教育が必要みたい
「だれだお前ら?」
男の野太い声が頭上から降り注ぐ。見上げれば、丸太のような腕に、鋼のような大胸筋。5300年前のレンレンの部下だろう男に怪しいものを見る目を向けられる。
「あ、えーっとね、あーしたちは……」
マミが正直に「未来から来た」とか「レンレンに会いに来た」と言いそうになったので、俺は慌てて念話で割り込んだ。
『マミ、ストップ! 俺たちがそんなこと言って信じてもらえるわけないだろ!』
「なんだ、この羽音のうるさい虫は。……もしや、城に忍び込もうとする魔物の偵察か?」
男が巨大な斧に手をかける。ヤバい、物凄い殺気だ。当然マリンが反応し懐のナイフを抜き、エマも指先に黒い炎を灯しかける。ここでやり合ったら、ロザリーを見つける前に歴史が物理的に終わる!
『待て待て待て! 違うんだ! 俺たちは、その……ニコタール様の家来になりたくて面接に来たんだ!』
「なに……? ニコタール様の家来だと?」
男の手が止まる。俺は畳み掛けた。
『そうだ! ニコタール様の右腕になりたくて来たんだ!』
「……ニコタール様の右腕は俺だ。殺すぞ?……」
あっ、やっちまった。男がまた殺気だってしまった。
「そのくらいの意気込みで仕えたいという意味よ。勿論、右腕はセンパイのあなたよ!」
「センパイ……良いだろう。入れ! ニコタール様は今、城の奥で『退屈だ、何か面白いものを持ってこい』と暴れておられる。面接はちょうどいい暇つぶしになるだろう」
城の扉が重々しく開く。俺は冷や汗を流しながら、フォローしてくれたエマに感謝を伝える。
『ありがとな、エマ!助かったよ』
『コーセーもまだまだね。』
通された城内の壁には巨大なドラゴンの爪痕が装飾のように残されている。歩いているのは筋肉隆々の戦士か、怪しげな術師ばかりだ。
「さあ、着いたぞ。この奥が玉座の間だ」
玉座の間の扉を開き自称右腕が俺たちを玉座に座る男に紹介する。
「……何だ、その貧相な虫けらどもは。俺様を笑わせに来たのか?」
玉座にふんぞり返る黒髪の益荒男は、破壊の精霊に相応しい鋭い眼光を放っていた。過去のレンレンであろうニコタールが傲岸不遜に言い放つ。現代のレンレンからは想像もつかない、刺すような殺意を孕んだ「俺様」口調。その瞳は、ただ退屈を紛らわすための獲物を探している肉食獣のそれだ。
「レンレンっち、その喋り方草生えるんだけど〜」
あっ!?マミを連れてきたことを一瞬で後悔した俺は念話で冷や汗を流しながら、必死に言葉を取り繕うとした。
『え、えーっと。ニコタール様! 俺たちは、貴方様の退屈を紛らわせるためにやってきた』
「あ? 俺様は虫を飼う趣味なんてねえぞ。……それより、その後ろにいる小汚ねえカエルは何だ?」
ニコタールの鋭い視線が、キアラとノッテが憑依している精霊王に注がれた。
「……ほう。その薄汚いツラ、精霊王モーモーじゃねえか。影に隠れてコソコソと……。さては貴様、ついに腹を括ったか? どこの馬の骨とも知れぬ刺客どもを雇って、この俺様を『討伐』しに来たってわけだなぁ!」
「「……レンレンのくせに不遜な態度ね。お姉様、少し教育して良いですか?」」
憑依しているキアラとノッテが、精霊王の体から飛び出し臨戦態勢を取る。
「ハッ、 光と闇の双子じゃねーか!お前らとなら殺り合うのもいい退屈しのぎになりそーだ」
「えっ、あーしたちは別に討伐なんて――」
マミが叫ぼうとした、その時だった。
時空を越えた移動の負荷が原因か分からないが、効果時間がまだあるはずの飴の限界がきたのか、俺達の体が元のサイズに戻ろうとしているのが分かる。
「え……? ちょっ、ちょっと」
ドォォォォォン!!
城内に凄まじい魔力の奔流が吹き荒れ、俺たちは一瞬にして元のサイズへと膨れ上がった。
「……面白い。姿を偽って近づき、一気に本性現して叩く算段か。カエルの分際で、なかなかえげつねえ策を練るじゃねえか!」
ニコタールがニヤリと、狂気に満ちた笑みを浮かべて立ち上がる。その手には、現代の彼女が持つ「魔法ステッキ」などという可愛いものではなく、どす黒い魔力を放つ、無骨で巨大な戦槌が握られていた。
「いいぜ……。まとめてかかってきな。その小癪な首、一つ残らず俺様の玉座の飾りに加えてやる!!」
「待て! 誤解だ! 俺たちは――」
俺の叫びも虚しく、ニコタールは一気に地を蹴った。
「問答無用! ――死ねッ!!」
凄まじい風圧と共に、戦槌が俺の鼻先へと振り下ろされる。
まずい、この時代のニコタールは、話し合いなんて単語を知らない時代の暴君だった。
「ちっ! クルスがいないなら、俺しか、この物理は止められないか! 」
俺は刀を抜き馬鹿力をギリギリ受け止める。マジ、レンレン覚えてろよ!現在のレンレンに八つ当たりすることを心に誓い、応戦する。
「……コーセー、援護するわ。ちょっとレンレンにはホントに教育が必要みたいね。キアラ、ノッテ、マリンも手伝って。アカリあんたもよ」
「「もちろんですわ、お姉様」」
「了解」
「エマ様との共闘初めてっすね」
皆が戦闘態勢をとる中、タイムパトロールの2人は隅でガクブルしながら抱き合っていた。何なんだこいつら……
ロザリーを追ってきたはずが、「最強の味方」が「最悪の敵」として立ちはだかるまさかの展開に。
こうして転生して始めてのガチバトルが幕を開けた。




