『ズッ友』だもの
「そう、皆魔王になったのねぇん。うふふ、お揃いじゃない。でも、私たちもアグロニアの真の目的を掴んできたわよん」
天空国家スカイから帰還したレンレンが、優雅にお茶を啜りながら不敵に微笑む。その横ではマリンも、いつになく真剣な……それでいてどこか熱っぽい面持ちで頷いた。
話は、二人がスカイの王宮へ乗り込んだ数日前の回想へと遡る。
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「いいから、今すぐ息子に会わせなさい」
「不審者め! 陛下に父親などおらん。出会え!」
門番たちの槍が突き出された瞬間、レンレンが深く溜息をついた。
「……話が通じないわねん」
次の瞬間、王宮全体を震わせる轟音と共に、フリルに包まれた魔法少女の姿が霧散する。そこに現れたのは、雲海を丸ごと呑み込むほど巨大な、漆黒の鱗を持つ伝説の古龍の姿だった。
「ひ、ひっ……!? ま、まさか……伝説の、ニコタール様!?」
腰を抜かし、祈るように平伏する門番たちを余所に、レンレンは再び人型に戻り、悠然と城の奥へと入っていく。辿り着いた先には、静かに玉座に座る二代目国王ダレル・スカイがいた。
「……久しぶりねん。ダレル」
「……母には、会われましたか?」
ダレルは一瞬目を見開き、やがて子供のような顔で泣き笑いした。
「会ってきたわよん」
「母も喜んだでしょう。……ですが父さん。まだ、その格好をしているのですね。僕はもういい大人ですよ? もう、夜泣きなんてしません」
「いいのよん。これ、今じゃ私の立派な趣味なのよん」
沈黙が流れる。ダレルは、父のピンク色のフリルを見つめ、深いため息をついた。
「それで今日はどうしてここに?」
「アグロニアが200年前、私を魔王に仕立て上げた理由が知りたくてねん」
ダレルは忌々しげに鼻を鳴らした。
「ああ、ありましたね。愚かにもワイバーンに乗ったアグロニアの連中が、聖地にある『秘宝』を出せと騒いでいました。父さんの……ニコタール・スカイの名の元に返り討ちにしましたが、秘宝なんてありもしない母さんの墓所を狙うとは、バカな人間どもです」
「……違うわん、あそこには人間が『秘宝』と呼ぶものがあるのよん」
「え……?」
「私の核よん。私が元、『破壊の精霊』だって教えたでしょ? サラと……ダレルの母さんと出会った時、人間として生きるために取り出したのよん。それを一緒に埋めたのよねん」
横で聞いていたマリンが、鋭く息を呑んだ。
「精霊核……『生命の雫』とも呼ばれる代物ね。あなたほどの大精霊の核なら、一国を買い取れる。……人間が血眼になって欲しがるはずだわ」
「……だけど、それを知っている者は少ないはずなのよ。……ところで、今、グラウはどこにいるのかしらん?」
「父さんに、ついて行っていたのでは……?」
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「……というわけで、私の昔の側近だった【卑屈の精霊・グラウ】が、情報を売ったか……あるいはアグロニア王そのものに憑依している可能性があるのよねぇん」
レンレンの話を聞き終えた俺は、こめかみを両手で押さえていた。
情報量が多すぎる。だが、それよりも。
「……いや、ちょっと待て。ツッコミどころが多すぎて頭がパンクしそうなんだが」
俺は震える指でレンレンを指差した。
「レンレン、お前……結婚してたのかよ!? しかも息子もいて!?」
「えー、今そこツッコむのねぇん? なんなら私、孫もひ孫もいるわよん? ダレルと食事した時なんて、私をお祖父様って呼んできて……オネェちゃんって呼んでって泣いちゃったわん」
「もうやめてやれよ! 息子が立派な王になってるのに、親父がピンクのフリフリで『わよん』とか言ってる絵面、地獄すぎるだろ! 孫たちの教育に悪いわ!」
「失礼ねぇ。これでもスカイじゃ神として崇められてるんだから」
ギャーギャー言い合う俺たちを、エマが冷徹な一喝で黙らせた。
「コーセー、その話は後よ。それで他に情報は?」
マリンがエマに応じて話しだした。
「違法奴隷のことなんだけど、あれ、勇者召喚の生贄に使われていたわ。私が魔王扱いされた原因の貴族たちの屋敷で、そういう書類を見たの。だからお仕置きしたのよね」
エマが納得したように頷く。
「なるほどね。だいぶ見えてきたわね」
「そうですね」と、ユータがこれまでの情報をパズルのように繋ぎ合わせ、口を開いた。
「つまり、卑屈の精霊グラウがニコタール・スカイの精霊核を欲し、アグロニアを裏で操って200年前に行動に移した……ということですね」
「だけど、レンレンっちの息子に返り討ちにあっちゃってー、世界を味方に付けるために魔王に仕立て上げたんだね!」
マミが身を乗り出し、マリンが静かに言葉を添える。
「それで、倒すための戦力……勇者を召喚するために、奴隷の魂を生贄にしたのね」
「200年かけて勇者召喚がようやく成功し、改めて行動に移したってことか」
ヤスオが吐き捨てるように言った。
キアラとノッテが声を揃える。
「「聖教国の目的は分からないけど、今はただの協力関係ね。こっちを優先すべきだわ」」
「コーセーきゅん、どうするのかしらん? 私、サラの眠る場所を狙われて、ちょ〜っとブチギレてるのよん。グラウに私の定めた禁忌を思い出させるわん」
レンレンの瞳に、古龍の威圧感が宿る。エマも静かに俺を見た。
「コーセー、もちろんやるわよね?」
「……ああ。これで徳ポイントがマイナスになろうが、もう知ったことか」
俺は皆を見渡し、不敵に笑った。
「アグロニア王国の歴史を終わらせる。……国盗りの時間だ」
「私もギルドを追われるでしょうし、フェイタル・ガーデンの一員として協力しても?」
ユータが恭しく礼をし、ヤスオも肩をすくめて笑う。
「じゃあ俺もだな。いいか、兄弟?」
「もちろんだ。今日から二人ともフェイタル・ガーデンだ」
「あはは! じゃあ、あーしも早く薬を完成させなきゃね!」
マミが明るく声を上げる中、ふとある光景に目を止めた。
「ところでさ、マリンっちは何でレンレンっちとずっと腕組んでるの?」
「マミ、私とレンレンは『ズッ友』だもの。当然でしょ」
くそ、みんなスルーしてたのに、ここでブッコミやがったな。
しかし、マリンは澄ました顔で言っているが、違う。絶対に違う。さっき聞いた、墓での出来事、ニコタール・スカイとしての漢気に当てられて、完全に惚れてやがるんだよ!
「……はぁ」
俺は締まらない空気に溜息をつき、これからの激闘に思いを馳せた。




