時空旅行で俺最強
「何の音だ!?」
俺たちが地獄茶をすすり、現実逃避を決め込んでいた時だ。
突如として上空に巨大な空間の裂け目が現れた。そこから現れたのは、ファンタジーな天空国家には似つかわしくない、無骨な鉄の塊――アパッチのような攻撃ヘリだった。
轟音と共に、ヘリから骸骨を模したヘルメットを被った戦闘集団が次々と降下してくる。俺たちは即座に茶を捨て、武器を構えた。
「やあ、10年ぶり……かな?」
集団の一人がヘルメットを脱ぎ、不敵な笑みを浮かべる。
「ロザリー!!」
「やあ、奇遇だね。君たちも時空旅行を楽しんでいるのかい?」
「……ロザリー、あんたがエルフフロンティアから逃亡してまだ数ヶ月だ。10年も経ってねえよ。それに、その格好は何だ? あんたら、タイムパトロールから指名手配されてんだぞ!」
俺の指摘に、ロザリーは首を傾げた。
「そうか、まだ数ヶ月か。時空を跳躍していると、どうも時間の感覚がズレる。それで、タイムパトロール? 何の話だ?」
ロザリーは平然と答え、背後の仲間たちと何事か話し始めた。全員がヘルメットを脱ぐ。そこには、エルフらしい整った顔立ちの美男美女が揃っていた。
「ああ、紹介しよう。彼らは君と同じ『転生者』だ。アルベルト、アイザック、チャールズ、アルフレッド、レオ、マリー、そしてトーマス。時空旅行のガイド役として、ノアとノヴァにも協力してもらっているよ」
紹介された連中が、俺が死んだと勘違いして「殺すなよ」とロザリーに怒られた時にでた名前の人たちだ。俺は問いかけた。
「なんで全員、転生前の名前なんだ」
「合理的だからさ」
アルベルトと呼ばれたエルフが、眼鏡の奥の目を光らせて答えた。
「生まれた時から前世の記憶が色濃く残っている。この世界の親から貰った無駄に長い名前を名乗るより、かつての自分を名乗る方が効率的だ。元の名は捨てたよ」
俺がロザリー達と話をしていると、隣ではキアラとノッテが、過去と未来を司る双子の精霊――ノアとノヴァに問いかけた。
「「ロザリー達に力を貸したのはなぜ?」」
ノアとノヴァはケラケラと笑った。
「エルフフロンティアを脱出する際、みんなに追いつくための足として力を貸しただけだよ。」
「顔見知りだし、面白そうだったからね」
無責任な精霊たちに俺が頭を抱えていると、隅で震えていたタイムパトロールのロジとエラが、こちらに近づいてきて、震える声で罪状を読み上げ始めた。
「き、君たちは、過去未来とあちこちで騒動を起こし歴史を改竄しすぎた! 重大な時空旅行法違反だぞ!」
「騒動?」
アルフレッドが鼻で笑った。
「地球の2000年代に流行っていた『異世界無双−時空旅行で俺最強−』を、過去や未来の強者で実践していただけだ。今回は、この時代のニコタールとトーマスで、どっちの『破壊』が上かタイマンを張る予定だったんだが……」
「逮捕だ! 全員逮捕だ!」
ロジの叫びに、レオが話し出す。
「逮捕逮捕、うるさいですね。歴史改竄? 我々が関与することもまた、歴史の一部だと思いませんか?現に、私たちが訪れた、過去も未来も共に別の時代の何者かが干渉した形跡はありましたよ。心当たりありませんか?それに――」
レオが、少し離れた場所で全身鏡を見つめているニコタールを指差した。
「あれも干渉の結果でしょう? 未来の人間が渡した鏡を見ながら、『これが……私?』と呟いているあの暴君を、改竄と呼ばずに何と呼ぶんですか?」
「……ぐっ」
ハイ論破〜と聞こえてきそうな顔でドヤってるレオに苦虫を噛み潰したような顔のロジ。俺がどうしようかと考えていると、城の瓦礫の向こうから、クルスとレンレンが、近づいてくるのが見えた。
「コーセーきゅん、ごめんねぇん。私ドラっちゃった」
「何が?」
俺が見苦しいテヘペロに困惑しているとクルスが蚊の鳴くような声で話しだした。
「……デロリ◯ンが、再起不能になった。中にいたら急に姿が戻ってな。びっくりしたレンレンはドラゴンになってトドメをさした。すまない。」
あー、デロリ◯ンの中で俺たちを待ってたもんな。それは仕方ないと思う。
「それを伝えに来てくれたのか?」
「いや、過去と未来の精霊を探して直してもらおうと思ってな。レンレンがこっちにその精霊の気配があると言うから来てみたんだ。一応残骸を持ってきた」
クルスがアイテムバッグから残骸を取り出すと案の定、側にいたタイムパトロールのロジとエラが、発狂したような声を上げた。
「あああああ! 公用車がああぁぁ!!」
「降格だ! 懲戒免職だ! 下手したら次元流刑地送りだあああ!!」
パニックに陥った二人は、すがるような目で空中に浮いている双子精霊、ノアとノヴァを見上げた。
「ノ、ノア様、ノヴァ様ぁ! お願いです、お助けください! あのタイムパトロールカーを直して……いや、時間を巻き戻して元通りにしてください!!」
二人の哀願を聞き、ノアとノヴァは顔を見合わせて「くすっ」と不敵に笑った。
「えー? でも僕たち、君たちに『逮捕』される予定だしー」
「逮捕されたら助けるなんて出来ないよー」
「そ、そんなこと言わずに! 今までの無礼は忘れてください! あなた方は歴史を改竄した極悪人なんかじゃない! むしろ、混沌とした時代に新しい風を吹き込み、立派な歴史を築いてこられた……いわば歴史の創造主です!!」
ロジの凄まじい掌返しに、俺は思わず二度見した。公務員の矜持はどこへ行ったんだ。
「おっ、いいこと言うねぇ。そこまで言うなら、ちょっとだけサービスしてあげるよ」
ノアとノヴァが指をパチンと鳴らす。
すると、ひっくり返っていた鉄クズの塊が、ビデオの逆再生のように部品を繋ぎ合わせ、一瞬に修復された。それどころか、以前より神々しく発光している。
「直った……直ったぞおおお!!」
「よし、今のうちにずらかるぞ! 帰って報告書を捏造だ!!」
ロジとエラは、俺たちが止める間もなくデロリ◯ンに飛び乗った。
「あ、それじゃあ皆さん、お元気でー!」
爆音と共に、デロリ◯ンは光の輪を描いて空の彼方へと消えていった。
「……あ、行ったわね」
エマがポツリと呟いた。
「バッチリ直ったねー! さすが精霊っち!」
マミが能天気に手を振っている。静寂が訪れた。
目の前には、転生者エルフ軍団。背後には、全身鏡を見つめながら「私は……恋に恋する乙女……」とブツブツ呟いてキャラ変を完遂しつつある、この時代の暴君ニコタール。
そして、俺たちの乗ってきたデロリ◯ンはない。
「…………なあ。」
俺は、去っていったデロリ◯ンの残像を見つめたまま、叫んだ。
「俺たち、どうやって帰るんだよー!!?」




