墓場に持っていこう
「……やっぱり、お前ら出来てたか。コーセー。ハーレム系はダメだぞ。男なら1人の女を愛し通せ」
地獄の冷たい床の上で、ヤスオが豪華なシルクの襟を正しながら、死んだような目で呟いた。
俺が放った「娘さんを僕にください!」という渾身のボケ(自爆)の余韻が、謁見の間に響き渡っている。誰か「なんでやねーん」って言えよー。
「おめでとー! コーセーっち、エマっち! あーし、巨大なウェディングケーキ作るよー!あ、エマっちは今日からあーしの料理教室参加して花嫁修業しよう。あーしが師匠だよー」
「マミ、いえ師匠!分かったわ。コーセーの胃袋を掴んで見せるわ」
凄い嬉しいけどさ、マミ。お前こういう時の空気ブチ壊すタイプじゃなかったか?
「二人ともおめでとぉん!私、二人の衣装を作るわん。コーセーきゅんには最高のハチ柄タキシード、エマはその綺麗な銀髪が映えるウェディングドレスねぇん。ウフフ腕がなるわぁん」
「レンレン、ありがとう。私、白無垢も着たいわ」
レンレンが「分かったわぁん」と頷く。うん、俺も白無垢姿のエマも見たい。
「マスターが言っていた。命は有限、だが愛は無限だと。……二人はお似合いだ。おめでとう。お互い守るべき者を守ろう」
クルスが相変わらずのポーカーフェイスで、深いんだか浅いんだか分からない哲学を語る。エマもキョトンとしながら「ありがとう」と言っている。
「……結婚。私もしたい。二人ともおめでとう。エマ、ブーケは私に投げて」
マリンが羨ましそうな瞳でこちらを見ている。
「もちろんよ!マリン、私の次は貴方よ」
エマとマリンは手を取り合い涙ぐんでいる。
「「お姉様おめでとうございます。コーセー。貴様、お姉様を泣かすようなことしたら分かるよな……」」
「キアラ、ノッテありがとう。私が結婚しても、側にいてくれるのよね?でもウシガエルは駄目よ。私たちの新婚生活にカエルは要らないわ。野生にかえしてあげるのよ」
エマ。野生って…一応、精霊王だぞ。巻き込まれて地獄に来た精霊王が「我の尊厳…」と呟きながら、魂で存在する地獄で魂から魂が抜けそうな摩訶不思議な状態になってるぞ!
「ええい、控えよ! 貴様ら! 誰が認めると言った! 儂は認めん! 認めんぞおおお!!」
玉座から身を乗り出し、顔を真っ赤にして叫ぶのは、地獄の主・閻魔大王だ。
「……パパが認めなくても、私はコーセーと結婚するわ。だって、こんなに面白くて、私を飽きさせない男、地獄にも現世にもいなかったもの。パパは私が行き遅れてもいいの?孫みたくない?抱っこしたくない?」
「……孫。儂がじぃじになるだと!?」
閻魔大王がブツブツ呟きだすと、それまでの威圧感がスッと消え、ベロベロバーとか、孫をエアー抱っこする仕草をする。じぃじ、ボケたか。
俺がじぃじにドン引きしていると、エマが俺を見て頬を赤らめながら「よろしくね」と微笑む。うわ、やべえ。可愛い。
「テッテレー! 実はボケでしたー!」なんて今更言える雰囲気じゃない。でも、正直……素直に嬉しい。うん、俺はエマと結婚する。
このボケは、俺の二度目の人生が終わるまで墓場に持っていこう。
「エマ、幸せになろうな」
「コーセー、幸せになりましょ。でもテッテレーって何のこと?私、地獄にいる時は心読めるって覚えてるでしょ?」
忘れてた。ヤバい。俺の二度目の人生もう終わるかも知れない。
「でも、全部読めなかったのよね。夫婦に隠し事は駄目よ、教えて?」
エマが上目遣いで聞いてくる。
「てっ、テッテレー!サプラーイズ告白!って言いたかったんだよ」
「そういうことね、じゃあ大成功よ」
危な。ギリセーフだ。俺の二度目の人生はまだ終わらない。良かった。俺が安堵していると、それまで閻魔大王に震えていたアカリが、ようやく落ち着いたのか、お祝いの言葉を口にした。よし流れが変わった。グッジョブだアカリ。
「……エマ様、おめでとうございますっス。幸せになってくださいっス」
「ありがとう、アカリ。あなたにもいい人が現れるといいわね」
エマの気遣いに、アカリは不思議そうな顔をして首を傾げた。
「え? 誰の話っスか? 実はうちらも、来月籍を入れる予定っスよ」
一瞬、地獄の業火が止まったような静寂が訪れた。
「……え? 誰とかしら?」
エマが、皆が、呆然とアカリを見る。
アカリは「あれ? 言ってなかったっすか?」と、いつもの面倒くさそうな顔で、隣に立つ無表情な男を指差した。
「クルスっス」
「…………はぁぁぁぁぁぁぁ!!?」
俺の絶叫が、地獄で響いた。クルスのお互いってそういうことかー!
「あっ、閻魔大王様!妊娠3ヶ月なんで、今日から産休と育休100年くださいッス」
「…………はぁぁぁぁぁぁぁ!!?」
アカリの更なる爆弾発言に、今度は閻魔大王の絶叫が地獄で響くのだった。




