いい身分ですね
海底国家でのマリン救出劇から、早いもので3ヶ月が過ぎた。
俺たちは冒険者ギルド『イーサ支部』を拠点に、日々ちまちまとした依頼をこなしていた。
「……よし、これで今月の徳ポイントマイナス分は返済できたぞ」
この2ヶ月、俺たちは主に「迷子の猫探し」「お年寄りの荷物持ち」「村の側溝掃除」といった、驚くほど地味で、それでいて確実に徳を稼げる人助けばかりの依頼を選んできた。ギルド支部長のユータからは「頼むからSランクに相応しい依頼を受けてくれ」と言われたが、貴族の護衛だとか、ダンジョン攻略だとか、銭は増えても徳ポイントにならない依頼などクソ喰らえだ。今の俺にはそんな余裕は無い。そう、あれは二ヶ月前の夜だった。
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「あー、今日の依頼は稼げたなー。《Sランク冒険者による講習会》2時間で、1人金貨20枚の仕事って最高だわ〜」
「そうね、ただ私はもうこの仕事はゴメだわ」
「あー、エマの受講者数やばかったもんな」
エマは眷属のハチ達を使い戦闘訓練をしたのだが、その受講者数は定員100名を軽く超え200名の受講者がいた。殆どが、エマの美貌に魅せられた冒険者ばかりだったが。ちなみにエマのファンクラブはすでに出来ている。
次に多かったのがマミのクッキング教室100名だった。こちらは女性冒険者と何故か本職の料理人が多数参加していた。あと、数名ロリ疑惑のある冒険者も参加していた。
次がマリン。80名ほどの参加者がいたが…うん、詳しくは語れないが、受講者は幸せそうだった。
次がクルスだ。50名のマッチョ達がクルスの重力魔法で負荷をかけられながら一糸乱れずスクワットをする姿は普通に凄かった。
そして俺の30名。俺は新人冒険者と模擬戦。特筆することもなく。
ランク外として、さるゆきはギルドの通信システム更新と職員向けのパソコン教室みたいなのをしていた。
そしてレンレンは、ギルドの隅でイジケてた。
「まあSランクの依頼割が良いから、イーサの街にフェイタル・ガーデンの屋敷買えたし順調よね〜」
エマとそんな話をした、皆が寝静まった夜だった。
寝ていたハズの俺は何故か前世の怖い人達の事務所みたいな所にいた。俺は、そんな事務所で黒服スキンヘッドグラサンの集団に囲まれていた。そして目の前の派手なスーツを着たボスらしきインテリヤクザ風な男が話しだした。
『おたく、ずいぶんと金稼いでますねぇ?』
『ああ、まあはい順風満帆…デスネ』『で?』
『…で?とは、ど、どういったイミデショウ?』
『気づいてますよね〜?さっきから目がうちの社訓みてますよ?』
一つ。貸した徳はトイチで回収
一つ。借り逃げ許さぬ、地獄の取り立て
一つ。、、、、
『で?今月の徳返済もしないで金稼いでいい身分ですね』
『……………す、スイマセンでした。しばし、しばしお待ちをー』
『まあ、良いでしょう。次は…身柄さらいますよ?』
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そう。前世でも経験したことの無い、恐ろしい取り立てに遭ったのだ。翌日から俺のダークフォンには1時間置きに徳ポイントの督促メッセージが入るようになった。流石にパーティーメンバーに迷惑は掛けれないので、この2ヶ月は、俺とエマの2人で活動し皆には自由行動をしてもらっていた。その甲斐あって順調に返済されつつあったので今日は久しぶりの完全休日を取ることにした。
拠点としているイーサの屋敷で、俺たちは思い思いの時間を過ごしていた。
エマはテラスで優雅に読書、マリンは不特定多数の相手に恋文と言う名の呪いの手紙を書き、マミは俺がオーダーしたトンコツラーメンの試作を、レンレンは鏡の前で新しい決めポーズの練習。クルスは庭で「零戦の盾」のワックスがけに余念がない。さるゆきは、2つの会社の経営会議に出かけており、留守だった。
「……平和だ。これだよ、俺が求めていたスローライフは」
俺がエマの淹れた紅茶でひと息つこうとしたその時だった。
リビングの中央、何もない床の上に、突如として禍々しい魔法陣が浮かび、光が溢れ出した。
「な、なんだ!? 敵襲か!?」
「……この魔力、覚えがあるわね」
エマが本を閉じ、鋭い視線を光の渦に向けた。光が収まった後……そこには、額から二本の鋭い角を生やし、虎柄のナース服?を着た赤髪ショートボブの女が立っていた。
「……え? オーガの獣人?」
俺がポカンとしていると、エマは鼻で笑いながら立ち上がった。
「違うわ。あれは『獄卒』。……元、私の部下ね」
「エ、エマ様ぁぁぁ!!やっと、やっと 見つけましたぁ〜!!」
「アカリ、久しぶりね」
え!?どういうこと?




