沈黙が支配した
「……よし。それじゃあ、それぞれが掴んだネタを共有しよう」
レンレンとマリンが天空へと旅立ってから三日間。俺たちはそれぞれ、調査を続けていた。三日目の夜、拠点の屋敷に集結したメンバーの顔は、どれも一様に険しい。
まずは、俺とユータがギルドの最深部から引きずり出してきた「200年前の真実」だ。
「……何一つ、なかったよ。200年前、アグロニア王国がレンレンに侵略されかけたという証拠、軍の出動記録、被害報告……紙クズ一枚すら残ってない。つまり、最初から完全な捏造だ」
俺の言葉に、ヤスオが苦々しく言葉を継ぐ。
「俺の方も真っ黒だ。勇者召喚にはアグロニアだけじゃなく、『フェニキア聖教国』とその聖女が深く関わってやがる。王国と聖教国の間で秘密裏に軍事協定が結ばれていてな……召喚された勇者の半分は、戦力として聖教国に引き渡される予定だ。あいつら、勇者を私兵にするつもりだぞ」
「「……こっちも最悪よ、」」
キアラとノッテが、ハッキングした通信記録を魔導端末に映し出す。
「「断片的な情報だけど、アグロニアは精霊界と天空国家への侵攻を計画してる。……それだけじゃないわ。アグロニアは五大国家の協議会に、『フェイタル・ガーデン』そのものを人類の敵、魔王として申請したわ。個別にマミ、コーセー、そして……お姉様も。認定されたら、私たちは世界の敵になるわ」」
「……はは、ついに俺まで魔王か。ちなみに、二つ名みたいなのもつけられるのか?」
「「マミは狂薬の魔王ね」」
「えーそんなの、かわいくなーい」
あー、そうなるよな。レンレン増産したし。
「「お姉様は冥府の魔王。シルバークイーンとも呼ばれていますね。」」
「普通ね。ヒネリが無いわ」
普通だけどイメージ通りなんだよなあ。
「「ああ、言い忘れてましたが、ヤスオにユータ。あなた達も私たちの仲間と思われていますよ?不義の魔王に、酒吞の魔王さん」」
「「何でだよ(ですか)!?」」
「理由は、違法奴隷の解放よ」
エマが、眷属の蜂から受け取った情報を話し出した。
「マリンは意図せずでしょうけど、マリンの犠牲になった貴族は全員、違法奴隷の事件に関与してたわ」
「ずっと附に落ちなかったんだが、マリンの討伐依頼が出た理由はこれか?」
俺が尋ねるとエマが頷く。そしてヤスオが話しだす。
「さっきは胸糞だから言わなかったが、奴隷は召喚勇者の慰み者や聖教国への贈り物にする予定だったみたいだぞ」
「ヤスオとユータ、あなた達も奴隷商を潰すのを手伝ったわよね?その時点ですでに敵視されていたのよ」
「なあ、ユータの不義の魔王ってなんなんだ?」
俺の疑問にエマが答える。
「コーセー違うわ。酒吞の魔王がユータよ。酒を飲むと酒乱の殺戮をするのをみたでしょ?」
マジかぁ。常に酒飲んでる、ヤスオが酒吞かと思ったわ。え?じゃあヤスオの不義って?
「……俺は昔、仲間殺しって言われてたんだよ。俺つえーって勘違いしててな。ある時、仲間を守れなくて…見殺しにしてしまった。その時も奴隷商が絡んでたんだがな」
「すまん、安易に聞くことじゃなかったな」
俺が謝ると「いいんだよ」とヤスオは目を閉じた。
「もう、分かったと思うけど、王国が私たちに依頼を出した理由は、邪魔な魔王2人とフェイタル・ガーデンで潰しあいをさせたかったのよ」
「ああ、俺たちの仲間が魔王と知らなかったんだな」
「でもそれもバレたわ。召喚された勇者の一人が遠見のスキルを持っていたわ。……私たちの会話を盗み見られてたみたい」
「「今は大丈夫よ。私たちが結界を張ったから」」
良かった。今も見られているかと思ったよ。
「あと……例の薬でレンレンの姿に変えられていた女子高生勇者たちの変身が解けて元に戻ったわ。今の彼女たちは、あんな姿に変えた私たちを激しく憎んで、復讐を誓っているわ」
するとマミも報告をはじめた。
「薬は七割くらい完成かなー。勇者の力、スキルを奪うやつ。神の力を取り上げるのはムズいよ。でも、急がないとマズいね……あーし、ちょっとロザリーに相談してみるよ」
「これからどうするかだな。……ところで俺の二つ名は?」
「「知りたい?聞かないほうが良いと思うけど……」」
キアラとノッテが何故か躊躇する。そんなにかっこ悪いのか?
「いや、一応知って置きたいんだが」
「「『小蝿の魔王』よ」」
俺が答えると二人がため息をつきながら教えてくれ…場を沈黙が支配した。みんな口を手で押さえ笑わないようにしてるだけだがな。
その時、屋敷の扉が開いた。
「……ただいま戻ったわん」
天空国家からレンレンとマリンが帰還したのだ。
「おかえり、レンレン、マリン」
俺は二つ名を聞かなかったことにした。




