記者がなんちゃら王を秒で黙らせ、再び俺にさらに質問する。
「では、コーセーさん。あなたは、 国民や、革命軍の皆さんに、謝罪はしないということですね?」
「しないよ?する必要ある?感謝してくれとは言わないさ。仲間の為に動いただけだから。でも謝る理由がない。ところであんた何処の記者の人?」
「私は、フェニキア新聞です。それが何か?」
あー、そういう事ね。俺は壁際にいるフェイタル・ガーデンのメンバーに声をかけた。
「なあ、キアラ、ノッテ。勇者召喚に聖教国と聖女が関わってる証拠を全世界に配信してくれ。今すぐだ」
「なっ、どういうことですか!?そんなデタラメな情報を流すなんてありえませんよ!!」
記者は今日一番顔が真っ赤になった。まあ、記者じゃなくて工作員だろうけど。
「マリン、この記者を拘束してくれ。エマ、勇者は今どうしてる?」
俺の発言にマリンがすぐさま記者を拘束し、エマが眷属の蜂で確認する。
「コーセー、ごめんなさい。勇者を見張らせていた眷属の連絡が途絶えたわ」
あー遅かったか。考えても仕方ないし今は後始末をしないとな。記者がうるせーし。そう考えているとアグロTVの腕章を着けた記者が話しかけて来た。
「あのーすいません。展開について行けないのですが、どういうことでしょうか?」
「うん?あー聖教国も今回の件に少なからず関わっているんだよ。まあ認めないだろうけど。詳細は動画で流すよ」
アグロTVの記者にはそう答えトールを呼んだ。
「まあ、過程は想定外だったけど今回の革命の終着点は決めてあったんだ、トール!」
トールを呼ぶと、俺の横に走って来てマイクを握り話しだした。
「あー僕達、革命軍は様々な可能性を考えていたんですが、王が誰かに操られていた場合の終着点は…」
皆が固唾を飲んでトールを見守る。
そして、
「この国を立憲君主制の民主主義に変更します!!」
トールがドヤ顔で宣言し、俺もビシッと決まったなと思った。だが記者達は首をかしげ、コメントには、『なにそれ?』『パンにつけると上手いやつだ』とか、皆ピンと来ていない。トールも慌てて、
「立憲君主制の民主主義についての説明も今日中にマナネットにアップします」
と、何か締まらない記者会見だ。だから俺はカメラ目線で言ってやった。
「あー皆さん最後にひと言。
我々、フェイタル・ガーデンはフェニキア聖教国に宣戦布告しまーす!」




