たまにはいいね
『なあ、エマ。……やっぱりやりすぎちまったみたいだぞ』
俺は引き攣った顔を隠しながら、隣に立つエマに念話で話しかけた。
『そんなことないわよ、コーセー。あんな糞ガキ共、魂ごと消滅させなかっただけ有難いと思ってもらわなきゃ。むしろ足りないくらいだわ』
『……いや、ステータス見てくれよ。脳内に「徳ポイント:マイナス195万」って不吉すぎる赤字通知が来たんだが』
「えっ」とエマが短い声を漏らし、慌ててステータス画面を確認する。
みるみるうちに彼女の顔から血の気が引いていき、幽霊のように真っ白になった。
『……嘘。……やりすぎたわね。これじゃ、結婚が……また大幅赤字じゃない……っ!』
さっきまで玉座にふんぞり返っていた威厳はどこへやら、エマが小刻みに震えだした。
このまま手ぶらで帰ったら、地獄のパパやママに「赤字営業乙」と笑われるどころか、結婚の許可が1000年くらい先延ばしにされかねない。
俺は未だに床に膝をついてブルブル震えているなんちゃら王に、無理やり営業スマイルを向けて話しかける。
「ま、いろいろありましたが……なんちゃら王様? 依頼は受けますよ。詳しく説明してもらえます?」
この巨大なマイナスをプラスにするには、魔王討伐という超高難易度クエストのボーナスを狙うしかない。
俺が声をかけると、なんちゃら王は側近らしき痩せた男を必死に手招きした。その側近が、震える足で資料を抱えながら前に出る。
「えー、い、依頼内容は……我が国がしょ、召喚した異世界の勇者様のせ、戦闘くんりぇんと……二柱の魔王とうばちゅへの同行になりましゅ……っ!」
「二柱? 魔王ってそんなにいるのか?」
というか、側近さん噛みすぎだ。聞き取りづらくてしょうがない。
「戦闘訓練は分かりました。その二柱の魔王とは? 落ち着いて話してください。危害を加える気はありませんから」
「はっ、はいっ……! ご存知の通り、この世界には五柱の魔王がおりますが……」
ご存知ないけどな。この世界の設定を今初めて聞いたわ。
「こっ今回は我が国に極めて害をなす、天空国家スカイの龍魔王、ニコタール・スカイの討伐と……」
「……ブフッ!?」
吹き出したのは俺だ。ニコタール? ……え?やっぱりレンレン魔王だった?
俺は思わず、横で魔法少女の姿で爪を弄っているレンレンを見た。
自分の名前が出てよくそんな知らん顔出来るな。
アグロニア王国の人たち、魔王本人に魔王討伐を依頼してる感じ?
「ど、どうかされましたか……? やはり、龍魔王は恐ろしい存在で……」
「いや、なんでもないです。……それで、もう一柱の魔王とは?」
俺が冷や汗を拭いながら聞くと、側近は声を潜めて言った。
「はいっ。もう一柱の魔王は、その正体はハッキリと分かっていないのですが……通称、朧の魔王姫と呼ばれておりまして。神出鬼没、我が国の貴族が多被害にあっており、被害が甚大でして……」
朧の……魔王姫……。
俺は、パーティーの隅で無表情に佇んでいるマリンをチラッと見た。
すると、いつもはクールなマリンが、不自然なほど素早く「ぷいっ」と目を逸らした。……え確定?確定じゃないよね?あっ、テヘペロした。確定じゃん!
え、何このパーティー。
魔王軍の幹部どころか、魔王本人が二人も混ざってんの?よく、昨日以来受けるの聞いた時、了承したね。君たち2人はバカなの?ホントどうすんのこれ。
「なあ、キアラ、ノッテお前らは違うよね?」
「「知らないわ」」
だよね。この二人は人間に魔王認定されていても気付いていなそう、というか興味無さそうだな。よし、今はスルーしよっと。
俺が2人に確認していると絶望から立ち直ったエマが耳元で囁いてきた。
「……コーセー。魔王二柱ってボーナスポイント凄そうじゃない?」
どうやら彼女は「仲間を倒したフリをしてポイントだけ掠め取る」という計画を思いついたらしい。…神のシステム騙せるわけないよね?エマさん、時折見せるポンコツは今はいらんよ。
「はあ」
ため息をつきながら俺は、顔面をレンレンに変えられた女子高生勇者たちと、キスマークだらけで放心状態の男子高生勇者たち、そして倒すべき魔王本人たちが二人もいるこのパーティーを見渡した。よし、俺は決めた。
「あっ、やっぱ依頼受けるのやめまーす!」
俺の戯けた声が謁見の間に響いた。
「「「「「?えっーーーっ!?」」」」」
うん、俺以外が驚くのを見るのも、たまにはいいね。魔王討伐?争いは何もうまんよ。




