表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
62/76

空気なんて読まないけどな

「……あー、やっちまったな。これ、どうしよう」


あれから一週間。俺は村の裏手にある、のどかな丘の木陰で、目の前に転がっている「二つの塊」を見下ろして途方に暮れていた。


----------------------------------


村の防衛準備は、俺が入り込む隙がないほど完璧に進んでいた。というか、みんなのやる気がオーバーフローして、もはや「防衛」の域を遥かに超えていた。

ハネムーンから強制送還されたクルスとアカリは、到着するなり「ハネムーンを邪魔した王国は万死に値する」とブチギレたクルスが土魔法を暴走させた。結果、村の周囲には万里の長城もどきの巨大な防壁がそびえ立った。


鍛冶場では、元ギルド支部長のユータが弟子のドワーフ鍛冶師、数名を呼び寄せ、聖剣の「ライン生産」という神をも恐れぬ作業に没頭していた。


「よし、次だ! 10秒以内に魔力を定着させろ!」


彼の指揮下で、伝説級の武器が、まるでパンでも焼いているかのように出来ていく。今や戦える村人全員が聖剣持ちだ。しかも包丁や農具まで聖剣仕様になっている。


ヤスオはかつての拠点、イーサの街から総勢100名を超える腕利きの冒険者軍団を連れて戻ってきた。というか、冒険者ギルドの職員も来ており冒険者ギルドが移転した感じになっている。


情報戦でもキアラとノッテが暴れ回っていた。王国の汚職、勇者召喚の犠牲の生贄、違法奴隷の証拠……それら全てをライブ配信で世界中にバラ撒いたのだ。その流れに乗って、革命の旗頭となった少年トールが自由の旗を掲げ宣戦布告の演説を行った。


「僕たちは生贄じゃない! 奪われるだけの存在じゃないんだ!」


その魂の叫びは、重税や不条理な法に苦しむ国民たちの心に火をつけた。今や王国全土で王侯貴族への批判運動が起き、良心を持った、貴族・騎士団の一部までもが「国民に剣は向けられない」と離脱し、トールに賛同してこの村に集結しつつある。


一昨日には、レンレンとマリンも援軍を連れて戻ってきた。

天空国家スカイの第一航空部隊10名全員がドラゴン姿でやって来たときは圧巻の光景だった。ちなみに隊長はレンレンの孫だ。

海底国家ショーナンの援軍は、……多くは語らないが、隊長は門番のアザラシだった。ファンシーキャラって戦えるの?


ロザリーは忙しいらしく、マミには遠隔でアドバイスをし、決戦に向けて第六天魔王ことちょんまげエルフの信長を派遣してくれた。これで魔王が全員そろった。意味が分からないのは、主砲をレールガンにした戦車で来たことだ。しかし、軍師としては、えげつない策を次々と構築していた。


マミも、勇者の力を奪う薬を完成させ、今は「ついでに」と超高性能ポーション類をドラム缶単位で量産中だ。


準備は万全。むしろ過剰戦力だ。

俺が「何かあれなサポート」をする隙など、1ミリも残っていなかった。


「……あー暇だ。」


みんなが「歴史的な一戦」に向けて血気盛んに動いている中、特にやることがなかった俺は村の境界線を散歩していた。


「まあ、徳ポイントでも稼げるゴミ拾いでもするか……」


そんな軽い気持ちで歩いていた時だ。

木の陰に隠れて、いかにも怪しい男がブツブツと独り言を言っていた。


「ヒヒッ……ニコタール様お待ちください。コアを必ず手にいれ、あなたを正気にもどしやす……」


……ん? あいつ、どこかで見たことあるな。……あ、なんちゃら王じゃね?

俺は思わず鑑定スキルを発動した。


【ヴォルデマール・ルクス・アグロニア23世(卑屈の精霊グラウ憑依中)】


「……憑依してんじゃん」


俺は溜息をつき、マミから「念のために」と持たされていた強制解除薬を取り出した。卑屈の精霊を炙り出すために作られた、対象の擬態や憑依を強制的に剥がす「霧吹きポーション」だ。

俺は背後から忍び寄り、シュッシュッと二回、霧を吹きかけた。


「うわあああああああ!? な、なんだ!? 体が……剥がれる、剥がれるぅぅぅ!!」


ドサッ、という音と共に、アグロニア王が気絶して倒れ、その体から黒い霧のような影が飛び出した。影はみるみるうちに、卑屈な顔をした小男の姿へと実体化していく。そして俺に気付いたグラウは。


「おのれ……よくも私の隠密を……! 私はかつて、ニコタール・スカイ様に最も忠実だった精霊グラウだぞ!」


「忠実?レンレンを魔王に仕立てたお前が?……なんでこんなところに一人で来てんだよ」


「う、うるさい! お前らが情報を封鎖するからだろーが!私は……私はただ、あの頃の主に戻ってほしいだけなのだ! 破壊の精霊として暴君のように世界を蹂躙し、絶対的な力で君臨していた、あの凛々しいニコタール・スカイ様に……!!」


グラウは泣きながら叫んだ。


「今のあの方はなんだ! ピンクのフリルを纏い、『わよん』などと……! あんなの私の知っている主ではない! コアを回収して無理やり体に叩き込めば、きっと以前の暴君に戻ってくれるはずなのだぁぁ!!」


うるさいからマミ特製眠り薬を使う。


「……なるほど。お前、ただの重たいファンだったか」


レンレンを元に戻したいという、ある意味では純粋な、だが迷惑極まりない動機。そのために王国を操り、勇者を生贄にし、世界を滅ぼしかけていたのか、こいつは。


--------------------------------------


「……あー、やっちまったな。これ、どうしよう」


正直、めちゃくちゃ困った。

村の中では、トールが「明日は決戦だ!」と村人を鼓舞し、レンレンは「サラの墓を汚す不届き者を八裂きにしてやるわん!」と気炎を吐いたりとすごい空気だ。今ここで俺が、


「あ、散歩してたら王様いたから、捕まえてきたわ」


なんて報告をしたらどうなる?

間違いなく、みんな「えーっ?」ってなるだろう。


「……ま、俺は空気なんて読まないけどな。むしろ、戦争に熱くなっている空気なんてぶっ壊したほうがいいか」


俺の足元では、グラウとなんちゃら王がいびきをかいて寝ている。

これどうやって連れて帰ればいいんだ?


「……よし、とりあえず、こいつらをロープで縛って…」


俺はフェイタル・ガーデンの皆にグループ通話をかけた。


『コーセー、今忙しいんだけど後じゃダメかしら』


真っ先にエマが言う。他の皆も明日に向けて忙しいとそれぞれ口にするのを遮り、俺は大きく深呼吸をして、言ってやった。


『捕まえちゃった』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ